紅い海  ― If I can't be yours.


エピローグ「覚醒」


目が醒めた。あまり気分は良くなかった。
「アスカ・・・!!」
名前を呼び、あたりを見回して、完全に眠気が吹き飛ぶ。
そこには、太陽の如き輝きを放っていた麗人はすでに無く、ただ、紅いプラグスーツと、
そして、一通の手紙が残されていた。
僕は、半ばわななく手で、手紙の封を切った・・・。


[シンジへ。

いろいろあって疲れたわね。
わたしもくたくたよ。
でも、こんなはずかしいかっこ、
シンジに見られたくないからね。

私、ヒカリのうちに厄介になるわ。
ミサトも死んじゃったみたいだし、
何より、これ以上、シンジと一緒にいてはいけない気がする。

あんたが私の首を絞めた訳、
それは、多分あんたの心の中に、私の積極的な、淋しい心が混ざってたから。
私が「気持ち悪い」って言った訳、
それは、多分私の心の中が一つじゃないような気がしたから。

だから、
私もあんたも、
独りで生きていかなきゃいけない。
ずっと考えていて、ようやくこの結論に達したわ。

みんなの生き死にを聞かされたとき、
あんた耐えたわね。
正直、見直しちゃった。

私はまた壊れる寸前だった。

ちょっと、情けないけど、
わたしはわたし。
一人でも、何とかやってみせる。
あんたも、しっかりやりなさい!

紅い海には、あんたは絶対、入ったらだめだからね。

それじゃ、また。同窓会か何かで。

Auf  wiedersehen!!]


そうか・・・。
やっと、全てがつながった。
僕がアスカの首を絞めた訳も。
アスカが僕に「気持ち悪い」って言った訳も。
ケンスケが話してくれた、皆の生き死に、そして不明者。
トウジが話してくれた、「望むなら世界をも変える力」。

僕は立ち上がった。
アスカの足跡は残っている。
それに目もくれずに、僕は歩いた。
ただ、紅い波打ち際へ向かって。
プラグスーツを脱ぐ。
そして、
紅い海に全身から飛び込んだ。

っつ!!
ものすごい、破壊の念、破滅の念が僕の頭に響いてくる!!
この紅い海の中には、僕のせいで、まだこの世界にも戻ってこられない多くの人、死んで
しまった多くの人の意識がそのまま入っている。
様々な意識が、僕を紅い海の中に引き摺り込もうとしている!!
それもいい、このまま飲み込まれてもいいかもしれない。でも・・・!!

「僕にはやらなければいけない事があるんだ!!」

自分に一喝した。そして、僕は叫び続ける。


「アスカ!

アスカのお陰で、ようやくすべてわかったよ。
僕がいると、アスカはアスカでいられないんだ。
アスカがいると、僕は僕でいられない。
お互いの心が、あの時少し混ざり合っちゃったんだ。
そうだろう?

僕は、
アスカに、堂々と生きていって欲しい。
輝いているアスカを眺めていると、僕も楽しくなるから。

でも、僕が生きていると、アスカにとって邪魔なのかもしれない。
アスカが本当に輝いていたあのころのアスカに戻る為には、僕が死ぬのが一番の近道かも
しれない。

でも、
僕は、
生きるよ。

少なくとも、自分から命を絶とうとは、思わない!!

アスカも、僕も、
さっき、ケンスケの無茶な訓練を受けているとき、
心から笑えたよね!!
トウジと、委員長が仲良くしているのを見ているとき、
心から幸せだったよね!!

たとえ、
少しくらい前の僕達から外れちゃっても、
君は、
惣流―アスカ―ラングレーなんだし、
僕は、
碇シンジなんだ!!

僕達はここにいても、いいんだよ!!」


その、瞬間、
紅い海の、自分を取り囲んでいた部分が、透明になった気がした。

この、言葉が、
この、想いが、
いつ、アスカに伝わるか、わからない。
伝わらないかもしれない。

でも、
今はこれで、いいじゃないか。

猛烈に疲れていた。
僕は紅い海からゆっくりと体を引き揚げ、
砂の上で再び、今度は深い眠りについた。
今後、どうなるのかは、わからない。
何に向かって、生きるのか、
それさえもわからない。
でも、今はやれるだけの事をやった。
それでいいじゃないか・・・。

紅い海は、誘い、そして拒むかのように、
全ての人の前に平等に、潮の満ち引きを繰り返している・・・。

終劇

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