夏の行方

Written by Eiji Takashima

第十話 君の風



既に、今日の日は午後を迎えていた。
夏の長い日は、何故か僕達にそれがいつまでも続くような錯覚を覚えさせる。
そしてそれはあくまで錯覚だったけれど、半ば現実でもあった。

人は皆、いつまでも走り続けることは出来ない。
走り疲れて、もういい加減家路に就こうと言う考えが頭の中に過ぎった時、それが夏の日の終わる頃合いだった。

大人になるに連れて、時間の間隔が短くなる。
一日一日があっという間に過ぎ、気がつけばもう宵闇のヴェールが天を覆い尽くしている。
それは別に、楽しいからと言う訳ではない。
きっと大人は子供よりも、しなくてはならないことが多すぎるからだろう。

でもそんな時、ふと時間を手に入れたりする。
それは何もしなくてもいい時間。
そして、何もしないでいるにはもったいなさすぎる時間。
だからそんな時、人はいつもとは違った何かを求める。
足りない睡眠や、滅多に会えない友達や、手の込んだ時間のかかる手料理。
大抵そんなことで貴重な休日の時間は潰れてしまう。
でも、それはそれで楽しくて充実していると知りつつも、それだけでは満足出来ないと感じる時もある。
そして、そんな行き場のない情熱のようなものが、僕達をどこかへと駆り立てる。
そう、それが旅のはじまりだった。


僕はまだ、現実を感じるほど疲れてもいなければ満足もしていなかった。
ここは僕達の家から適度に遠い群馬県。
旅行と呼ぶには実に中途半端な距離かもしれない。
そしてそれは僕の感覚を狂わせる。

遠すぎれば宿泊のことも考えるし、もう帰らなければならないとも思う。
反対に近ければ、帰りの時間などさほど気にすることもない。
だが、今の現状は実に中途半端すぎて、それが僕の注意力を散漫にさせていた。


「高木さん、これからどうします!?」

篠崎さんの手を取って饅頭屋を飛び出した僕。
しかし、別に行き先にあてがある訳じゃなかった。
現に僕達が沼田で降りたのだって、本当に偶然の産物に過ぎない。
それを思うと、少しだけ自分の浅慮を後悔したりもした。

「そうですね……篠崎さんは行きたいところとか、あります?」
「ええと……私、あんまりこの辺は詳しくなくて……」

僕が話を振ると、篠崎さんは少し恥ずかしそうにそう答えた。
でも、変に詳しい方が不自然だ。
だから僕は篠崎さんを安心させようと軽く笑いながら告げる。

「知らなくて当然ですよ。今まで来たことの無い土地なんですから」
「……それもそうですよね」

篠崎さんは破顔する。
ちょっとしたことでくるくる表情の変わる彼女。
それは女の子に特有な性質の一つかもしれなかった。
そして僕にはそれがないだけに、微かな羨望の眼差しで見つめる。
この旅の間に僕を笑うことに慣れさせると言った篠崎さんだけれど、どうもそれはなかなか難しいことだと思う。
それよりも僕は篠崎さんがそう思ってくれること自体が嬉しかった。

そして僕はそう思いながらぐるっと周りを見渡してみる。
何もないように思える中にも、そこには必ず何かがある。
少なくとも、ここには都会にはない風が吹いていたから……。

「そうだ……」
「何です、高木さん?」
「さっき見たあのバス……あれに乗ってみませんか?」
「あ、いいですね!!」
「でしょう? まあ、どこに行くかはわかりませんけど……」
「わからないほうが面白いですよ。わかってたら、つまらないです」

こうして、僕の提案は篠崎さんの全面的な賛成を受け、実行される運びとなった。

田舎道を走るローカルな路線バス。
別に観光者のためではなく、あくまで地元民に対してのものだった。
こういう路線バスは得てして赤字操業なのが常だったりする。
まあ、僅かな近隣の乗客の足として必要不可欠なものだから、こうしてなくならずに残っている。
だから、本当に必要最低限のものでしかない。
バスの車体もどことなく古く、それが僕にどことなく懐かしい感情を呼び起こす。

懐かしさと言う感情は、つい最近実感するようになった。
それは、僕が大人になってしまったからなのかもしれない。
ちょっと前までは、ただ前しか見ていなかった。
と言うか、過去など何の意味も持たなかったのだ。
毎日毎日が輝いていて……それが輝いていると気がつかないくらいに眩しかった。

多分、それは今でも変わらないかもしれない。
ただ、ふと後ろを振り返ってみることが多くなった。
何もすることがない時、僕の頭は何かを求める。
そんな時、ちょっと懐かしい出来事が思い出されたりするものだった。

そして今、僕はそれに近い状態にある。
旅と言うのは、旅情と言うのは、自分が置いてきてしまった大切な何かを感じることなのかもしれない。
そして、それを思い起こしてそっと涙してみる。
本当に涙は出ないけれど、泣けたらいいのにと思ってしまうようなくらいに胸に染みた。

そしてこのバス……僕は別に見覚えもない。
でも、この沼田の風景にはぴったりと当てはまっているように見えた。
動くバスが、止まっている過去を鮮やかに蘇らせる。
セピア色のポートレートに色彩を与えて行く。
過去が現実と繋がって……それが僕の視界に飛び込む。
僕は篠崎さんのことも忘れて、ただじっとこの沼田駅前の光景を眺めていた。
しかし――

そんな僕に爽やかな風が吹く。
それは夏の風だった。
この風があるから、僕達は夏を嫌いにならないのかもしれない。

止まった世界は気温を高めるだけだ。
だから、風が動かしてくれる。
風は空気の流れ。
それだけのはずなのに、それだけでは終わらない。
この大きな入道雲を生み出しているのも風。
そして、僕達にちょっとした季節の変化を教えてくれるのもまた、風の役割だった。

風は僕に、そして篠崎さんに、夏へとまっしぐらに向かっていることを教えてくれる。
雲は東へと速度を上げる。
次々へと新しい雲がやってきて、そして季節を変えて行く。
ほんの数分の流れでも、明らかに季節は流れていた。
それはほんの僅かなことだとしても、風が僕達にその事実を教えてくれていた……。


篠崎さんの髪が軽く揺れる。
無意識に篠崎さんはそっと手で髪を押さえたが、不快感を覚えたりする様子はない。
むしろ、風の無言の呼びかけを、そっと耳を澄まして聞いているかのようだった。

「次……来たバスに乗りましょうか?」

僕はそんな篠崎さんに呼びかける。
それは風と対話している篠崎さんの邪魔をしているかのようだった。
僕は別に篠崎さんを不快に思った訳じゃない。
ただ、このまま彼女が僕を置いてどこかに行ってしまうような気がしたからだった。

「あ……ええ、そうですね、高木さん」

そして、篠崎さんは僕に笑顔を見せる。
その屈託のない表情は、僕の胸をちくりと刺す。
僕は篠崎さんに、自分を現実に繋ぎ止めて欲しいと思ったが、彼女は反対なのだ。
篠崎さんは風を、自分を大空に羽ばたかせてくれる風を求めた。
そして、この僕を一緒に飛んでくれる相手だと思ったはずだ。

現に、僕は飛べる。
篠崎さんと一緒に飛ぶことは、この僕には可能だった。
しかし、僕はそのままどこかに自分が飛んでいってしまうのではないかと恐れた。
それは、現代社会に生きる人間としては不適当だと思えたからだ。

懐かしさは、それと同時に僕に一抹の不安を覚えさせる。
それは甘すぎるだけに、溺れてしまう危険性があった。
この懐かしさに身を投じて、篠崎さんと共に飛び立てばどれほど気持ちいいだろうか……。
しかし、終わりは常に来るのだ。
旅が終われば、僕達に待っているのは日々のルーチンワーク。
それは夢が甘ければ甘いほど、虚しく思えるものだった。

だから、夢を見過ぎていは行けない。
もっと現実を噛み締めつつ、生きなければならないのだ。
しかし……僕は明らかにこの非日常に魅了されていた。
そして、それを象徴する篠崎さんと言う存在にも……。



「本数、やっぱり少ないですね……」

バス停の時刻表を見て、篠崎さんがそう言う。
僕もその言葉に引かれて目をやった。
するとこの昼間の時間でも一時間に二本か三本。
明らかに多いとは言い難かった。

「仕方がないですよ。それよりも次は……」
「えっと、もうすぐ来るみたいですね。ラッキーです」

腕時計を見ながら篠崎さんが言う。
周囲には、そのバスに乗ろうと言う人々の存在も僅かにではあるが見受けられた。

「じゃあ、それに乗りましょう。どこで降りるかは気分次第と言うことで」
「はい。いいところに辿り着けるといいですね、高木さん」
「そうですね……篠崎さんが僕の趣味と合うかどうかはわかりませんけど」
「大丈夫ですよ」
「どうして?」
「だって、高木さんは私に合わせてくれるでしょうから……」
「……やっぱり敵わないな、篠崎さんには……」

僕は軽く苦笑して言う。
でも、そう悪い気はしなかった。
篠崎さんの好みと言うのは僕にも大体知れているし、これから行く先に変なところがあるはずもなかった。
それよりもむしろ、何も面白そうなところがないかもしれないのが実状だ。
僕は別にそれでも構わないけれど、篠崎さんは……まあ、そこは女の子の感性で、何か見つけてくれることだろう。
そして僕は、それをあてにしていればいいだけだったのだ。



「あっ、バスが来ましたよ。これかな……?」

先程バスが登っていった坂を、今度は別のバスが下ってきた。
登る時は辛そうでも、降りる時はスムーズなものだ。
坂の前の信号に引っかかることもなく、バスは駅前に辿り着いた。

「結構降りる人もいるんですね……」
「まあ、駅前ですから。それにそんなに田舎って言う訳でもありませんしね」
「そう言えばそうですね。どうも私、埼玉の感覚が抜けなくって……」

篠崎さんはちょっと恥ずかしそうに言う。
でも、僕はそんな篠崎さんに軽く笑って応えた。

「僕も同じですよ。でも、埼玉県民なんだからしょうがないですよ。それにだからこそ群馬が新鮮なんです。
風も、埼玉の風とは全然違うでしょう?」
「そうですね。いいとは思いますけど、やっぱり住むなら埼玉が一番だって思えますし……」
「だから、所詮僕達は旅行者なんですよ。そして今は、それを満喫すればいいと思います」
「なるほど。流石は高木さんです。あ、こっちに来ますよ」

そう言って篠崎さんは僕に促す。
僕達が待っていたバス停のちょっと手前で乗客を全員降ろしたバスは、滑るようにそのままバス停までやってきた。
そして入口が開く。
いつのまにかちゃんとした列を形成していた僕達乗客は、順番に中へと乗り込んでいった。

「整理券、取り忘れないで下さいね」
「わかってますって。私、子供じゃないんですよ」
「ははは……済みません。そうですよね。篠崎さんは立派な大人ですよ」
「あっ、その言い方ちょっと気になります」
「何でもありませんよ。さ、座りましょう」

ちょっとからかうように言う僕に、篠崎さんは頬を膨らませて不満の色を表す。
僕はそんな篠崎さんを受け流すように、座席へと招いた。

「あ、一番後ろがいいな。広いしよく見えるし……」
「はいはい」
「あ、そっちの前の窓も、開けてもらえます?」
「わかってますよ、篠崎さん」

最後部の座席に陣取った僕と篠崎さん。
僕達以外の乗客もいるとは言え、座れない客が出るほどでもなく、他の人々は皆前方の席を選んでいた。
それはそれぞれ単独一人のお客だと言うことに起因しているからだろう。
僕自身バスに乗る時はあまり後ろの席は選ばないし……。

だが、篠崎さんは一番後ろの特等席を占拠しただけでは済まさない。
自分の席の窓だけでなく、その前の座席の窓も開けたがったのだ。
まあ、このバスは一世代前の旧式と言うこともあって、冷房車ではない。
だから窓を開けておくのは普通かもしれなかったけれど、自分の座るところ以外の窓も開けさせるとは……。
そこが、篠崎さんらしいところと言えば、それまでかもしれないけれど。



乗客全員を乗せてからしばらく発車時刻を待っていたバスも、ようやく動き始めた。
テープのアナウンスがバスの次の停留所を告げる。
聞いたこともない地名だけれど、お馴染みの一連の流れに僕は少し心を和ませていた。

そして篠崎さんは後ろを向いて景色を眺めていた。
今までいた場所が遠ざかっていくのはなかなかに妙な心地がする。
電車でも、何故か一番前と一番後ろを好む人は多い。
横のありきたりな流れ行く光景でなく、やってくる光景そして去って行く光景が、特別な何かを感じさせてくれるのだろう。
篠崎さんがそんな感覚でいたのかどうかはわからなかったけれど、その瞳は輝いて見えた。
そして、僕はそれだけで充分な気がした……。



バスが揺れながらあの坂道を登る。
遠くから見ていたあの光景も、今度は自分がその場に遭遇している。
そうなるとあまり実感が湧かなくて、少し拍子抜けした。
篠崎さんは別にそんなことも思ったりはしていないようだけど……。

「どうかな、このバスは?」

そして僕は篠崎さんの横顔に呼びかける。
幾分バスからの光景にも飽きてきたのが実際のところだ。

「いいです、凄く」
「そう……よかった」
「高木さんは、いまいちですか?」
「えっ、どうして?」
「だって、あんまり楽しそうじゃありませんから……」

視線を変え、僕の方を向く。
それは普通のことだったけれど、僕は少し意外に感じた。
景色を楽しむ篠崎さんは、大抵視線は変えずに僕の言葉に応えていたから。
そして、その表情は僕をどきっとさせる。
篠崎さんは僕の中に何を見ているのだろうか……?

篠崎さんでなくても、今の僕があまり楽しそうでないことくらい、すぐにわかるだろうと思う。
だが、篠崎さんの言葉はそれだけではないような気がした。
僕自身が気付かない何かを……。
それは僕の気のせいかもしれない。
でも、今は自分の直感を信じたいのもまた事実だった。

「そう……かな?」
「ええ。どうしたんです、一体?」
「……ちょっと、飽きたのかもしれない」
「そうですか……」

僕の言葉に、篠崎さんは少し寂しそうにする。
今まで僕達二人は嗜好もぴたりと合っていただけに、急に合わなくなったことは予想以上に篠崎さんの心に影を落とした。
そして僕はそれを知りつつも、何も出来なかった。
自分でも、何故なのか理解が出来なかったからだ。

「ごめん……でも、別に篠崎さんが気にすることじゃないよ。さっき言ったと思いますけど、篠崎さんに合わせますから……」
「高木さん……」

別にこの状況が嫌な訳じゃない。
でも、篠崎さんとこうして会話を繰り返していくうちに、どんどんと景色に対して興味を失って行く自分がいた。

「…………」

そして、僕はそっと視線を逸らす。
篠崎さんの僕を見つめる視線が辛かったのだ。
篠崎さんは何も悪くない。
悪いとすれば、この僕の方だ。
別に篠崎さんは僕を責めている訳じゃないけど、でも――

「こっち、見て下さい」
「えっ?」

突然、篠崎さんの手が伸び僕の頬に触れる。
僕は驚いて篠崎さんの方に視線を戻した。

「高木さんが嫌なら、私もバスを降ります。そんな嫌なのに無理矢理なんて、私が嫌ですから」
「篠崎さん……」

きっぱりと言う篠崎さん。
その瞳は真剣そのものだった。

「私が悪かったのかもしれません。高木さんを放って置いて、景色ばかり見て……」
「そ、そんな……」
「高木さんと一緒にここまで来たから、高木さんと一緒に感じたいんです。そして、高木さんと一緒に何かを見つけられたら……」
「…………」
「高木さんが飽きたのなら、一緒にお話しましょう? バスだって所詮は移動機関ですから」

篠崎さんは笑って僕に呼びかける。
しかし……この僕は篠崎さんにとって、バスや電車以上のものだったのだろうか?
異郷の景色を捨て、僕と話をしようと言ってくれる。
まさか僕がそこまでの存在だったなどとは、思いもよらなかった。

「それに、お話しながらでも風は吹いてますから。ほら……」

そう言って、篠崎さんは自分の髪に手をやる。
バスの窓から来る強めの風は、篠崎さんの髪をやや乱していた。

「私の髪……触ってみて下さい」
「えっ、いいんですか?」
「はい……高木さんに、感じて欲しいんです。私が感じているものを……」

篠崎さんは静かにそう言う。
僕はその言葉に応えて、恐る恐ると手を伸ばした。

「じゃ、じゃあ……」
「遠慮しないで下さいね。別に減るものじゃありませんし……」
「…………」

確かに減るものではない。
でも、篠崎さんにとってその髪の毛は特別だった。
自分でも「風を感じるためのアンテナ」とまで評していたのだ。
それをこの他人の僕に、自分から触れさせようとするなんて……。

「どうです?」
「……つややかですね……」
「何か、感じましたか……?」
「いや……」
「高木さんなら、わかるはずです。だって……私が、選んだ人だから……」
「篠崎さん……」

僕は言葉を失ってしまった。
いや、今は言葉なんて要らないのかもしれない。
そして僕は、今の気持ちを大切にしたい。
このまま篠崎さんを抱き締めてしまいたい衝動を抑えつつ、僕は篠崎さんの髪を触れ続けていた。

篠崎さんは、僕に何を感じて欲しかったのだろうか?
それは、ただ単に風だけではない気がする。
僕は明確にはわからなかったが「何か」は感じ取れたような気がした。
言葉には表現出来ないような何かを……。


僕はやはり恐れていたのかもしれない。
篠崎さんとこのまま同調し、どこかへと行ってしまうことに。
しかし、篠崎さんはそんな僕の心に触れてくる。
そっと、静かに。

そして、篠崎さんの髪に触れているうちに、僕のそんな思いは氷解して行く。
一人でなく二人で一緒に飛べば……見えてくる世界も違ってくるだろう。
篠崎さんは、僕にそれを教えてくれたのかもしれない。
一人では、何の意味もないことを……。

風が吹く。
篠崎さんの黒髪が揺れる。
僕の手から、その動きが伝わる。
そして、篠崎さんは僕を見つめる。
流れ行く車窓の景色は、最早存在していなかった。
篠崎さんは僕のためにそれを捨て、僕はただ、篠崎さんの作り上げた世界をそっと受け止める。
そこには、僕と篠崎さん、そしてその間を流れる風があるだけだった。

「どうですか、高木さん……?」
「……感じたよ、僕は……君の風を…………」

そして僕はそっと優しく微笑む。
篠崎さんもそんな僕に静かに微笑み返してくれた。

「今の微笑み、私は好きです……」
「あっ……」
「凄く自然で、綺麗でした。ようやく本当に笑ってくれましたね、高木さんも……」

そして篠崎さんはもう一度微笑む。
やっぱり彼女は笑顔の綺麗な少女だった。
僕は心を和ませながら、静かに篠崎さんの黒髪を優しく撫でる。
艶やかで滑らかなそれは、僕にはないものを感じさせてくれる。
それが何なのか、今ははっきりとわからない。
でも、僕は敢えて思考を巡らせたりはしない。
ずっとこうしていたいと感じたまま、ただ篠崎さんの顔を見つめていた……。


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