街の裏通り。
陽の当たらない場所。
夏も終わり、秋が来ようとしている季節。
動かない人形を抱えた男が、歩いている。
男・・・柳川は・・・不意に立ち止まる。
柳川の正面に、彼を睨みつける男がいる。
その男・・・長瀬源五郎・・・セリオの父。
彼は、こう言った。
「娘を返してもらいに来た。」
と。
「僕達の背に羽根は無いから」
作:山田@失楽園
「・・・まったく、父親にさからってばかりの娘だった・・・」
長瀬は、柳川の腕の中のセリオに触れる。
「君が、殺したようなものだ。」
長瀬が、柳川を睨みつける。
柳川は・・・無言だった。
「娘を、返してもらう。いいね。
・・・あくまでこれは、不良品をメーカーが回収した。ということになる。
ここまでの事件を起こしたんだ。
この娘の関与をもみ消すだけでも大変なことだよ。
この娘は廃棄処分。
こころを・・・『良心』を持たないセリオシリーズは、
その能力の高さ故に悪用され易すぎる。
もうすぐ良心回路を組み込んだHM-13Bが発売され、
このタイプのセリオはハイエンド機から『ただの時代遅れ』の機体となる。
こんな・・・不完全なまま市場に出したのは・・・
いくら『マルチ』の成功に焦っていたとはいえ・・・
馬鹿なことをしてくれたものだ・・・
せめて、後からでも『良心』を組み込めるようにしておいてくれれば・・・」
延々と喋る長瀬の言葉を、
裕也はじっと聞いていた。
「一言、言ってもいいですか?」
「なんだい?」
「愛も無いのに、作らないで下さい。」
「愛しているさ。私は、私なりに、ね。
それに、娘をこんな目にあわせた君よりは、マシだと思うがね。」
「僕は・・・正直言って、あなたを好きになれそうにありません。
でも。彼女を救うには、あなたを頼らなければならないんですね。」
「その通り、だ。」
「動けるようにしてやってください。せめて。
・・・どちらにしろ、記憶は封じられるか、消されるのでしょうから。」
「私は・・・あくまで不良の起こった生産中止モデルを回収し、
廃棄される旧型の部品と供に捨てるだけだ。
・・・少なくとも、書類上は、ね。」
「それでは、お願いします。」
「何処へ行く気だ。君は。」
「・・・・」
隆山へ向かう。
とうとう一人になった柳川は、
しかし・・落ちついていた。
ふと、彼は列車の中で、耕一のことを思い出していた。
外は既に日が沈み、夜がやってきている。
・・・こないだ戦った相手。
・・・俺の甥。
・・・もう一人の、俺。
隆山を故郷とするが、育ったのは別の土地。
父親に捨てられて。
母親に死なれ。
天涯孤独の身。
(そして・・・二人とも、鬼。)
そこまでは一緒だった。
もしも、たった一つ。
決定的な違いがあるとしたら。
俺はいつも、一人だった。
振りかえれば、闇。
冷たい想い出。凍えるような家庭。
そう、俺は寂しかったのかもしれない。
父親が居ない。
母親も居ないようなもので。
友人も居ず。
信じた者には裏切られてきた。。
俺は、産まれてこない方が良かった。
森の中。
目をこらせば、そこは自然。
小鳥は虫をついばみ。
犬猫は、小鳥を食い殺し。
より強い者が弱い者を食う。
そう、世界はこんなにも。
戦いに満ち溢れているのだ。
俺は・・・今まで何を悩んでいたのだろう。
結局、母親に甘えたかったのだろう。
つい昨日までの自分は。
でも、今なら言える。
死んだ母親に。
「愛せないなら、俺を産まないでくれ。」と。
そうだ、俺は生きている。
そして、世界を憎んでいる。
その昔、誰かが楽しみのために何かを殺した。。
それが全ての始まり。
生きる為に食う。
自分が生きるために殺す。
当然だよな。
限られているんだから。
金、地位、名誉。女。・・・愛。
誰かが得れば、誰かが失う。
そう、全ては、奪い合うものなのだ。
太陽は、とっくに沈んていた。
裕也は電車を降りた。
森の匂いがする。
この瞬間も、この森の中でも。
いくつもの殺し合いがあり、
弱いものが死に、そして強い奴が生きてゆくのだろう。
(胸を張って生きてゆこう、今度こそ。)
森を歩く。
裕也は、まるで何処に行けば良いのか解っているかのように、歩く。
半分だけの月が、森を照らしている。
闇が半分。光が半分。
裕也は、通りすがりの生き物を狩った。
生命の火と、血の匂いがする。
だから、すぐに来ると解っていた。
そこは森の中。
少しだけひらけた場所。
『彼』が来るのを待っていた。
森の奥から姿を現わした耕一は、
前と会った時とは、少し雰囲気が違っていた。
しかし、間違えるはずも無かった。
この地上に、たった二人きり。
同じ一族。同じ境遇。
「やあ、待っていたよ。耕一くん。」
何か、吹っ切れたような、
すがすがしい表情で柳川が言った。
「ああ、俺もあなたに会いたかったんです。叔父さん。」
落ちついた表情のまま、耕一は答えた。
「それじゃあ、」
「ええ、前置きはいりません。」
「「決着をつけよう。」」
<続く>
素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。
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