「で、どうだったんだ?」

「『予期できないエラーが発生しました。システムを終了します。』
 だとよ。我が娘ながら、けなげなものだ。」

「どういうことだ?」

「たぶん・・・使用者・・・つまり『柳川』を犯人と断定するに足る情報を
 No.3047は記録していたんだろうな。しかし、それを渡したくなかった、と。
 それで・・・自分で自分を故障させたんだ。」

「仮病をつかった。というわけか?」

「いや。セリオは嘘をつけない。本当にユニットの一部を壊したんだろう・・・」

「・・・まあ、何にせよ。『柳川』が犯人だと思って間違い無いんだな。」

「まあ・・・ね。」

「しかし・・・あいつがねぇ。
 警官として、新米にしてはよくやるし、
 エリートにしては変に威張ったりすることの無い、
 良い奴だと思ってたのに・・・

 ・・・まあ、色々とありがとう。電話、切るぞ。」

「ああ、また。源三郎兄さん」


HM開発主任。長瀬源五郎は、受話器を置いた。


「俺の・・・俺の娘を犯罪補助に使って・・・
 あまつさえ自傷行為まで強要させるなんて・・
 ・・・絶対に、許さん。」






「僕達の背に羽根は無いから」


 作:山田@失楽園







「ふう。さて・・と、データベースを元に戻しておかないとなぁ・・・」

長瀬源三郎・・・刑事。柳川の直接の上司に当たる。

「パソコンってのは、便利だけど、使いづらいんだよなぁ・・・」

キーボードを叩き、重要参考人の欄から『柳川』の名前を消す。

「さて・・と。人が来る前に退散しますかね・・・。」






長瀬源三郎は、『柏木賢治事故死』の件を追っていた。

最近の柏木家は、明らかにおかしい。

まず、およそ1週間前。
『柏木耕一』が行方不明になっている。
警察への届け出は無いが、
隆山では見かけないし、東京の下宿にも帰っていない。

次に柏木千鶴。
1週間前から、探偵などを雇い、何かを探らせているようだ。
しかも、結構資金を使っているようで焦っているのが解る。

柏木楓。
1週間前から、学校を休みがちになっているらしい。
二度ほど尾行したが、捲かれてしまった。

そして、柳川裕也。
アイツは都会の病院に入院しているのだが・・・
意識不明で何も聞けない。
かわいいメイドロボ(=セリオ)が世話をしていたので、
意識が戻ったら連絡をくれるように言っておいた。

1週間前の大量惨殺事件に捲き込まれたのかと思い、
来栖川電工でHM開発主任に出世した弟にちょっと嘘をついて
セリオの記憶を見せてもらおうとした。

盗聴法の問題をデータベース操作でごまかしたのだが・・・

「まさか、アイツが犯人だとはなぁ・・・」



解らないことが多すぎる。




それで長瀬は千鶴の雇った探偵に話しを聞いてみることにした。




「やぁ。久しぶりだねぇ。」

「(ギク)やぁ・・な・・長瀬の旦那じゃないですか。」

「最近、儲かってるんだって?」

「な・・・何のことですかい?」

「君の娘さん。もうすぐ結婚するんだって?」

「へ・・へい。あっしには出来すぎぐらいの娘でさぁ。相手の男も感じのいい奴で。」

「お金がいるんだよね?」

「まっ・・・まって下さい。旦那。金のために・・・あっしは別に、やましいことはしてませんぜ。」

「じゃあ、何を調べてたのか、教えてくれるよね?」

「それは、言えません。契約ですから。」

「・・・娘さん、結婚するんだよね?親父さんが昔の事件でパクられたら・・かわいそうだなぁ・・・結婚も駄目になるかもなぁ・・・」

「旦那・・・」

「教えて、くれるよね??」

「言ったら・・・殺される・・・」

「殺される?誰に?」

「なあ、旦那。あっしが言ったなんて絶対に誰にも喋らないで下さいよ。」

「ああ、約束するよ。」

「鶴気屋の会長で。」

「会長・・・って、あの柏木千鶴って娘か?」

「あっしは、長くこの商売をしてますが、
 あんな怖い人間を見たことは、数えるくらいしかありません。
 あれは絶対に、人を殺すことを何とも思って無い種類の人間でさぁ。」

「そうなのか?・・・それで、何を探ってた?」

「人でさぁ。」

「人?誰だ?それは。」

「柏木耕平の隠し子でさぁ。」

「隠し子?そんなのがいたのか?」

「へぇ。」

「で、そいつの名前は?今、どこにいる?」

「名前は柳川裕也・・・この街で刑事をやってるそうで・・。」
































「・・・それで、それを鶴気屋の会長に話したのか?」

「へい。きちんと書類にして・・たんまり稼がさせて頂きました。へへ。」

「それはいつだ?」

「昨日のことで。」



時間は・・・あまり残されて無いようだった。
長瀬は、鶴気屋へ向かった。




鶴気屋で、出てきたのは社長の足立だった。
「ねえ、お願いしますよ。会長に会わせていただけませんか?」

「いいえ。できません。」

「そこを何とか。」

「できないものは出来ません。・・・それに会長は、出張中です。」

(出張・・・ここには居ない。既に柳川の所へ向かったのか?)

「・・・そうですか。それでは、失礼いたします。」









(時間は無い・・・間に合うか?
 しかし・・・間に合ったとして、どうする?
 まだ、物的証拠は何も無いんだぞ?
 それに・・・既に手遅れだったら?)

長瀬は焦る。
焦燥感だけが無意味に募る。
しかし、彼は・・・柳川のところへ向かった。




<続く>


素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。

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