ねぇ・・・どうしたんだい?
みんな。
なんで、怯えてるの?
梓、楓、初音。
ねえ、どうして?
『イヤアアアァァァァァ!寄らないでっ!化け物っ!』
化け物?・・・僕が?
水面に写る、自分の姿。
「うわああぁぁぁぁぁぁっ!」
「僕達の背に羽根は無いから」
作:山田@失楽園
森の奥・・・
打ち捨てられた廃屋。
おそらく、昔は寺だったのだろう。
耕一は、そこに居た。
額から脂汗を流しながら・・・
折れた足と砕けた腕。
常人なら、とっくに死んでる胸の傷痕。
だが外傷は、今の彼にとって、大したものでは無かった。
父が死んだのは、つい最近のことだった・・・
俺は、泣かなかった。
なんだか遠い世界の出来事のようで。
別に、何も感じなかった。
母が死んだとき・・・父を憎んだ。
だから・・・俺は、あまり泣かなかったような気がする。
俺は人間らしい心など、とっくの昔に無くしていたんじゃないだろうか?
良く見る夢がある。
俺は水の中にいて・・・苦しくて、息が出来ないのに『何か』に足を引っ張られる夢。
水面はすぐそこで、手が届きそうなのに・・・決して届かない。
『俺』はいつから自分を『俺』と呼ぶようになったのだろう?
ねぇ・・・どうしたんだい?
みんな。
なんで、怯えてるの?
梓、楓、初音。
ねえ、どうして?
『イヤアアアァァァァァ!寄らないでっ!化け物っ!』
化け物?・・・『僕』が?
水面に写る、自分の姿。
巨大な身体。
頭に生えた、二本の角。
「うわあああああああああっ!」
もしかして、僕は・・・
父さん・・・どうして僕を捨てたの?
母さん・・・
・・・千鶴さん・・・
『あれはもう、耕一さんじゃ無いわっ!』
・・・梓・・・
『イヤアアアァァァァ!寄らないでっ!化け物っ!』
そう、僕は化け物なんだね。
だから、嫌われるんだね。
だったら。
こんな『僕』はいらない。
・・・初音・・・
『おにいちゃん、やさしいから。』
・・・梓・・・
『あ・・・ありがと。やさしいところ、あるじゃん。』
・・・千鶴さん・・・
『やさしいんですね。耕一さん。』
そうでないと、嫌われるから。
そうだ、本当は・・・
誰も本当の『僕』など、相手にしてくれないんだ。
誰も、本当の自分など、望んではいないのだ。
ほら、梓。
君の靴をとってきたよ。
ちょっと足が痛いけど、大丈夫だよ。
こんなのすぐに治るから。
ね、だから。
泣かないでよ。
なんで泣いてるの?
楓・・・初音・・・なぜ、怯えてるの?
どうして?
僕だよ。
いつもの、僕だよ。
僕は、笑顔を作ろうとして、それが出来ないことに気付く。
梓に、楓に、初音に・・・
差し伸べた手は、既に人のものでは無かった。
『あなたは殺戮の衝動に駆られて、この三人を殺そうとした・・・』
違う!誤解だよ!僕だよ。僕だったんだよ!
殺すつもりなんて無かったよ。
無かったんだよ。
信じてよ・・・信じて下さい・・・千鶴さん・・・
『あれはもう、耕一さんじゃ無いわ!』
そうかもしれない・・・
少なくとも今の俺は、『柏木千鶴の中の柏木耕一』からは、ずいぶんと外れたと思う。
だから俺は、『僕』を深く、暗い、永遠の暗闇に沈めたのかもしれない。
だから『僕』は、いつも溺れる夢ばかり見ていたのかもしれない。
『僕』は今まで、あの水門で溺れていたのだ。
10年間、ずっと。
背を向ける。父さん。
母さんは、いつも泣いてたような気がする。
俺は、泣かなかった。
『落ちついてるんですね。耕一さん。』
だって、俺は・・・
・・・「人間らしい心」を持って無いから。
たぶん。
良く見る夢がある。
僕は水の中にいて・・・苦しくて、息が出来ないのに『何か』に足を引っ張られる夢。
水面はすぐそこで、手が届きそうなのに・・・決して届かない。
『僕』はいつから自分を『俺』と呼ぶようになったのだろう?
そうだ、『僕』は。
表に出たかったんだ。
(そして・・・『あれ』か・・・)
『あなたは殺戮の衝動に駆られて・・・』
そうだ、今まで『僕』は・・・自分を殺して生きてきた。
だから、他人を殺したくなったのだろうか?
さっきの集落を思い出す。
(俺が・・・やった・・・)
もはや、俺は人間では無いのだろう・・・
ギイ・・・
重い音を響かせて、扉が開く。
真っ暗な部屋の中に、
外の光が入ってくる。
光の中に立つのは・・・
「楓ちゃん・・・」
<続く>
素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。
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