女神になんてなれないまま、私は生きる。






「僕達の背に羽根は無いから」


 作:山田@失楽園





秋の始まりを予感させる風が。
部屋を吹きぬけていきました。
あなたは、ただ。
無邪気な寝顔でまどろんでいました。

私はそんなあなたの頬に、触れました。

だけどいつか気付くのでしょう。
あなたの中には。
叔父様や・・・お父様と同じ、
『鬼』が眠っていることに。



あなたはいつか目が覚めて、私の側から去ってしまう。



あなたは何も知らずに眠っている。
私が側にいるのも知らずに・・・

梓が起こしに来るのかしら。
楓に会いに行くのかも。
初音が甘えに来るかも。
それとも・・・『鬼』に引かれてどこかへ行くのでしょうか?


ただ一つ。確かなことは。


あなたはいつか目が覚めて、私の側から去ってしまう。


あなたはずっと眠っている。
私はあなたを見つめている。
青い月明かりが、あなたの首筋を照らしてる。

もしも、願いが叶うなら。

私は、この時を永遠にしたい。












思えばいつも・・・

あなたは私を嫌っていましたね。

覚えていますか?
始めて会った時。

私があなたの頭を撫でようとすると、
あなたは私の手を払いのけましたね。


私があなたの泊まっている部屋へ行くと、
いつも慌てていましたね。


だから、私は。
すこし、寂しかった。


あなたはここへ来るたびに、
梓や楓、初音と一緒に遊んでいましたね。

私は・・・ひとり。
こんなに近くにいるのに。


思えばあなたは、いつも私から奪ってゆきました。
すべてを。

妹達を。
叔父様を。
ささやかな平和を。

千年前は、妹を、 
     一族を。

そして・・・私の心まで。

ねぇ、ご存知かしら?
妹達は、三人とも、あなたのことが好きなんですよ。

私よりも、あなたを。

ねぇ。ご存知でしたか?
叔父様は、あなたに鶴来屋を継がせる気だったのですよ。

私が会長になったのは・・・あなたにこれ以上、奪われたくなかったから。
それが、ホントのこと。

叔父様がこの隆山へきたのは、私達が心配だったからでは無くて・・・
ただ、あなたの中の鬼を目覚めさせたくなかったから。
それが、ホントのこと。

ねぇ、ご存知でしたか?
私達の両親が、死んだのは・・・・
お父様が『鬼』に目覚めたのは・・・
たぶん、あなたが『鬼』を目覚めさせたから。
10年前、水門で。
その後、お父様はおかしくなった。
『鬼』同士が引かれあって・・・お父様は『鬼』になった。



あなたが楓と、前世のことを話している時。
私も思い出しました。

リズエル。

私は、千年前にエディフェル・・・つまり楓を殺し・・・
昨日も、楓を殺そうとしたのですね。


鬼ですね・・・私は。


千年前、あなたは、わたしに復讐しようとした。
でも、殺さなかった。

それはきっと・・・私が楓に・・・エディフェルに似ていたから。

代わりに、私を慰みものにした。


もう、私は・・・あなたを愛しているのか、憎んでいるのか、解りません。
ただ、一つだけ確かなことは。

私の中は、あなたのことで、いっぱいなんです。





なのにあなたは・・・楓を選んだ。





だから、私は。



「あなたを・・・殺します。」























朝の光が、部屋に射し込んでいる。
柏木千鶴は・・・眠いまなこをさすりながら、あくびを一つ。

のどかな風景だった。
いつもと同じ、朝のような気がしていた。


千鶴は着替えると、妹達の待つ食堂へと向かった。
「おはよう、梓。あら?耕一さんは?」

「それが、居ないんだ。昨日一緒だったんだろ?姉さんこそ何か知らないのか?」
と、梓。

「お姉ちゃん、これ、ウチの近くじゃない?」
初音がテレビを見ていて、そう言った。



「・・・死体は、まるで熊か何かのような巨大な肉食獣の爪で切り裂かれたかのようにぐちゃぐちゃになっており、
また、犯人とおぼしき人間も見られなかったことから、
警察は『大型肉食獣のしわざという可能性もある』とのコメントをして、
付近への警戒を呼びかけております・・・」



「まさか・・・お兄ちゃん・・・巻き込まれちゃったんじゃぁ・・・」


「そんな馬鹿な・・・ああ、どうしたんだよ。千鶴姉。」


千鶴は、顔面蒼白だった。

「嘘・・・夢じゃ・・・なかった・・・」


「夢じゃないわ。姉さん。」
楓が、いつのまにか来ていた。


「・・・かえで・・・」
千鶴は、そう言うだけで、精一杯だった。


「じゃあ・・・行ってきます。」
楓はそう言うと、夏の残光の中へ消えて行った。



<続く>


素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。

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