「・・・?」
「アスカ、どうしたの?」
「え?あ、ほらあそこ」
「ん・・なんだろ」
「行ってみましょ」
「そうだね」
「・・!?」
「アスカ、この猫ケガしてるよ!?」
「見りゃ分かるわよ!シンジ、早く連れて帰らないと」
「分かってるよ!」
聖夜、そして
「・・・これで大丈夫だと思うよ」
小猫のお腹に包帯を巻き終わり、一息つくシンジ
横ではアスカが、小さいお皿にミルクを入れていた
「はい」
そのお皿を小猫の前に置き、頭を優しく撫でる
先程までバタバタしてて分からなかったが、綺麗なオフホワイト色をしている
どうやら誰かに飼われていたが、何かの理由で捨てられたか、逃げてきたようだ
「シンジ、これからどうする?」
「さあ・・とりあえずこの猫の飼い主を捜さないと」
「それは分かってるわよ、あたしが言ってるのは、この猫の世話はどうするのってことよ」
「うーん・・・じゃあ見つかるまで僕の家で飼うよ」
「大丈夫?」
「たぶん・・・けど父さんと母さんが許してくれるかどうか」
「あたしからも頼んであげるわ」
「うん、お願い」
「あら小猫?ええ、OKよ」
「ああ、問題ない」
「「え・・・」」
肩透かしを食らったような気分のシンジとアスカ
たぶん反対するだろうと思い言い訳を考えていたのだが、良い意味で無駄になってしまったからだろう
まあ何はともあれOKサインが出たのだ
「良かったね」
「にゃん」
抱いていた小猫の頭を撫でながら、アスカは自然と微笑んでいた
横では約一名、その小猫に微かながら嫉妬の炎を燃やしているのだが・・・
「ところでアスカちゃん、そろそろ帰らないと家の人心配しないの?」
「あ、そうですね
じゃあシンジ、小猫の世話頼んだわよ」
「うん」
抱いていた小猫を、アスカから受け取る
「じゃあまた明日」
「さよなら、アスカ」
「にゃぁ」
シンジと小猫に見送られ、ドアを閉めるアスカ
「シンジ、ご飯できたわよ」
「うん、今行く」
ペタペタとスリッパを鳴らしてキッチンに戻るシンジ
ふとテーブルの横の、ペンペン用の餌皿が目に映った
「シンジ、小猫の分は焼き魚でいいわよね?」
「うん、あとミルクも」
「はいはい」
カチャ
部屋の電気を消すシンジ
手にはさっきの小猫を、バスタオルに包んで抱いている
シンジはベットに向かうと、マクラの横にその猫を寝かせて、自分も布団を羽織った
「お休み」
「にゃん」
すぐ横でバスタオルに包まって、じゃれている小猫
口の近くに手をやると、ペロペロとなめてくる
もうシンジになついてるようだ
シンジは少し微笑んだ、かと思うと、すぐに目を瞑って寝てしまった
「ねえ、起きて」
「ん・・・アス・・・・・むにゃむにゃ・・・・・」
「起きてったら!もう・・・・えい!」
カプッ
「・・ん・・・?」
頬に何かが刺さったような感触がして、僕は目が覚めた
日当たりがいいはずの僕の部屋は、かろうじて物が見えるくらいに真っ暗
・・まだ夜なのかな?
・・・あれ?前に誰か・・・・気のせいか
僕はそう思いながら、目を擦って・・あ、やっぱり誰かいる
「起きた?」
「う・・うん・・・・」
アスカ・・じゃないよね、この声
次第に体の線が見えてくる
目が暗闇に慣れてきたようだ
・・・誰だろう、この女の子
水色の髪に紅色のガラス玉みたいな瞳・・日本人じゃないみたいだけど・・・
「あの・・・君は?」
「レイって呼んで」
そう言って微笑んでくる
・・可愛い・・・・・
「ねぇ、遊びに行こ」
「・・・え?」
「ほら、早く早く」
屈託のない笑顔を浮かべて、僕の腕を握って引っ張ってくる
・・・とても嫌とは言えないよね
「ちょ・・・ちょっと待ってよ、着替えるから」
そう言いながら、なんとか重い体を起こす
「今は夜中だよ、みんな寝てるから平気」
「そ・・そうかなぁ・・・・」
「うん、でも外寒いかも知んないから、上に何か着たら?」
レイさんの言う通りに、パジャマの上にジャンバーを着て外に出る
ちゃんと鍵を閉めて・・・っと
「シンジ君・・だったよね」
「え?そうだよ」
「ねえ、シンちゃんって呼んでいい?」
「それでも良いけど・・・・」
「ホント?じゃあシンちゃん、行こ」
「・・ところで・・・君は?」
「だからー、レイだってば」
「いや、そう言う事じゃなくて・・・どうして僕の部屋に居たの?って」
「うーんとね・・・歩きながら話す」
僕の腕に手を絡めて・・いや、腕にくっついて歩き出す
・・レイさんの着ているセーター越しに、柔らかい感触が・・・
「ところで・・・どこに行くの?」
「シンちゃんはどこが行きたい?」
「え・・どこでもいいけど・・・・」
「曖昧な答えはダメ、シンちゃんが決めて」
そう言われて、少し考えた後、小猫を拾った公園が頭に浮かんだ
「レイさん、じゃあ公園に行く?」
「うん・・・あ、私の名前、呼び捨てでいいわよ
レイさんって言われるの、なんだかくすぐったくて」
「そ・・そう」
「ねぇ、名前呼んでみて」
「え・・・」
「ホントに呼び捨てで言ってくれるか証明して」
「・・れ・・・レイ」
やっぱり・・ちょっと抵抗が・・・
よく考えてみれば、呼び捨てで言うのアスカだけだし・・・
「アリガト、シンちゃん」
そう言って、なおも腕にくっついてくる
・・・ちょっと良いかも・・
そう思ってた矢先、石に躓いたのか、レイが前のめりになって倒れそうになった
慌てて、自由な左手をレイの前に出す
それが偶然、胸に・・・
「あ・・・」
「ふぅ、危なかった
・・・シンちゃん、アリガト」
今日二度目のその言葉は、少し照れ臭さが混じってるように聞こえた
夜の公園
学校から帰る時ここを通った方が近いから、何度も来た経験がある
けどアスカ以外の女の子と、しかも夜中にここに来るなんてこれが初めてだ
「シンちゃん、何ボ〜っとしてるの?」
「え?・・あ、ううん、何でもない」
そう言って、レイが座ってる横に腰を下ろした
昼間は小学生等が遊んでるブランコ
でも、今は風に揺られている
昼間は幼児等が遊んでいる砂場
でも、今は誰かが造った砂山が、ポツンと建っているだけ
馴染みの公園も時間が違うだけで、全く知らないところみたいだ
僕はふと思い出して、ブランコの横に立っている大木に向かった
レイも後から着いてくる
「ねえ、どうしたの?」
「確かこの辺りだったと思うんだけど・・あ、あった」
「どれどれ?・・・何?この跡」
「幼い頃にアスカと背比べした時、石で削って付けた目印
まだ残ってるかな?って思って」
「アスカって、昼間来てた女の子?」
「え?そうだけど・・どうして知ってるの?」
「だって・・・・・・・・」
何かを言いかけようとした時に、レイは木にもたれかかった
「・・どうしたの?」
「・・でも・・・ない・・・」
そうは言うものの、どこか疲れているみたいだ
「もう・・・メみたい・・・・
・・・シンちゃ・・・・りがとう・・だ・・・・・」
「レイ!?」
ハっと目を覚ますと、そこは僕の部屋の天井だった
まだ寝惚けている頭を回転させて、何があったのか考える
・・・夢だったのかな
「シーンージー、レイってだぁれ?」
子悪魔のような笑顔を浮かべたアスカが、僕のベットの横に立っていた・・・
「ア・・アスカ・・・おはよう」
「ふん!?一体どんな夢見てたのよ!!バカシンジ!!!」
「ご・・誤解だよ・・ア「五階も六階もない!問答無用!!!」
パシン!
「母さん・・おはよう」
「おば様、シンジを起こしてきました」
「アスカちゃん、毎朝ご苦労様
紅茶でも飲む?」
「はい、ありがとうございます」
「シンジ、先に顔洗ってらっしゃい」
「うん・・・」
「・・あら、あの小猫は?」
「まだ僕のベットで寝てるんじゃないかな?」
「え?さっきあんたを起こしに行った時、小猫居なかったわよ」
「・・・え?」
僕は不思議に思い、自分の部屋に戻った
ベットの下にバスタオルが落ちてて、小猫の姿はどこにもない
・・逃げたのかな?・・・あ・・もしかして・・
「ねえ、小猫どこに行ったのかしら?」
学校に行く途中、アスカは僕にそう聞いてきた
「さ・・さあ、飼い主のところに戻ったんじゃないかな?」
本当はどこにいるか、どうなったか分かってる
けど、アスカに言うと泣いちゃいそうだから、僕はあえて本当の答えを言わなかった
「まあずっと飼ってると情がうつって、飼い主に返す時辛くなるだろうし・・・
これが一番良かったのかしらね」
「・・うん・・・」
公園の入り口が見えてきた
僕は、その入り口を通り越して歩いていた
「シンジ、どこ行くのよ?」
「今日は時間あるんだし、たまにはこっちから行こうよ」
「そう?まあ別にいいけど」
/レイって呼んで/
授業中、先生の話を全然聞けなかった
頭の中が小猫のことでいっぱいになってて、授業を聞くどころじゃなかった
/遊びに行こ/
放課後、アスカは委員会があるため図書室に向かった
普段は終わるまで待ってるんだけど、今日は早く帰りたかった
/シンちゃんって呼んでいい?/
家に帰って、少し気を落ち着かせて、僕はシャベルを持って公園に向かった
/レイさんって言われるの、なんだかくすぐったくて/
大木の木陰
少し木漏れ日が草を照らすところで
お腹に包帯を巻いた
綺麗なオフホワイト色の毛の小猫が
安らかに眠っていた
/アリガト、シンちゃん/
認めたくはなかった
でも、認めるしかなかった
/・・・シンちゃん、アリガト/
大木の横に穴を掘り、その小猫を埋めてお墓を作った
/なんでも・・ない・・・/
抑え切れない感情が、雫になって、地面を濡らした
/もう・・ダメみたい・・・・/
ありがとう
さようなら
/・・・シンちゃん・・・・ありがとう・・大好き・・/
おやすみなさい
end.
学 e-mail:peru@pluto.dti.ne.jp
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