Rei ‐U‐
Rei ‐U‐
― シンジの部屋 ―
「碇君‥‥‥」
シンジは唇に人を感じながらうっすらと目を開ける。
見慣れた天井が、ではなく見慣れた顔があらわれる。
「目が覚めたのね」
綾波がいつもと同じ表情で立っている。
「なんだ‥‥‥綾波か、ふわ〜〜〜」
幼なじみの顔を見たシンジはそうつぶやきながら、大あくびをした。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
どこまでも上の空なシンジである。
「だからもう少し寝かせて‥‥‥」
ずるずると布団に潜りこむシンジ。
「碇君、遅刻するわよ」
もう時間がぎりぎりのためレイは布団をひきはがした。
「なにすんだよー」
やすらかな眠りを妨害されたシンジは抗議の声を上げた。
だが、シンジの体の一部を見つめてレイの顔はみるみる真っ赤になっていく。
「碇君、それ‥‥‥」
「あ、綾波なんで‥‥‥」
しかしレイは顔を赤くしたままうつむいている。
シンジは不思議に思いながら綾波の視線の先を見る。
「ご、ごめん。朝だから‥‥‥」
「なぜ謝るの?」
「なぜ?って、‥‥‥。それより綾波は何でここいるの?」
「わからない」
「アスカは?」
「それより遅刻するわ」
「ほ、ほんとだ。じゃ綾波ちょっと部屋を出ていてくれる?」
「どうして?」
「これから着替えるんだ、だから‥‥‥」
「そう‥‥‥」
そしてレイはシンジの部屋を後にした。
― 碇家の台所 ―
「シンジったら、せっかくレイちゃんが迎えに来てくれているのに、しょうがない子ね」
シンジの母、ユイが朝食の後かたづけをしていた。
「ああ」
「あなたも新聞ばかり読んでないで、ちゃんと支度をしてください」
「ああ」
朝刊を読みふけっているゲンドウは上の空だ。
「まったく、いい年をしてシンジとおんなじなんだから‥‥‥」
「ああ」
「会議に遅れて冬月先生におこごと言われるの私なんですからね」
「君はもてるからな」
「ばか言ってないで着替えてください。」
「君の準備はいいのか」
「ええ、いつでも」
ため息をつきながらユイがこたえる。
「ああ、わかっているよ、ユイ」
といいつつ、新聞から目を離そうとしないゲンドウであった。
― シンジの部屋 ―
「碇君、早くしないと遅刻するわ」
「わっ、綾波入ってこないでよ」
「ごめんなさい」
「い、いいよ。中にいても」
シンジは、レイの瞳から涙が一粒流れるのを見てどうしていいのか分からなくなってしまった。
「ありがとう、碇君」
(でも何で綾波がここにいるのだろう)
シンジは不思議に思いながらも、時間がないのであまり考えずに学校へ行く準備に専念していた。
担任の葛城ミサト先生は時間にルーズで遅刻しても何も言わない。
というよりミサト先生の方がいつも遅刻している。
けれど、生徒指導で理科教諭の赤木リツコ先生はとても厳しく、遅刻でもしようものなら大変である。
― 碇家の玄関 ―
「それではおばさま、いってきます」
靴を履きながらレイの落ち着いた声が通る。
まさにどこかの国の皇女ではないかとおもわされるような、いや天使のような少女であった。
「いってきま〜す」
シンジは先に出ていたレイを追いかけ家を出た。
「はーい、いってらっしゃい」
「ほら、あなたもいつまで読んでいるんですか」
「わかってるよ、ユイ」
ユイは今日もまたゲンドウのせいで遅刻であった。
― 通学路 ―
レイとシンジは中学校に向かってひたすら歩道を走っていた。
「今日、また転校生が来るんだよね」
走りながらシンジがレイに声をかけた。
「ええ、ここも来年には正式に遷都されるもの、これからも人はどんどん増えるわ」
「そうか、どんな子かな。かわいい子かな」
勝手にかわいい女の子を想像するシンジ。
「‥‥‥」
それを複雑な表情でみるレイ。
(‥‥‥‥‥‥‥)
そのあいだもひたすら妄想に浸るシンジ。
一方、別の道ではこれまた美少女が食パンをくわえたまま全速力で駆けていた。
「あ〜遅刻遅刻、初日から遅刻ってかなりやばいって感じよね」
もぐもぐとつぶやいている。
ちょうど交差点にかかったところで‥‥‥
「あ〜っ」
ドン!!
二人とも頭をぶつけて食パンと星がくるくると回った。
激突のショックで吹っ飛んだパンはすでに小鳥が集まってついばんでいる。
シンジは突然の衝撃に頭を抱えたままうつぶせにうめいていた。
横道から飛び出してきた少女はアスファルトに尻餅をついたまま頭を押さえている。
頭をぶつけたので意識がもうろうとしているシンジ。
「いたた、」
ふと見あげるとシンジは目の前に二本の足があることに気づいた。
その先にさらに白い‥‥‥
しかし白いものは急に閉じた足とあわてて押さえたスカートで覆い隠された。
「あっ!」
そのときになってはじめてシンジは自分になにが起きたかを悟った。
横から飛び出してきた少女とぶつかったのだ。
すると今、見たものは‥‥‥。
シンジが見たモノは彼女のスカートの中身だったらしい。
「てへへ、ごめんね」
状況がまだ理解できないうちに少女があやまった。
悪戯っぽい、それでいて無邪気な明るい笑顔の少女は、手を顔の前にだしてぺこぺこしている。
シンジがまだ見たこともない制服を着ている。
しかしどこかで見たことのある顔である。
シンジはふと後ろを振り返る。しかしレイはいない。
レイは角の隅にいた。
「ほんと、ごめん。マジで急いでたんだ」
そう言い残すと、少女はぴょんと立ち上がり、そのまま駆け出した。
「綾波?」
「ごめんねー」
振り返りながら、もう一度そう言った。
「今のは一体?‥‥‥」
まだひざをついたままボーと走り去る少女を見つめるシンジ
それを背後から無言で見つめるレイ。
(碇君‥‥‥‥)
シンジは後ろのレイを見つける。
「綾波、今そこで綾波に‥‥‥‥」
「いきましょう、遅刻するわ」
そしてまた二人は走り出した。
― 第三新東京市立第一中学校2年A組の教室 ―
机には碇と明日香の相合い傘のいたずら書きと「あんたばかぁ」の書き殴りが‥‥‥
「な〜〜にぃ、それで、見たんかぁ、そのおんなのパンツ!」
窓ぎわに座ったシンジをケンスケとトウジが追求する。
「別に見たってわけじゃあ‥‥‥、ほんのちらっとだけ」
シンジが前にかざした指先をちょっとだけ広げる。
「かー、朝っぱらから運のええやっちゃな〜」
トウジが天を仰ぎ手を握りしめて残念がる。
そんなトウジの耳がいきなりつり上げられる。
「いててててててっ、いきなり何するんやいいんちょー」
耳を引っ張られているので情けない声でトウジがヒカリに文句をつける。
「鈴原こそ朝っぱらから何馬鹿なこと言ってんのよ。ほらっ、さっさと花瓶のお水換えてきて。週番でしょ」
委員長の顔は本気で怒っている。
「ほんまうるさいやっちゃなぁ〜」
男のメンツを大事にするトウジが小さい声で抵抗する。
「なんですってぇ」
そんなことにはお構いなしに学級委員であるヒカリはトウジに文句あるのかと詰め寄る。
その様子を見てシンジがぼそっと一言。
「尻に敷かれるタイプだな。トウジって」
すかさず後ろの席に座ったアスカからつっこみが入る。
「あんたもでしょぉ」
「アスカ、なんでぼくが尻に敷かれるタイプなんだよー」
「何よ〜、ほんとのことを言ったまでじゃない」
「どうしてだよぉ」
「見たまんまじゃない」
「そうやってアスカがぽんぽん‥‥‥」
シンジもぶつぶつ抗議するがアスカ相手では分が悪い。
そこでシンジは話題を変えようとした。
「大体、何で今日起こしにこなかったんだよぉ」
「なんだそんなこと?ちょっと用があっていけなかったのよ」
「なんだよ、用って。いつも無理矢理起こしに来てたくせに」
アスカはにやりと笑いながら
「はは〜ん、シンジは私に起こしてもらいたかったのかしら?」
「誰が頼むもんか。アスカが来るとゆっくり寝てられないもん。
もうちょっと優しく起こしてくれてもいいじゃないか、綾波みたいに」
「なんですって、シンジの寝起きが悪いから私まで遅刻しそうになるんじゃない」
「それになんで優等生の名前が出てくんのよ」
アスカはレイのことを優等生とよんでいる。
アスカに言わせれば特に意味はないそうだがそうの方が呼びやすいらしい。
「今日、綾波が起こしに来てくれたんだよ」
「なんであの子がくんのよ、シンジ変なことしてないでしょうね」
「な、なにいってんだよ。僕も目を開けたらいきなり綾波が居るんでびっくりしたんだから」
「ほんとかしら?」
「ええ、そうよ」
「綾波!」
「ユイさんに頼まれたの、アスカがこれないからシンジを起こしに来てくれって」
「そうなの、まっ、あんたが言うんならほんとのようね」
「そういえば綾波、今朝‥‥‥」
「なにぶつぶつ言ってんのよ」
「なんでもないよ」
「なによその態度は、昔からシンジは・・・・・」
そんな三人の痴話げんかを横目で見ながら冷めた調子でケンスケがつぶやく。
「あ〜平和だね〜」
窓からは青空に白い雲がゆっくりと流れている。
そこへ爆音が近づいてくるのが感じられた。
窓にもたれかかっていたケンスケが飛び起きる。
シンジとトウジもケンスケと同じ窓に駆け寄って注目する。
既に愛用のビデオカメラをとりだしているケンスケは撮影を開始していた。
ものすごい勢いで飛び込んできた赤いスポーツカーがスピンターンを決めて駐車場の所定の位置に止まった。
タイヤがきしみ車体の片輪が持ち上がるほどの急ブレーキである。
「お〜、ミサトせんせーや」
一瞬の静寂の後、車のドアが開き、きちんとそろえられた形のいい脚が出てきた。
赤いミニスカートのままかろやかな動きで立ち上がるサングラスのきまった美女が現れた。
走っているときとはうってかわった落ち着きようである。
「ミサトせんせ〜」
シンジ、トウジ、ケンスケの3バカトリオが同時に叫ぶ。
サングラスを押し上げたミサトは窓の3人に気づき、にっこりと微笑んでピースサインを送る。
夢中で撮り続けるケンスケ。
「やっぱえーわミサト先生」
「うんうん」
トウジの言葉にうなずくシンジとケンスケ。
「なによ3バカトリオが、ばっかみたい」
ジト目で見つめるアスカとヒカリが吐き捨てるように言う。
「カラーン、コローン」
「起立、礼、着席」
ヒカリの号令が2年A組に響きわたる。
「よろこべ男子」
教壇からのぞき込むようにミサトが全員に話しかける。
「話題の転校生を紹介する」
ミサトが退くと後ろからひょっこりと女の子が現れた。
「綾波ルイです。よろしくぅ」
あかるく笑いながらぺこりと頭を下げた。
「あ〜〜〜っ」
その顔を見たシンジの叫び声が教室に響く。
なんと転校生はシンジが朝激突したあの美少女であった。
「あ〜、あんた、今朝のパンツのぞき魔」
これには自称シンジの保護者であるアスカが猛然と反撃した。
「ちょっとぉ、言いがかりはやめてよ。あんたが勝手にシンジに見せたんじゃない」
アスカの速攻に負けず嫌いのルイが言い返す。
「なによ、その子のことかばっちゃってさ、何々っ、あんたたちできてんのぉ」
あまりに的を射た指摘に言葉を詰まらせて引きのはいるアスカ。
「うっ‥‥‥、ただの幼なじみよ‥‥‥うっさいわねぇ」
委員長のヒカリが何とか場を納めようと注意する。
「ちょっと、授業中よ、静かにしてください」
しかしヒカリの叫びもむなしくする発言が‥‥‥。
「あらっ、楽しそうじゃない。あたしも興味あるし、続けて続けて」
教師ミサトはどこまでも軽かった。
教室中どっと笑いが起こりもう収拾がつかない状況であった。
アスカとルイは夢中で言い争っている。
しかし、ルイの方は楽しんでるようだ。
「シンジ君だっけ?あなたはこの子のことどう思ってるの」
「えっ?僕‥‥‥」
自分に回ってくると思ってなかったシンジは返事に困った。
アスカはさらに赤くなっている。何か期待しているような目でシンジの方を見る。
(や、やばい。アスカを怒らせないようにしないと)
そのとき、いつものごとく沈黙を守っていたレイが席を立つ。
「やめなさい、ルイ。碇君が迷惑してるわ」
クラスが一瞬し〜〜んとしずまる。
「あ、お姉ちゃん。ここお姉ちゃんのクラスだったの」
「そうよ、少しは静かにしなさい」
「な〜〜んだ、もしかしてお姉ちゃんも‥‥‥」
「なにをバカなこと言うの」
「お姉ちゃんって、綾波‥‥‥」
「なに、碇君」
「なに、シンジ君」
二人の綾波が一緒に答える。
「あんたに妹が居るなんて初耳ねぇ」
「ええそうよ、誰にも言ってないもの」
そのときルリが、
「わたしは妹の綾波ルイ、そっちが姉の綾波レイ。て言っても双子なんだけどね」
「でも今までどうしてたの?」
そこでミサトが先生らしくルイの経歴について語る。
「レイとルイさんが姉妹だって言うのはもういいわね。ルイさんは小さいころからフランスに住んでいたの。
あちらにおばあさまがいらして一人で居るのは寂しいからってルイさんはそこで一緒に暮らすことになったの。
それがこのたびおばあさまが日本に来ることになって一緒に来たというわけ」
「へぇ、そうなんだ。でもミサト何でもっと早く言ってくれなかったの」
「それがねアスカ、今日書類が見つかってあわてて読んだの」
「今日って、あんたまた‥‥‥」
「そう、なくしちゃったの。それで冬月教頭に言ってもう一枚もらってきたの。お願いだからリツコにはないしょね」
「まったく、こんな教師がどこの世界に居るんだか」
「ここにいるじゃない」
「あ、そう」
ミサトとアスカはまたいつもの漫才をやってるようだ。
「ちょっと、わたしのことはどうしたのよ」
ルイがわがままいっぱいに叫ぶ。
「あ、ごめん忘れてた」
ルイは怒ってるようだ。今度はルイがアスカに手玉に取られる。
何か言い返そうと口を開いたルイに
「無駄よ、アスカに口で勝てるのはリツコ先生ぐらいだもの」
「お姉ちゃんもこの子の味方なの」
「いえ、違うわ」
「そう、まっいいわ。というわけでみなさんよろしくぅ!」
「さぁ、それじゃあ残り時間わずかだし授業始めようかしら」
そして、みさとは社会科の教科書をひろげる。
まだわいわい騒いでる教室にここぞとばかりにヒカリが口を開く。
「静かにしてください。授業が始まります」
「じゃあ、ルイさんの席は窓側、シンジ君の横ね」
何気ない言葉だったが、アスカの眉がぴくりと反応したのをシンジは見逃さなかった。
「はーい」
気を取り直したレイが席に着く。席に着く瞬間シンジを見て一言。
「さっきはごめんね」
てへ、と舌を出して笑った。
「え、いや、いいよ。そんなこと」
(さすがに綾波の妹だ。やっぱり、かわいい)
シンジがそんな感激に酔いしれていた頃、彼の後ろでアスカは一つの決意を固めていた。
「あとで2・3発ひっぱたいてやる」
むろんひっぱたかれるのは不幸なシンジだった。
― 放課後 ―
「シンジ、よってくか?」
「いや、今日はやめとくよ。買い物して帰らないといけないから」
「そうか、わかった。そんじゃぁまた明日」
どこへ行くかというと、もちろんゲーセンのことである。
シンジもトウジもかなりのゲーム好きである。
しかし、シンジの母ユイは仕事が忙しく帰宅が遅くなるので週に何回かは自分で夕食をとらなければならない。
そこで隣に住んでいるアスカが一緒に食べにくる。
「なぜアスカは自分の家で食べないの?」とシンジが聞くと、
「うっさいわねぇ、あんた一人じゃ寂しいから一緒に食べてあげるのよ」と答える。
それならアスカもたまには作ってくれと言いたいがそれが出来ないシンジである。
シンジがスーパーで買い物を終え自宅への道を進んでいると公園に誰か居るのが分かった。
それは見覚えのある顔である。
そう、あの空色の髪に紅い瞳はレイである。
シンジはそこにレイが居るとわかると公園の中に入っていった。
レイはルイと一緒にベンチにすわっていた。
ルイは子犬にパン切れを食べさせている。見たところ野良犬のようだ。
ルイのやさしさを目の前にしてその光景をじっと見ていた。
のぞき見ていたというのではなく、その様子に思わず目を奪われ動けなかったのである。
それほど二人の綾波は夕日に照らされ神秘的な、それでいてとても楽しそうであった。
レイは普段あまり感情を表にすることはなかった。そのレイがほほえんでいる。
ルイに会えたのがよほど嬉しかったんだなとシンジは思った。
その時ルイがシンジを公園の入り口に見つける。
「お〜〜い、パンツのぞき魔、今度はなにのぞいてんの?」
「碇君!いつからここにいたの?」
「ちょっと前からだけど」
ルイはシンジの持っているスーパーの買い物袋を見て
「な〜〜るほど、これからアスカと一緒にお食事かしら?」
「えっ、何で知ってんの」
「や〜っぱりそうなんだ!」
「やめなさい、ルイ。碇君が迷惑してるわ」
「はいはい、なんだかんだ言ってもお姉ちゃんも女だから気になるもんね」
「‥‥‥」
「いいね、兄弟って。僕なんか一人っ子だったからずっとさびしかったんだ」
「ふ〜うん、でアスカがお姉さんかしら」
「ま、そんなかんじだったかな。アスカも綾波も幼稚園のころから一緒だったし‥‥‥」
「そうなんだ、じゃあお姉ちゃんは?」
「綾波が一番年上のお姉さんって感じかな」
「じゃあ私は妹になってもいい?」
「へっ?」
「だからぁお姉ちゃんやアスカが姉なら私はかわいい妹ってとこじゃない」
「うん、そうだね」
「よかった、ありがとう。それとお姉ちゃんのこと『綾波』って呼んでるみたいだけど私も『綾波』なのよね」
「あ、そっか。ごめん気づかなかった。じゃあ君のことは『ルイ』って呼ぶよ」
「うん、わかった。けどお姉ちゃんはやっぱり『綾波』?」
「そのほうが呼びやすいんだ。だから‥‥‥」
「いいわ、お姉ちゃんは『綾波』で私は『ルイ』ね」
「ごめんね」
「いいよ、別にそんなこと。それより早く帰らないとアスカが怒るわよ」
「うん。そうだ、綾波達うちで一緒に夕御飯食べない?材料もたっぷりあるし。ルイの転校祝いということで」
「ほんと〜、ありがとう」
「じゃ、行こうか」
「うん」
「‥‥‥」
そうして3人は公園を出てシンジのマンションへと向かっていった。
夕日が3人をきれいにライトアップしている。
ただ、レイはなにか複雑な表情のままであった。
― 碇家の中 ―
「おそ〜〜い、いつまで待たせるつもりなの。もうおなかぺこぺこじゃない」
「ごめん。途中、公園で綾波達にあって‥‥」
「はは〜〜ん、それで私をほうっておいて楽しい一時を過ごしていらしたのかしら、シンジ様は」
「そんなんじゃないって。ただ偶然であって‥‥」
「やっぱりシンちゃんも尻に敷かれるタイプみたいね」
ルイとレがシンジの後ろからリビングに入ってくる。
「ちょっとあんたなんでここにいんのよ」
「別に居てもいいじゃない。わたしはシンちゃんにうちにおいでって誘われたんだから。
それよりアスカは何でここにいるの?」
「うっ、それは‥‥‥、それよりさっきから聞いてればなれなれしく『シンちゃん』なんて呼んじゃって」
「ええそうよ、だってシンちゃんが別にいいって言ったもん」
「シンジ〜〜、これはどういうことなのかしら‥‥‥」
「いや、だから、その、ルイの転校祝いということでうちで一緒に夕御飯食べようって」
「あぁ、やだやだ。いつのまに『シンちゃん』、『ルイ』なんて呼び合う間柄になったのかしらねぇ、シンちゃん」
「いやなら帰ってもいいよアスカ。僕たち3人で食べるから」
「わかったわよ」
まだ不満そうではあるがアスカは渋々シンジの言うことに従った。
「ごめんね、アスカも案外大人気ないとこあるから‥‥‥」
シンジのこの一言にアスカのこめかみはぴくぴく痙攣している。
しかし、シンジはなんの殺気も感じてないようである。やはり鈍感である。
「な、なんですって〜〜。よくもその口でそんな偉そうなことが言えるわねぇ」
アスカが言いながらシンジの首を絞める。
「うぐっ、ギ、ギブギブ」
頃合いを見てレイが止めにはいる。
「アスカ、そろそろ止めないと碇君が死ぬわよ」
「わかったわよ」
そしてアスカはシンジの首から手を離す。
「げほっ、げほっ‥‥」
シンジはむせている。
「今度また偉そうなこと言ったら死ぬわよ。シンジ〜〜、わかった〜〜?
それじゃあすっきりしたところで夕食にしましょうか」
「わかったよ」
シンジは愚痴るように言いながらも買い物袋を持ってキッチンの方へ行った。
それを見ていたルイが
「私も手伝う」
そう言ってキッチンへ向かった。
しかし、この一言にほかの二人は敏感に反応した。
「ちょっと、何であんたが手伝うのよ」
「ルイ、碇君の足手まといになるからやめなさい」
「なに言ってんの、私こう見えてもお料理得意なんだから」
「あんた、今日はお客さんなんだから座っていればいいのよ」
「そうよ、アスカの言う通りだわ」
「お姉ちゃん達こそそんなに言うなら一緒に手伝ったらいいじゃない」
「うっ、それは‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「な〜〜んだ、できないのか。この年になっても」
「な、なんですって」
「ねえシンちゃん一緒にお料理してもいい?」
そこで、アスカ達の今までの戦いを無駄にする発言が‥‥‥
「うん、いいよ。本場のフランス料理を見てみたいからね」
「ありがとう、それじゃあね」
そう言ってシンジの方へついて行った。その顔は満足感というより優越感であふれていた。
誰に対する者かはもちろん言うまでもない。
そして、そのあとシンジとルイがどうなったかも‥‥‥‥‥
今日から波乱と誘惑に満ちた生活が始まろうとしていた。
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