「ぜぇったいに、シンジに手ぇ出すんじゃないわよ!!いいわね!?」

あの人は最後にそう言い残すと、玄関を出ていった。
碇君と私、二人だけを残して・・・・



かくしEVAルーム半周年記念短期集中連載

『二人だけの休日』前編

今日は特別な日。 葛城先生が休日に家を空ける事はよくあったけど、あの人が碇君を残して出か けて行くというのは、もしかすると私が碇君のところに引っ越してきてから、 はじめての事なのかもしれない。 今にして思うと、私と碇君が二人きりになる事なんて、滅多にない事だった。 いつもいつも、あの人が私と碇君との間に立ちはだかっていた。 私はそれがくやしくてたまらなかったけど、碇君はいつもあの人にはやさしい から、私は何も言えなかったの。 でも・・・・ 「シンジ、ちょっと話があるの・・・・」 あの人は私達が朝食を済ませた後、洗い物をしている碇君を呼び付けた。 「な、何だよ、アスカ?今すぐじゃ無いと駄目?」 「だ・め!!」 「わ、わかったよ・・・・」 碇君はしぶしぶあの人の側にやってきた。 「アタシ、これからちょっと出かけてくるから。」 「そ、そう。わかった。お昼はどうする?」 「要らない。でも、アンタはアタシがどこに出かけるか聞かないのね。」 「う、うん。詮索するのも悪いと思って・・・・」 「アタシ、男と逢い引きするのかもよ?」 「え!?」 「冗談に決まってるでしょ!?バカね。アタシはただ、アンタにアタシがどこ に行くのか、聞いて欲しかっただけよ。」 「ご、ごめん。じゃ、じゃあ、アスカはどこに行くの?」 「ヒカリと買い物に行くのよ。付き合って欲しいってうるさくって・・・・」 「そ、そう・・・・」 「で、ひとつだけ釘をさしておくけど・・・・」 「な、何?」 「レイに気をつけんのよ。二人っきりだからって、レイが余計な事を企むとも 限らないし・・・」 「そ、そんな事はないよ。」 「アタシのいない間に変な事をしたら、承知しないからね!!」 「わ、わかってるって・・・・」 「それならいいわ。じゃ、くれぐれも気をつけんのよ!!あの娘には!!」 あの人は碇君にしつこいくらいに言うと、支度をしにリビングを出ていった。 そして私は、あの人が出ていったのを見届けると、急いで碇君の元に近寄った。 「碇君!!」 私の声は、今さっき聞かされた事実で高ぶっていた。 「あ、綾波・・・・」 「あの人、出かけるんでしょ?」 「そ、そうみたいだね・・・・」 「碇君と私、これから二人きりね。」 「う、うん・・・・」 「私、楽しみにしてるから。」 「・・・・・」 「碇君、洗い物、手伝ってあげる。」 「い、いいよ。今日は僕が当番の日なんだし・・・・」 「いいから。私は碇君の事、手伝ってあげたいの。」 私は碇君が遠慮するのも構わずに、袖を捲くると水につけてあるお皿を手に取 った。そして、勝手に洗いはじめる。 「綾波・・・・」 碇君は困った顔をしていたけど、それ以上何も言わなかった。 私はまた、碇君にわがままを言ってしまった。でも、私のわがままを許してく れる碇君のやさしさに触れたくて、わがままを言うのをやめられなかった。 「レイ!!今日はアンタの当番の日じゃないでしょ!?」 あの人の大きな声に、私はお皿を手にしたまま、ゆっくりと振り向いて答えた。 「・・・・そうね。」 「そうね、じゃないわよ!!シンジと一緒になんでもやりたくても、それじゃ あ効率が悪いから、当番制に決めたんじゃないの!!忘れたの!?」 「・・・・忘れてない。」 「じゃあ・・・・」 「まあ、いいじゃないか、アスカ。大した事じゃないんだし・・・・」 あの人が更に私に文句を言おうとした時、碇君が私をかばってくれた。 うれしい!! でもあの人は、そんなやさしい碇君を大声で責め立てた。 「バカ!!何でもちょっとした事から、大きな事に発展するんだから!!」 「ご、ごめん・・・・」 「常に気をつけてんのよ!!じゃあ、アタシはもう行くから・・・・」 「は、早いんだね。その格好で行くの?」 「デートじゃないんだから、おめかしする必要もないでしょ?」 「そ、それもそうだけど・・・・」 「じゃあ、くれぐれも、くれぐれも気をつけなさいよ。」 「わかってるって・・・・」 「アタシはアンタが心配なのよ。」 「もういいから・・・遅れるよ。」 「じゃあ、行くわよ。シンジはいいから、レイ、アンタはアタシを見送りなさ い。」 あの人はそう言うと、私の手をつかんで、玄関に引っ張っていった。そして、 しつこく私に忠告した後、ようやく出かけていった・・・・ 私が碇君のところに戻ってくると、碇君は私を心配してこう言ってくれた。 「綾波、アスカにきつく言われなかった?アスカは心配症だから・・・・」 「平気よ、碇君。」 「そ、そう?それならよかった。」 碇君はほっとした顔をして、表情を和らげる。 私はそんな碇君がうれしくて、碇君にお礼を言った。 「・・・ありがとう、碇君。」 「え!?ありがとうって・・・・何かした?」 「私の事、心配してくれて・・・・私、うれしかった。」 「あ、そ、そう・・・・いや、どういたしまして。」 「うん。」 「じゃ、じゃあ僕は、洗い物の続きをするから・・・・」 碇君はそう言うと、私に背を向けて、洗い物の続きを始めた。 そして私はもちろん・・・・碇君のお手伝いをするの。 だって、もう私にうるさく言うあの人はいないから。 碇君は、私が隣に来てもあの人みたいに私に注意する事はなかった。 何だかいつもとしてる事には違いがないのに、あの人がいなくて、碇君と二人 きりでいるだけで、いつもと全く違う世界が広がっているような気がした。 「碇君?」 私はちょっと碇君に声をかけてみる。 すると碇君は、わざわざ動かす手を止めて、こっちを向いてくれた。 「何、綾波?」 「ううん、何でもない。ただ、碇君にこっちを向いて欲しかっただけだから。」 「そ、そう・・・・」 「ごめんなさい、碇君の邪魔しちゃって・・・・」 「い、いいんだよ、別に大した事じゃないから・・・・」 碇君はやさしくそう言ってくれる。 いつもだったら、こうなる前に、あの人が邪魔しに来るのに・・・・ 私はそう思うと、何だかうれしくなって、いつもよりちょっとはしゃいでしま った。 「碇君・・・・」 私はそう言うと、ぴとっと碇君に身体をくっつける。 私の突然の行動にびっくりした碇君は、思わず声をあげた。 「あ、綾波っ!!」 「碇君っ。」 「ちょ、ちょっと・・・・」 「いいでしょ、別に。あの人も、よく碇君にこんなことしてるもの・・・・」 「で、でも・・・・」 「私達の間を邪魔するあの人は、今ここにはいないわ。だから、今日だけは碇 君も、私の好きにさせて。」 「・・・・・」 「いつのあの人に邪魔されてる私を、碇君はかわいそうだと思わない?」 「そ、それはまあ・・・・」 「別にあの人に知られて困るような事はしないわ。ただ、碇君と二人だけのこ の時を、楽しみたいだけなの・・・・・」 「・・・・・」 「いいでしょ?碇君?」 「・・・う、うん・・・・・」 「ありがとう、碇君。碇君だったら絶対、うんって言ってくれると思ってた・・・」 「じゃ、じゃあ、いろいろ片付けものが終わったら、二人で何かしようか?」 「うん!!」 「なら、さっさとお皿を洗っちゃおう。後はそれからだ。」 私は大人しく碇君の言葉にしたがって、碇君の邪魔になるような事はやめ、急 いでお皿を洗う事にした。別にこんな時にわざわざ碇君に甘えないでも、これ が終わってからはいくらでも時間はあるんだし・・・・ 二人で急いでやったら、洗い物はすぐに片付いた。 「はい、綾波。」 最後にきれいに手を洗うと、碇君は私にタオルを手渡してくれた。 「ありがとう、碇君・・・・」 碇君はやっぱりやさしい。 私は碇君に微笑むと、受け取ったタオルで手を拭いた。 そしてそんな私を見ながら、碇君は私に話し掛けてきた。 「じゃあ、これから何をしようか、綾波?」 「・・・・私は、碇君のしたい事でいい。」 私は碇君の質問に、いつものように答えると、碇君はちょっと眉をひそめて私 にこう言った。 「駄目だよ、綾波。僕がしたい事じゃなくって、二人がしたい事じゃないと・・・・」 「・・・・ごめんなさい。」 「いや、とにかく、綾波も何がしたいか考えてよ。僕も考えてみるから・・・」 「うん・・・・」 私は碇君に言われたように、自分が何をしたいのかを考えてみた。 でも、私には何も思い浮かばない。私は碇君と一緒ならば、何をやってもうれ しいし、それに私には、なにもないから・・・・・ 「碇君?」 「なに、綾波?したい事、見つかったの?」 「ううん、違うの。私、したい事が見つからなくって・・・・私、あんまりそ ういう事、知らないから・・・・」 私がそう言うと、碇君はちょっと悲しい顔をして見せたけど、すぐに元の碇君 に戻って、私にこう言ってくれた。 「・・・・そうだよね。綾波は遊びらしい遊びもしたことがなかったし・・・・ って言っても、僕もあんまり遊びには縁がなかったんだよね。友達もいなくて ずっと一人ぼっちだったから・・・・」 「碇君・・・・」 「じゃあ、二人で話でもしよう。どうせお昼まではそんなに時間もないんだし、 それまではうちで話でもしていた方がいいよ。どうかな、それで?」 「私はそれでいい。碇君と話が出来れば・・・・」 「なら、それで決まりだね。お茶でもいれて、のんびりと話でもしよう。」 「うん。」 「綾波はソファーに腰を下ろしてて。すぐお茶を入れるから・・・・」 碇君はそう言うと、自分でお茶を入れようとした。私はお茶くらいなら自分で 出来るから、碇君の手を煩わせたくなくて、慌てて碇君に言った。 「お茶なら私がいれるから。碇君こそ、先に座ってて。」 「い、いいって、綾波。綾波こそ、座って待っててよ。」 「でも・・・・やっぱり私が・・・・」 「綾波にはいつもお茶をいれてもらってるから、たまには僕にいれさせてよ、 ね?」 「・・・う、うん・・・・・」 「じゃあ、ちょっと大人しく待ってて。すぐいれるから・・・・」 私は結局碇君の言葉に従うことにして、言われたとおり、ソファーに腰を下ろ して、碇君がお茶をいれてやってくるのを待った・・・・ ピィィーーーー!! やかんが甲高い音を立てて、お湯の沸いた事を知らせた。 そしてまもなく、碇君がお茶とおせんべいの載ったお盆を手に持って、私の前 に姿を現した。 「お待たせ、綾波。」 碇君はそう言うと、私の前の机に湯飲みを置いた。 「ありがとう、碇君・・・・」 「ちょっと飲んでみてよ。」 碇君は私にそう言う。私は言われた通りに、目の前に置かれた湯飲みを手に取 った。そして、飲もうと思って口元に湯飲みを近づけると、お茶の香りがいつ ものほうじ茶とは違っている事に気付いて、思わず声をあげてしまった。 「あ・・・これ・・・・」 私が驚いているのを見た碇君は、私に向かってやさしく微笑みながら説明して くれた。 「ジャスミンティーだよ。いい香りでしょ?珍しいから昨日買ってきたんだ・・・」 「・・・・ジャスミンティー・・・・・」 「そう。綾波は飲んだ事ないかも知れないね。」 「うん・・・・」 「取り敢えず、飲んでみてよ。香りだけじゃなくて、味もおいしいから・・・」 私は碇君の勧めに応じて、恐る恐る湯飲みに口をつける・・・・ 「どう?」 「・・・・おいしい。いい香りで・・・・」 「でしょう?たまにはこういうのも悪くないよね。」 「うん。」 「じゃあ、おいしいお茶も入った事だし、ゆっくりと話でもしようか・・・?」 今までお盆を手に持って立っていた碇君はそう言うと、私の反対側に腰を下ろ そうとした。それを見た私は、慌てて湯飲みを下に置くと、碇君に向かってこ う言った。 「だめ、碇君。」 「え!?」 「そこじゃなくて、ここ。」 私はそう言いながら、自分の隣をぱたぱた叩いて見せた。 すると碇君は、不思議そうな顔をして私に尋ねる。 「・・・・つまり、こっちじゃなくて、そこに座れって事・・・・?」 「うん。」 私は大きくうなずいてみせた。 しかし碇君は、私の考えに納得した様子を見せずにこう言う。 「・・・でも、二人で話をするんだったら、向かい合わせに座った方がいいん じゃないかなぁ・・・・」 確かに碇君の意見は正しかった。でも、せっかく碇君と話が出来るのに、この 小さな机を隔てて話をするなんて、つまらないと思った。 そう私が思っていると、ふといい考えが私の頭をよぎった。 「じゃあ、こうすれば・・・・」 私はそう言うと、ソファーの上に足を上げて、その上で正座をして見せた。 「こうすれば、向かい合わせに座れるでしょ?」 「う、うん・・・・」 「碇君も私と同じ様にして。」 私はそう言うと、またさっきと同じところ、今では私の隣じゃなくて私の前に なっていたけど、そこを再び手でぱたぱたして、碇君に示した。 碇君は私の顔を見ながら少し躊躇していたけど、私の望み通り、私の目の前で 私と同じように正座をして座ってくれた。そして碇君は、私に向かってはにか みながらひとこと言う。 「なんだかソファーで正座するって言うのも、変な感じだね。」 「こういうの、碇君はいや?」 「そんな事ないよ。たまにはこういうのも、変わってていいんじゃない?」 「よかった、碇君がそう言ってくれて・・・・碇君が嫌に思ったら私、どうし たらいいかわからないから・・・・」 私はそう言ったけど、碇君は話をはじめようとした。 「・・・・じゃあ、何を話そうか?」 「碇君が何かお話して。そうした方が、私も入って行きやすいから・・・」 「だね。じゃあ、僕から話すよ・・・・」 碇君はそう言うと、私に色々な話をしてくれた。 私には解らない事も多くて、碇君の話を何度も遮っては質問をしたけど、碇君 はその全てにやさしく真剣に答えてくれた。そして私も、そんな碇君に導かれ るかのように、心の扉を開いて見せた。 私は今までにないくらい、たくさん話をした。 そして、今までにないくらい、たくさん碇君の話を聞いた。 私はずっと、話をするのが得意じゃなくて、あんまり自分から会話に参加する 事はなかったけど、碇君と話をして、人と話をすれば、もっと世界が広がる事 を初めて知った。 だって、今までずっと知らなかった碇君についてのことが、こんなに簡単に知 ることが出来たんだから・・・・ 「綾波?」 「何、碇君?」 「いい話が出来て、よかったね。」 「うん!!」 碇君の笑顔は、いつもよりも綺麗に見えた。 そして、私の顔も碇君の目にはきっと、いつもより光り輝いて見えているだろ うと思った・・・・

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