私立第三新東京中学校

第四十四話 昇る朝日と後に残されたもの

「碇君、碇君!!」

誰かが僕を揺さぶる。しかし昨日はなかなか寝付けなかったので、まだかなり
眠い。

「碇君、起きて。」

どこかで聞いた事のある声だ。僕は仕方なく重いまぶたをあげた。
するとそこには、制服を着た綾波がいた・・・・

「あ、綾波・・・」

僕は眠い目をこすりながら、上半身をゆっくりと起こす。寝ぼけまなこで見た
部屋は、まだ、ようやく朝日が差しはじめたという段階で、薄暗かった。

「碇君、起きた・・・?」
「・・う、うん・・・でも、もう朝なの?」
「まだ早いんだけど、今朝は早くうちに帰った方がいいでしょ?」

僕は綾波のその言葉を聞いて、アスカの事を思い出し、大きな声で叫んだ。

「そ、そうだった!!」

そう叫ぶと、僕の眠気は一気に吹っ飛び、僕は綾波のベッドから飛び起きた。

「こうしてはいられない。早くうちに帰らなきゃ。」

僕は綾波に言う訳でもなく、一人で口に出す。しかし、そんな慌てる僕を見て、
綾波は僕の手を取って言った。

「そんなに慌てなくても平気よ。朝食を作ったから、食べていって。」
「え!?」

僕は綾波の言葉に我を取り戻して、テーブルの方を見ると、既に二人分の朝食
が並んでいた。味噌汁が湯気を立て、いい匂いをさせている。

「もう朝なんだから、そんなに慌てなくても、ご飯を食べていく時間くらい、
あるでしょ?」
「う、うん・・・・」

僕は綾波の言葉に納得し、落ち着きを取り戻した。今更十分や二十分早く帰っ
てこようと、同じ事なのだ。

「冷めないうちに、たべましょ。」

綾波はそう言って僕を促す。僕は綾波に言われるままにテーブルについた。が、
起きぬけで口の中が気持ち悪いので、すぐに立ち上がって言った。

「口をゆすがせてもらうよ。」

そう言って僕は、台所に置いてあるコップを取って口をゆすぐ。そのあいだに、
綾波は僕のご飯と味噌汁をよそっている。僕が席に戻ると、綾波は僕に箸と御
飯茶碗を差し出す。

「はい、碇君。」
「あ、ありがとう・・・」

僕は、微笑みながらうれしそうに茶碗を渡す綾波を見て、少し戸惑いながら、
受け取って答えた。綾波はそのまま自分の箸を手に取ると、いただきますを言
う。

「いただきます。」
「い、いただきます。」

僕と綾波は食べはじめた。食べている間、綾波は時折ちらちらと僕の方に視線
をやる。綾波はまだ、自分の料理に不安を持っているのだろうか、そう思うと、
僕は綾波を安心させる為に、その度ごとに優しく微笑みを返した。すると綾波
は少し顔を赤くしてうつむくと、恥ずかしそうに食べはじめるのだった。

朝食も済み、お茶をすすりながら、腕時計を見てみると、時間はまだようやく
朝の六時になろうかというところだった。僕は綾波が洗い物をしている間、自
分の寝たベッドをきれいに整えることにした。

まもなく、僕たちが二人とも片づけ終わり、僕ももう帰る時間が訪れた。

「じゃあ、綾波、僕はこれで帰るよ。」
「うん。」
「泊めてもらっちゃって、すまなかったね。」
「いいのよ、別に気にしなくて。」
「うん、じゃあ。」

そうって僕は綾波に背を向けると、玄関から外へ出る。外の天気は、昨日の嵐
が嘘のようにいい天気で、朝焼けが眩しかった。そして、僕が何気に後ろを振
り返ると、いつのまにかそこには、鞄を持った綾波が立っていた。僕は驚いて
尋ねる。

「あ、綾波!!どうしてここに!?」

すると綾波は軽く微笑みながら答える。

「家で一人でいてもしょうがないし、一緒に碇君の家に行ってもいいでしょ?」
「う、うん・・・まあ、別に構わないけど・・・」
「碇君ならそう言ってくれると思った。じゃあ、いきましょ。」
「う、うん・・・」

いつのまにか綾波は僕の手をとって、僕の家へと歩きはじめる。僕は綾波に引
かれて、進みはじめた。
しばらくして、僕たちはようやく家まで辿り着いた。僕は、アスカはまだ寝て
るだろうと思って、インターホンは鳴らさずに、鍵を取り出すと、鍵を開けて
そのまま中に入ろうとした。

「あれ!?」
「どうしたの、碇君?」
「鍵、開いてるみたい。」

僕が鍵をまわすと、鍵が締まってしまった。という事は、鍵が開いていたとい
う事だ。僕はもう一度鍵をまわして鍵を開けると、静かにドアを開けた。
僕がドアを開けて、最初に目に飛び込んできたのは、アスカの姿だった。アス
カは玄関で僕を待っていたのだろうが、起きていれなくなったのか、そのまま
そこで座って眠り込んでいる。僕はアスカが僕の事をずっと待っていてくれた
事を知ると、愕然とした。僕が綾波の家でのんきにご飯を食べ、眠っていたと
いうのに、アスカはここでずっと起きて僕の帰りを待っていたのだろう。僕は
あの時はしょうがなかったのはわかってはいたが、大きな後悔の念に駆られた。

「アスカ・・・」

僕は一言つぶやくと、急いで僕の部屋に入って、毛布を取り、アスカのからだ
にかけてやる。そして、アスカの横に並んで座ると、僕はアスカの眠りを見守
ることにした。
綾波は玄関で立ち尽くしたまま、黙って僕の事をずっと見つめていた。綾波が、
アスカを見守り続ける僕を見る、その表情は何ともいえないものが交じり合っ
ていた。しかし、この時の僕には、アスカの事だけしか、目に入ってはいなか
ったのだった・・・・


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