私立第三新東京中学校

第十一話 僕の気持ち

気がつくと、僕は家の前に立っていた。
無我夢中で、病院から走ってきたらしい。息もかなり切れている。

僕は何てことをしちゃったんだろう・・・

僕はアスカの病室での出来事を思い出す。
アスカの唇についたご飯粒を、僕の唇がとる。まるでそれはキスまがいの行為。
とっさにやってしまった事とはいえ、今思い出すとかなり恥ずかしい事だ。

・・・・

ドアの前で顔を真っ赤にしている僕。こんな状態をミサトさんに見られたら何
を聞かれるかわからない。そう思った僕は、顔のほてりがさめるまで、ドアの
前で立ち尽くしていた。

「シンジ君。」
「!!!」
「今帰ったの?」

振り返るとそこにはミサトさんとリツコさんがいた。

「ミ、ミ、ミ、ミサトさん!!そ、それにリツコさんまで!!」
「どうしたの、シンちゃん?そんなに慌てちゃって。」
「な、な、なんでもないんです!!」
「そう?それに顔も真っ赤よ。大丈夫?」
「だ、大丈夫です!それよりなんでリツコさんがここに?」
「来ちゃ悪かったかしら?」
「そ、そんなことないです!!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえるわ、シンジ君。私がここに来たのは、
ミサトにお説教するためよ。」
「そうなのよ。学校でも冬月校長にたっぷりしぼられたっていうのに、リツコ
ったらまだ足りないって、うちに来るんだから。」
「そうだったんですか。」
「そういうことよ。この娘には人を教える立場ってものを、しっかりと教えて
やらなくちゃならないみたいだから。」
「さ、中にはいりましょ。こんなとこで話しててもしょうがないわ。」
「そうね。」
「はい。」

こうして、僕たち三人はうちの中に入った。どうやら、顔のほてりも今の会話
のうちに治まったようだ。
僕は取り敢えず自分の部屋に行き、荷物を置いて楽な格好に着替えた。リビン
グに行くと、ミサトさんとリツコさんは、いつも僕たちが食事しているテーブ
ルにつき、落着いた雰囲気を見せている。
僕は、二人の事はそっとしておき、三人分の夕食を作りはじめた。

作っているうちに二人の話が聞こえてきたが、あえて聞くのを止めた。
二人の話を盗み聞きするのはよくない。それに今は料理に専念するときだ。
そう思って、僕は精神をフライパンに集中させた。

夕食も出来上がり、テーブルに運んでいくと、自然と二人の会話はやんだ。

「食事できましたよ。」
「ありがと、シンちゃん。」
「さすがね、シンジ君。おいしそうだわ。」
「ありがとうございます、リツコさん。」

食べはじめると、会話も再開された。ミサトさんも今日ばかりはビールを飲ん
でいない。リツコさんに相当きつく言われたのだろう。
会話の内容は、ほとんど学校の話で、二人は同僚の先生の話をしていた。
話は、僕にとっても関係のある話だったが、あまり興味もなかった。

食事も終わった。

「じゃあ、僕はお先にお風呂に入らせてもらいますね。」
「いいわよ、シンちゃん。」

僕はお風呂場に向かい、服を脱ぐ。
湯船につかると、大きく息を吐き出した。

「ふー・・・」

ミサトさんはいつも「風呂は命の洗濯よ!!」なんて言っているけど、僕はあ
まり好きではなかった。風呂に入って一人、湯船につかっていると、その一日
にあったつらい事や悲しい事が、走馬灯のように押し寄せるからだ。

今日はいろんな事があったな・・・

僕はいつのまにか、今日一日を思い返していた。

再開されたの学校の授業。
洞木さんの家でのお弁当作り。
そして、アスカのお見舞い・・・

あの後病院を飛び出してきてしまったけれど、果たしてあれでよかったんだろ
うか・・・・?
そして、最後のあの言葉・・・

「僕は、アスカのそばにずっといるから。」

とっさに口から出た言葉だった。
なんで僕はあんな事を言ったんだろう?
そう言えば、洞木さんは、アスカは僕の事が好きだっていってたっけ。

アスカは僕の事が好き。
じゃあ、僕は・・・
僕の方は、アスカのことをどう思っているんだろう・・・?
・・・・・
・・・わからない・・・・
・・・・僕にはわからない・・・・

「シンジ君、いつまでお風呂に入ってるの?」

ミサトさんの声が、僕を現実へと引き戻していった。
僕は風呂からあがり、二人の前に顔を出した。

「一時間近くもお風呂に入りっぱなしで・・・。のぼせなかった?」
「大丈夫です。ちょっと早いけど、僕、もう寝ますね。」
「そう?じゃ、おやすみなさい、シンちゃん。」
「おやすみなさい、シンジ君。」
「おやすみなさい・・・」

僕は真っ暗な自分の部屋に入り、ベッドに横たわった。
窓からは、青白い月明かりが差し込んでいる。
そちらの方に視線を向けると、月明かりの下、机の上においてあった黒いウォ
ークマンが見えた。
僕はそれを手にとり、埃を払うと、ゆっくりと目を閉じ、聞きはじめた。

しばらくして、いつのまにか、僕はやさしい眠りに落ちていた・・・・


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