私立第三新東京中学校

第三話 新しい学校と先生たち

昨日も眠れなかった。こう毎日寝不足では体がまいってしまう。しかし昨日の
寝不足と今日の寝不足ではまったく意味が違う。あの加持さんが死んだなん
て・・・
僕は加持さんが好きだった。父さんがああだから、加持さんの中に父親を見出
していたのかもしれない。僕はミサトさんに理由を聞こうとしたが、ミサトさ
んの目を見たら聞けなくなってしまった。僕以上にショックだったのはいくら
僕でも分かる。
でも、本当にミサトさんは強い人だ。最近ではまったく普通にみえたからだ。
僕にはとても耐えられない。好きな人が死ぬなんて・・・

目覚し時計のアラームがなった。おきる時間だ。二人分の朝食を作り、一人で
食べはじめる。
朝食も済み、学校に行く用意もできた。今日はミサトさんを起こすのは止めよ
う。そうおもって「学校に行ってきます。」という書き置きを残してうちを出
た。

「よう、シンジ!おはようさん!!」
「トウジ!!」
「何やそんな顔すんなや。」
「トウジ、僕、僕・・・」
「ええ、ええ。気にすんな。ほれ見てみい、足もこのとおり元気や。」
「ほ、ほんとだ!」
「なんでもネルフの最新技術を駆使した義足とやらで、走ったりはでけんが、
普通に歩くぶんにはまったく問題あらへん。」
「そうかぁ、そうかぁ・・・」
「せやから辛気臭い顔すんのはなしにして、これからは楽しくいこうや!」
「うん。」
「さ、いくで!はやくせんと遅刻してしまうわ!」

本当によかった。僕は義足のことなんて何にも知らなかったから、ずっと松葉
杖で歩くのかと思ってた。でも、トウジはスポーツが得意だから走れないとい
うのはつらいだろう。僕のせいではあるが、幾分安心できた。これからもずっ
とトウジとは友達でいよう。

途中でケンスケと合流し、三人で学校へ向かった。ケンスケも僕が安心したの
を知って喜んでいるようだ。

「シンジ、知ってるか?」
「何を?」
「今度の学校はいろいろあって人口が減ったせいでいくつかの学校が統合され
るんだよ。」
「本当?」
「ミサトさんから何も聞いてないのか、シンジ?」
「うん、最近ミサトさんは仕事のことは話さないんだよ。」
「そうか・・・」
「どうした、ケンスケ?」
「いや、なんでもない。」

僕たちは学校に着いた。クラス替えとかがあるので、取り敢えず生徒はみな校
庭に集合するようにとのことだ。

「三人いっしょのクラスになれたらええなあ。」
「そうだな。」
「うん。」

この件に関しては三人とも依存はない。何たって三バカトリオなんだから。
そう言えば名付け親はアスカだったっけなぁ。
初めのころは腹も立ったが、今ではそれも懐かしい。アスカとも同じクラスだ
ったらいいなぁ。そう言えばアスカは・・・

「おい、シンジ!!」
「な、何?びっくりしたなぁ。」
「さっきから呼んでたんやで!まったく朝からぼけーっとして。」
「ご、ごめん。で、なに?」
「朝礼始まるで。」
「うん。でもトウジがそんな事言うなんて珍しいじゃないか。」
「初めの日ぐらいちゃんとせな示しがつかんからな。」
「そうそう、シンジ昨日ちゃんと寝たのか?」
「う、うん。」
「おい、いよいよはじまるで。」

朝礼が始まった。見覚えのある中年の先生が壇上に立ってしゃべりはじめた。

「本日の朝礼を始めます。この第三新東京市は、災害に見舞われ、住民の多く
が離散してしまいました。そこで中学生の減少に伴い、第三新東京市にある中
学校を統合し新生第三新東京中学校の成立となりました。また、新校舎の建設
及び諸費用をある一個人の手に委ねたため、公立ではなく、私立学校となりま
す。その人物が当校の理事長となるわけですが、本日は事情によりいらっしゃ
っておりません。そこで、まず初めに新しい校長先生のお話があります。皆さ
ん静粛に聞くように。では校長、お願いします・・・」

僕は朝から寝不足ということもあって、つまらない話を聞きながらうとうとし
ていた。朝礼はゆっくりと校長先生が壇上に登っていくという場面だ。

「おい、シンジ!」
「んー」
「シンジの奴寝てるよ、トウジ。」
「シンジ!!」
「んっ!!な、何だ、トウジ、びっくりするなぁ。もう少し寝かせて・・・」
「シンジィ!ねるなぁっ!!」

ボカッ!!

トウジの軽い一撃が僕にヒットした。これで僕のうとうと気分は一気に覚めた。

「いたいなぁ、なんだよトウジ、いきなり。」
「人が呼んどるのに寝てるんが悪いんや。」
「しかしもう少しやさしい起こしかたってもんが・・・」
「そんなことはどうでもええ。おきたな?」
「起きたよ、起きましたよ。」
「そうか、じゃああれみてみい。どっかで見覚えのあるおっさんやけど・・・」
「ん、あれは・・・・ふ、副司令じゃないかぁっ!!」

「えー、皆さんはじめまして。このたび私立第三新東京中学校の校長を勤めさ
せていただきます、冬月コウゾウです。これから仲良くやっていきましょう・
・・」

確かにあれは副司令だ。ちゃんと自分で「冬月コウゾウ」って名乗ってるし。
でもなんで副司令がこんなとこに・・・

「副司令やて?!道理で見たことのある顔やと思ったわけや。」
「副司令って、ネルフの副司令だろ?」
「そや。左遷でもされたんかな?」
「シンジは何も知らないのか?」
「え?」
「シンジ、考え込まんでこっちの話も聞け。」
「え、うん。何?」
「ネルフの副司令が校長だって知ってたか?」
「知らないよ。さっきも言ったようにミサトさんは何にも話してくれないし。」
「そうか、ミサトさんも知らんかったんかな?」
「そんな事はないと思うけど・・・」
「じゃあなんでミサトさんは何も言わないんだよ。」
「そうか、さてはシンジ・・・」
「ミサトさんに嫌われたな!!」
「そんな事はないよ!絶対ない!!」
「ほんまかぁ?」
「そうだよシンジ。嫌われたに違いない。何か気に触ることでも言ったんだ
ろ?」
「そ、そういえば・・・」

加持さんだ!気にしてた加持さんのことを言ったのがまずかったんだ。
でもあれは昨日の夕方のことだし・・・
それに僕が言っても、もうどうしようもないことだったはずだ。
関係ないに違いない。そう思おう。

「そういえばって図星だな、シンジィ!!」
「ち、違うって!」

そんなこんなでいつのまにか朝礼は終わっていた。結局新しい先生たちの紹介
も聞き逃してしまった。そして僕たち生徒はぞろぞろと列を組んで校庭を出て
行く。

「シンジ君!」
「ん誰だ?ってリツコさん!!」
「リ、リツコさんだ。」
「おはよう、シンジ君。」
「リツコさん、どうしてここに?副司令もいるし・・・」
「全員左遷よ。」
「え?」
「用済みになった人間はもういらないということかしらね・・・」
「全員って?」
「ネルフの人間全員よ。教職免許のある人間は皆ここに来たわ。」
「皆ってことは他に誰と誰が?」
「シンジ君、あなたってもっと真面目な子かと思ったけど、以外とそうでもな
いのね。朝礼で話を聞いていないなんて。」
「ごめんなさい、リツコさん。」
「さんじゃなくて先生よ。まあいいけど、ここに来たのは偶然にもあなたの知
っている人ばかりね。」
「知ってる人って言うと、日向さんとか青葉さんとか伊吹さんとか?」
「そんなところかしらね。ところでミサトは・・・・」
「ひょ、ひょっとしてミサトさんも?!」

突然校庭に爆音が響いた。赤いスポーツカーがスピンターンしながら入ってく
る。

「あ、あの車は・・・」
「ミ、ミサト・・・」

ミサトさんがさっそうと車から降りる。周りは突然の車の乱入に驚いてざわざ
わしている。

「ごめーん、ちょっち遅れちゃったー!」
「遅れたじゃないわよ。それに校庭に車で乗り付けて・・・」
「まあまあ、いいじゃない、リツコ。それよりシンジ君。」
「は、はい。」
「どーして起こしてくれなかったの!おかげでリツコに怒られちゃったじゃな
い!」
「ご、ごめんなさい。ひょっとしてミサトさんもここの・・・」
「そうよ!社会科教師葛城ミサト、あなたたち2年C組の担任よ!!」

ショックで声も、出ない。

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