「たすけて〜、より!また、いじめられたよぅ〜!!」
「拓登、わたしは青くて丸くて野太い喘ぎ声を出す、未来からやってきた猫型ロボットじゃない」
「でも、よりは黒くて尖ってて可愛い喘ぎ声を出す、現代社会の魔女さんだから、なんとかしてよ」
「……考えてみる」

毎日どころか、1日も何回も精液をもらっているとは言え、
ちょびっと調子に乗りすぎてるようにも見える拓登の言動に、
もうちょっとビシっとした方がいいかな〜、とか思うよりさんだった。



Lost magic ??のファンフィクションですよ。

Written by ちおね





朝と昼との間の時間。
だけど、もういくつ寝れば昼休み。
ぼくは、浅い眠りと覚醒の間をフラフラしつつ、
それでも、第3者的には、やすらかな居眠りを満喫していた。

いつものごとく、ただチョークが黒板を叩く音のみが聴こえていると思いきや、
後ろの方から、ヒソヒソ声の姦しいお喋りも、しっかり聴こえてきてしまうのは困ったものだった。
授業中だぞ、一応…、と思いつつも、さっきまでウトウトしてたぼくも、
他人のことは言えたもんじゃないので、そのまんま寝たふりを続けた。

「ねぇねぇ、最近、拓登くんってやつれてきてない?」
「ほら、やっぱり魔女とつきあってると、いろいろ気苦労が多いのよ」
「精気を搾り取られるとかね〜」
「……夏子、それを気苦労とは言わないわ、生命の危機よ」
「うぅ…、拓登くん、安らかに成仏してね」

一部、事実を突いているだけに、笑えない冗談だった…。
いや、本当に、いつか、そういうことにもなりかねないなぁ…、と思わないこともないではないし。
とりあえず、尿道のあたりとか痛いんですけど。
そのうち血とか出ないかな?

「ちょっと!拓登くんを勝手に殺さないで!
 …って言うか、拓登くんのおうちってカソリックよ、成仏なんかしたらマズいわよ?」
「ほほぅ、春子さんは、妙に拓登くん情報に詳しいですなぁ」
「ななななな、何をおっしゃる夏子さん、飛んで火に入る夏の虫よ!」
「それを言うなら、とんだ藪蛇ね」
「つまり、自らポロリと事実を口にしたってことよねぇ」
「夏子!秋子!二人とも、そこに正座っ!いい?人という字はね…」

と、春子さんのお説教が始まったとこで、昼休みを知らせるチャイムが鳴る。

「あ〜、それじゃ今日は、ここまで、
 それから、そっちの授業中に、極度に煩い3人は、1週間メイド当番な、じゃ!」

無意味に爽やかな笑顔を見せて、教室を出て行く教師。
ちなみに、メイド当番っていうのは、クラスの雑用係のことで、
別になんということもない仕事だけど、メイド服を着用しなくちゃいけないっていうのが難点だ。

ちなみに、男子の間じゃ、やらされると嫌な当番ナンバー1の座を5ヶ月間保持している。
この記録は、今のところ破られそうにない。
ある男子なんか、それで登校拒否になってしまったぐらいだ。
メイド服があまりにも似合ってしまった為に、
その手の男から押し倒されかけたっていうのが、直接の原因らしいけど。

「う〜、警告抜きでメイド当番はひど過ぎますわ」
「聴こえてるんなら、注意すればいいのに…」
「春子ちゃんが大声出すからだよ〜」
「そもそも夏子が魔女の話を始めたのがきっかけで…」
「ちょっと、それって、わたしのせいにしてるっぽい〜」
「まぁまぁ、ここはひとつ、悪いのは全て、あの魔女のせいってことで」
「そうね」「そうだわ」「そうしましょう」

なんだか丸くまとまったらしかった。
よりも、クラスの平和に貢献してるなぁ…と実感する数少ない瞬間だ。
だからって、こんな貢献の仕方じゃ、よりも、あんまり嬉しくもないんだろうけど。
なんてことを考えていると、突然、首の周りに、すごい圧迫感が!

「ねぇ、魔女の犬さん?」
「わたしたち、あなたのご主人のおかげで、メイド当番よ?」
「やっぱり、上司の罪は部下が尻拭いするっていうのが日本の常識っぽいよね〜」

春子さんの真っ白い腕が、ニシキヘビみたいに、ぼくの首に絡まっていた。
しっとりヒンヤリな感触が爬虫類のお腹っぽくて、なんかエッチだ。
夏子さんが、ちょこんと拓登の膝の上に座って、
行き場のない秋子さんは、机の上にポジションを決めたようだった。
上履きを脱いで、ソックスだけになった足で、ぼくの体を、チョコチョコくすぐるようにつついて来る。

どうしよう!?万事休すか!と思った瞬間。
2列離れた席で、こちらをじっと見つめるよりさんと眼が会ってしまった。
授業が終わったので、いつもの黒づくめの魔女ルックに戻ってるけど、
とんがり帽子の下の目が、なんかジト目で、こっちを睨んでるみたいだし。
マズい、マズすぎる、なんか、ちょこっと怒ってるように見えるし、
そういうときって、内心、すごく怒ってるって経験上知ってるし……。

違う、違うんだ、より!
ぼくは、必死で意思疎通を図った。
そうだ!こんなときにはモールス信号っ!!
ボーイスカウトの訓練は伊達じゃない。
指でツートントンって感じで…。

「あんっ!そんなとこ突付かないでよ、エッチな犬さんね」

しまったっ!あせったせいで、思わぬとこに指が!!
ならば、手旗信号はどうだ!
これで気づいてくれ、より!

「いや〜ん、ちょっと、スカート引っ張らないでよっ!犬のくせに!」

しまった!あせったせいで秋子さんのスカートで手旗信号を…。
こうなったら、もはや、古典的な手法だけど、目配せで、このピンチな状況を伝えるしかっ!!

「あらあら、犬さん、目にゴミでも入ったのかしら、お姉さんが取ってあげるわね」

しまった!春子さんの顔が、目の前1cmの距離にっ!
これじゃ、目配せも使えない。


トン、と足音がした。
春子さんの顔越しに、黒くて長くて先の尖った帽子の先が見える。

「…おまえたち、拓登から離れろ」
「嫌だと言ったら?」
「しかたがない、引き剥がすまでだ」

よりの右手がクィっと曲がった瞬間、ぼくの周りで風が渦巻き始めた。

「ちょっと!?何よこれ?」
「う〜、髪が目とか口に入って気持ち悪いっぽい〜」
「くっ…、相手が風では、防ぎようがないわねっ!」
「え〜い、今日のところは、このへんで勘弁してあげるわ、拓登くん」
「その台詞って、わたしたち、悪者っぽ〜い」

こうして危機は去った。ありがとう!より!

「今のは…、神風の術?」
「バカ、それだと魔法じゃなくて忍法だ」
「そうか〜、忍法かぁ、くの一っていうのも悪くないよね」
「だから、忍法などではないと言っている」
「うん、ごめん」
「おかげで、いらぬ魔力を使ってしまったではないか、ああなぜかたちくらみが…」
「どうしたの、より?後半の台詞が棒読みだよ?」
「いやいや、そんなことはないぞ、これも、きっと誰かさんのおかげで魔力を無駄したせいだな、
 あぁそうだ、そういえば、今日は天気がいいな、屋上とか行ってみたくなったりしないか?」
「より、その…、なんだけど、2時間目の中休みにもあげたばっかりなのに…、そんなの無理だよ」
「大丈夫、拓登ならできる、わたしが保証しよう」
「そんな根拠のない保証されてもなぁ…」

正直、このごろのよりは、ちょっと精液の摂りすぎだと思うし、
こんなの健康によくないと思う、主に、ぼくの健康だけど。
春子さんたちの噂話だって、いつ本当の話になるか分からないし。

「そうか…、そこまで拓登が嫌がるというなら、無理強いはできないな」
「うん、ごめん、でも、よりの為にも、もっと控えた方がいいと思うんだ」
「わかった」

そう言って、クルリと踵をかえした拍子に、黒マントの中身がチラリと見える。
あれ?なにか紺色の…、でもブルマにしては、ちょっと短いような……。

「ねぇ、より?」
「うん?どうした?」
「いや、そのマントの下、体操服じゃなかったっけ?」
「あぁ、これのことか…」

よりが、チラリと黒マントをめくってみせた。
つるぺたんな紺色の胸に、白い布にマジックで”より”と書いてあった。

「スクール水着、略してスク水だが」
「しかも旧型だしっ!芸が細かいよっ!そもそも、なんでスク水なんだよっ!?」
「夏だし、暑いし、拓登も、たまには気分を変えて、
 こういうのが好きかと思ったのだが……、やっぱり体操服の方が燃えるのか?」
「あ〜、いや、そんなことないけど…」
「そうか、わたしは、これから屋上で、ひとり、淫らな行為にいそしむ事にするか、
 なに、拓登がまるで興味がないというなら言うだけ無駄なことだが…、
 いや、時間をとらせてしまって悪かった」

と言いつつ、また、チラリとマントを翻してみせた。
うわ…、なんか、お尻に、紺色の布がくい込んでるし…。

「え、いや、そんなことないよ!」
「ここから先がわたしの世界、もう選んでしまったのだから、扉は自分で開けるな?」

ピシャンと教室の引き戸が閉じられ、よりの姿は消えた。

「え〜と」

しばし、沈思黙考。
まだ、昼御飯も食べてないし、あ〜んなことやこ〜んなことやってたら、午後の授業には、絶対に遅刻しそうだし、やっぱり、ちんちん痛いし……。

結論を出すのに2秒はかからなかった。

「より〜、待ってよぅ〜!」

情けない声とともに、屋上へ駆け出していく、ぼく。


「あ〜あ、ありゃ、完璧、魔女に取り込まれたね」
「うぅ…、拓登くんが…、拓登くんが、悪の道にズブズブと……」
「そんなことより、あたしら、明日からメイドなんだけど」
「そう!それよっ!魔女に箒、メイドにモップ!!しかも、こっちは3人よ、十分に勝算はあるわね!」
「…ないわよ、春子」
「うんうん、ないっぽ〜い」


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