夏。
青い海と真っ白な砂浜。
そして、このさんさんと降り注ぐ日差し。
俺と由綺は、大学の夏休みを利用して南の島にバカンスに来ていた・・・・
はずだよな、確か?



二人の星 -- in summer vacation --

From Eiji Takashima
For ICCHAN



「おーい、藤井くーん、飲み物はまだかー?」
「はいはい、今お持ちしますよー。」

とほほ、二人っきりだったらよかったのに・・・

俺は英二さんに言われて、クーラーボックスから人数分のジュースを取りに行っていた。

そうなんだよな。
現在人気絶頂のアイドルである由綺が、こんなのほほんとバカンスに行っていられる訳もないし、
この万年素寒貧状態の俺が、由綺を連れ去って海外に高飛び出来る資金力なんてある訳がなかった。

と言う訳で俺は、撮影旅行とは名ばかりの緒方プロの旅行に、ADとして一緒に来ている。
つまり、俺は単なる雑用係で・・・と言うか、殆ど英二さんのお情けのお声掛かりで一緒に連れてきてもらったんだ。

「お待たせしました。」

俺は両手いっぱいの缶ジュースをみんなの前のテーブルの上に広げる。

「サンキュな、藤井君。」

まず、英二さんが取る。
そして理奈ちゃんと由綺が取った後に、その他のメンバーが取って行った。

俺は余計に持ってきてしまったジュースをまたクーラーボックスに戻しに行く。
そして帰りは、俺の分を一本手にしている訳だ。


「ご苦労様、冬弥くん。」

戻ってきた俺に、由綺が労いの言葉をかけてくれた。
いくら二人っきりでないとは言え、俺と一緒で由綺も嬉しいらしい。
スタジオでは滅多に見せない、俺にだけ向けてくれる笑顔を見せている。

「ああ。由綺もお疲れ。」

俺もそんな由綺の前では笑顔を絶やさない。
まあ、あの音楽祭前後の不安定な時期から比べると、嘘のように俺と由綺の関係は順調だった。
だから俺は無理に笑顔を作る必要もなく、自然な態度で由綺に接することが出来る。
由綺もそれを感じているのか、特に最近は明るくなったような気がしていた。

俺がようやくスタッフ用の椅子に腰を下ろすと、何気に英二さんが言った。

「やっぱり藤井君を連れてきて正解だったかなぁ?」
「どうしてです?」

俺は英二さんに訊ねる。
俺の知る限りでは、英二さんは由綺のことが好きだったはずだ。

「いやさ、由綺ちゃんがいい顔してくれるから・・・」

英二さんの台詞は、緒方英二一個人としてのものなのか、名プロデューサー緒方としてのものなのかわからない。
そんなのらりくらりとしたところが彼の特徴なんだけれど、実際俺は戸惑うことも多かった。

でも、どっちにしても英二さんの言うことは正しい。
今の由綺は本当にいい顔をしている。

「英二さんのおかげですよ。連れてきてくださって、有り難う御座いました。」

そう言って俺はぺこりと頭を下げる。
まあ、本音を言えば、この辺は殆ど礼儀の範疇だけれど。

「そんなことするなって。君はADとしては悪くないと思うよ、ホントに。だから俺も連れてきたんであって・・・」

そして、英二さんは少し離れたところに座っている、何を考えているんだかわからないような顔をした弥生さんをちらりと見ると、
聞こえないように小さな声で続けてこう言った。

「まあ、弥生姉さんは気に食わないかもしれないけどな。」

それに関しては、俺も同感だった。



「男二人で何こそこそ話してるのよ?」

そんな時、横から理奈ちゃんが首を突っ込んでくる。
夏の日差しに照らされて、由綺とは違った意味で理奈ちゃんもいつもよりもはしゃいでいた。

「いやな、男同士の語らいって奴を・・・」
「変なの。こんな真っ昼間にすることじゃないでしょ。どう見ても怪しいわよ。」
「そうかぁ?」
「そうよ。ただでさえ兄さんは変な噂が立ってるのに・・・」
「おいおい・・・」

困ったような顔をして応える英二さん。
しかし、それは洒落になっていないと言う顔をしていた。
そんな英二さんに向かって面白そうに理奈ちゃんが言う。

「名プロデューサー緒方英二、ホモ疑惑。夜のお相手は男?」
「こ、こらっ!!」
「あはははっ、芸能誌もなかなか面白い記事を書いてくれたじゃない。」
「許せん・・・」

英二さん、本気で怒ってるみたいだ。
まあ、からかって楽しんでいる理奈ちゃんに、と言うよりは、もっぱら真偽のほども知れない暴露記事を書きたてた、
出版社側になんだろうけど。

でもまあ、英二さんには申し訳ないけど、俺はその出版社にはさり気なく感謝していた。
なぜなら、この旅行はそのスクープ記事の為に急遽決まったようなものなんだから・・・


「理奈ちゃんも、あんなに緒方さんいじめなくってもいいのに・・・」

見かねたように小さく言う由綺。
俺はそんな由綺の頭を軽くぽんと手の平で叩くとこう答えた。

「まあまあ・・・理奈ちゃんも日頃の鬱憤を晴らしたいんだろうよ。」
「でも・・・」
「英二さんの人をからかう手口は独特だからね。それに自分は滅多にそんな隙を見せないし・・・」
「うん・・・」
「だから、ここぞとばかりにお返ししてるんだよ。まあ、あの人にはいい薬かな?」
「そう?」
「そうそう。それに、今回のことで俺達がここに来れたんだし・・・」

そう言うと、俺はそっと波打ち際に、そして水平線に向かって視線を向けた。
そして、由綺も俺と一緒に、遠くを眺める・・・

「海・・・だね、冬弥くん・・・」
「ああ・・・やっぱりいいな、海は・・・」

それが、二人の今回の旅行の感想だった。




「お疲れさまでしたー!!」
「はい、みんなお疲れー!!」

結局撮影は夕方過ぎまでかかった。
普通の撮影はお昼過ぎにはとっくに終わっていたんだけれど、英二さんの意向で夕焼けをバックにしたカットも撮ったからだ。
まあ、それも大したことじゃなく、夕暮れ時になるまで俺達は自由時間を満喫していた。

「焼けなきゃいいけど・・・・」

別れ際に、理奈ちゃんがぼそっと呟いた。
俺はそんな何気ない一言を聞きとめて訊ねた。

「やっぱり気になるの?」
「あっ、冬弥君・・・今の聞かれちゃった?」
「う、うん。悪いけど。」

俺がそう答えると、理奈ちゃんは照れ臭そうに白状した。

「そう・・・まあ、ちょっとだけね。私は小麦色の肌って言うのも健康的でいいと思うんだけど、ほらね・・・」
「英二さん?」
「そうそう、あのホモ男。不健康でしょ?こんな綺麗な海に来てるってのに、ひとりだけ泳がなかったし・・・」

理奈ちゃん、もう完全に英二さんをホモ呼ばわりだ。
なんだか由綺じゃないけど、ちょっとだけ英二さんが可哀想になってきた。
でもまあ、面白いのは英二さんには残念ながら紛れもない事実で、俺は笑いながら理奈ちゃんの言葉に応えた。

「た、確かにね。英二さん、あんまり直射日光似合いそうにないし・・・」
「もう、だからあんなひねくれ者に育つのよ。」
「確かにひねくれてるひねくれてる。」
「でしょう?だからいい気味よ、今回のことだって。」
「うん。英二さんにはいい薬になったんじゃないの?」
「だといいんだけど・・・」

そして理奈ちゃんは周囲を見渡す。
英二さんに聞かれないかどうか、やっぱり心配らしい。
俺はそんな理奈ちゃんの様子をちょっとかわいく思うと、僅かな笑みを漏らした。

理奈ちゃんは英二さんこそ発見しなかったものの、別の姿を見とめて俺に向かってこう言う。

「あ、兄さんじゃないけど、私はもうお邪魔みたいね。」
「あ、うん。」
「じゃあ・・・くれぐれも弥生さんには気をつけて。」
「えっ?」
「夜這いは男のロマン!!なんてね。じゃ、冬弥君!!」
「あっ・・・」

そして有無を言わさず理奈ちゃんは俺に手を振って去って行った。
全く、理奈ちゃんもなんてことを・・・

「お待たせ、冬弥くん。」
「あ、うん。由綺もお疲れ。」
「冬弥くんもお疲れ様。でも、楽しかったよね?」
「うんうん。」

確かに文句なく楽しかった。
普段のスタジオの撮影ではそんな頻繁に由綺と話が出来る訳じゃないし。
今回の撮影旅行は完全に内輪だけだから、俺も由綺も人目を気にせず普通に付き合っている。
俺達二人の関係は、ここの面子には殆ど公認状態だったから。

「でも、やっぱり弥生さんは気に食わないみたいだな。」
「うん・・・でも、弥生さんも冬弥くんが嫌いって言う訳じゃないよ。根本的に私が男の人と付き合ってるのが不満みたいで・・・」
「まあね。でも、どっちにしても同じことだろ?由綺の相手は紛れもないこの俺なんだし・・・」
「う、うん・・・ごめんね、冬弥くん。」
「由綺が謝ることじゃないよ。邪魔があればこそ、燃え上がる恋ってのもあるだろ?」

俺は謝る由綺の頭をくしゃくしゃにしてそう言った。
そう、由綺は音楽祭が終わってからずっと、弥生さんのことを気にしていたんだ。

「冬弥くん・・・」
「今はバカンスなんだしさ、弥生さんも大目に見てくれるよ、きっと。」
「だといいんだけど・・・」

笑ってそう言う俺を見ても、由綺の表情の翳りは消えない。
まあ、実際俺もそうなんだよな。
いくらバカンスだって言っても、あの弥生さんがいつもの態度を変える訳がないだろうし・・・

でも、俺まで一緒になって沈み込んでちゃ駄目だよな。
こんな時こそ、俺が由綺を励ましてやらないと・・・

「駄目でもいいじゃない。たまには弥生さんを悔しがらせてみようよ。」
「えっ?」
「今晩、ちょっと抜け出さない?二人だけで夜の浜辺に・・・」
「・・・・大丈夫かな?」
「大丈夫だって。いいだろ、由綺?」
「うん・・・じゃあ、今晩。」
「12時丁度に撮影した場所で。いいね?」

そして俺と由綺はそう約束して別れると、それぞれの宿泊用に宛がわれたロッジに消えて行った。




「・・・・」

腕時計を見る。
時間は現地時間で11時半。
30分も早く来てしまうところが、我ながら情けない。
でも、実際人目を忍んでの由綺とのデートを前にして、俺はドキドキを隠し切れなかった。

「・・・やっぱまだ、早いかな?」

そう呟くと、俺は浜辺に敷いたビニールシートに仰向けに寝転がる。
そこには俺達の住む街では絶対に見られないような星空が広がっていた。

「でも、こうしてるのも悪くない・・・かな?」

俺はともかく由綺を直接砂の上に座らせるのはまずいかと思ってわざわざ持ってきたこのシートだけど、
こうしてみるとなかなかどうして予想外にいい感じだ。
俺はこの眼前の大パノラマを眺めながら、由綺と一緒にこの夜空を楽しむのも悪くないと思った。



「お待たせ、冬弥くん。」
「っと・・・」

由綺が寝転がる俺を上から覗き込むようにして現れた。
俺は慌てて起き上がると、由綺に向かってこう促した。

「ここ、座りなよ。」
「うん。」

俺に示された場所に、由綺は静かに腰を下ろした。

「しかし早かったね、由綺。今は・・・」

そして俺は腕時計を見る。
まだ約束の時間よりも15分ほど早かった。

「うん。多分冬弥くん、時間よりも早くに来てると思って・・・」
「そ、そっか。由綺は俺のことなら何でもお見通しだな。」

俺は笑って言う。
実際、由綺は俺のことをよく知っていた。
わざわざ待ち合わせをしてデートをすることも、普通のカップルとは違って本当にごく少ないと言うのに。
でも、俺がそう言うと由綺は照れて応える。

「そんなことないよ。だって冬弥くん、いっつも早くに来てるじゃない。」
「そう?」
「そうだよ。私が冬弥くんよりも先に来たことなんて、一度もないんじゃないかな?」
「そうかなぁ・・・」

俺は少し思い起こしてみる。
すると確かに由綺の言うことも正しいような気がしてきた。
実際女の子を待たせるなんて言語道断だと思っていたし、それ以前に人を待たせるのが好きじゃなかった。

「・・・私はそんな冬弥くん、好きだよ。」
「えっ?」
「・・・・」

そっと俺に告げる由綺。
俺が突然のさり気ない愛の囁きに驚いて由綺の方を見ると、由綺は知らん顔をして海の向こうを見ていた。

「このぅ!!」

俺はこの星空の下でもわかるくらい顔を赤くしながら空とぼけている由綺のおでこをいきなりぴしゃりと叩いた。

「痛っ!!も、もう、いきなり!!」
「あはは・・・由綺のおでこはいつもながら叩き甲斐があるなぁ。」
「も、もう・・・・気にしてるんだからね、私も・・・」

これはいつもの二人のスキンシップだった。
こんな風に由綺の広めのおでこを叩けるのは俺だけだったし、由綺は困った顔をしながらぶつぶつ言っても、
本心では俺に怒ったりはしていなかった。

「でも、可愛いよ、由綺。」
「もう・・・冬弥くんたら。」
「由綺のトレードマークはそのおでこだもんな。」

俺は笑って言う。
実際最近の由綺の芸能界でのあだなは「おでこちゃん」だった。
俺は如何にもほのぼのとした由綺にあっていると思ったけれど、本人はいささか気に食わない様子。
まあ、確かにいい年をして「おでこちゃん」はないけどな。

「もう・・・もっと広くなったらどうするの?」

由綺はほっぺたを膨らまして怒る。
俺にとってはともかく、由綺にとっては現実問題なのだろう。
しかし、俺はそんな由綺をなだめるように頬に片手を添えるとこう言った。

「そうしたら、キスがしやすくなる。ほら・・・」

そして俺はおでこにかかった髪をかきあげると、そっとそのかわいいおでこにちゅっと音を立ててキスをした。

「あっ・・・」

突然のことに、由綺は小さく声を上げる。
でも、俺のそんな行為にも抗う様子は見せなかった。

そして俺は由綺のおでこから唇を離すと、頬に当てた手はそのままにして由綺に言う。

「こんなこと出来るのは、俺以外にはいないしね。」
「も、もう・・・」
「だから、広くなっちゃったら俺が責任を取るよ、俺の可愛いおでこちゃん。」
「・・・由綺、って呼んで。」

由綺はそう言ったけれど、俺に「おでこちゃん」って言われるのはそんなに嫌そうじゃなかった。
俺はそんな由綺を可愛く思うと、再び髪をかきあげてもう一度そのおでこにキスをする。
そしてその後いとおしそうに小さく由綺に告げた。

「好きだよ、由綺・・・」
「・・・私も・・・冬弥くんのこと、好き・・・・」

そのままどちらからともなく、今度はおでこではなく唇同士でキスを交わした。
やっぱり由綺も、おでこのキスではあまり俺を感じられないのかもしれない。
そう思えるほど、由綺のキスはいつにも増して情熱的だった。

「んんっ・・・」

くぐもった甘い声が俺の耳元に届く。
俺達は普段は一緒にいてものんびりと二人で同じ時間を過ごしているのが普通で、キスもそんな頻繁にはしない。
したとしても殆ど挨拶代わりで、唇と唇を触れ合わせる程度のものだった。
しかし、今の由綺は積極的に俺の舌を求めてくる。
俺はそんな由綺に少々戸惑いながらも、キスを返していた。

そして、長い長いキスが終わる。
俺も由綺も、半ば息絶え絶えだった。

「しかし由綺・・・今日はどうしたんだ?」

俺は改めて訊ねる。
すると由綺は恥ずかしそうに俺に聞き返した。

「冬弥くんは・・・こういうの嫌だった?」
「い、いや、嫌な訳ないけど・・・由綺にしては珍しいと思って、ちょっと驚いただけ。」

俺がそう言うと、由綺は上目遣いで応えた。

「だって・・・私だっていつまでもおでこちゃんじゃないから・・・・」
「由綺・・・」

やっぱり、気にしていたんだ。
俺はそう思うと、ふざけてしまった事を後悔した。

「私もまだまだ理奈ちゃんみたいな大人の色気は出せないかもしれないけど、でも、冬弥くんとは単なるお友達じゃないんだから。」
「・・・ごめん。俺・・・」
「いいの、冬弥くんが悪い訳じゃないんだし。」

由綺は俺を慰めるように笑って言う。
やっぱり俺、由綺のこんな笑顔にいつも助けられてるのかもしれないな。
由綺はよく俺が支えになってくれてるから頑張れるって言うけど、でも、それは由綺にとってだけの事じゃない。
俺も・・・やっぱり由綺が好きで、一緒にいるだけでほっとするんだ。

「でも・・・」
「何、由綺?」
「でも、たまには大人の女性として扱って欲しいな。」
「由綺・・・」
「ほら、冬弥くん、見て。」

そして由綺は指差す。
その向こうには俺がさっきまで眺めていた瞬く星々があった。

「ああ・・・綺麗だね、由綺。」
「うん、とっても綺麗。だってここは・・・日本じゃないんだもんね。」
「そうだな。」
「弥生さんは怒るかもしれないけど、でも、バカンス気分に浸るのも、たまにはいいと思って・・・」

由綺はそう言うと、そっと俺の肩に身を預けてきた。
俺は黙って由綺の身体を抱き寄せる。
すると、由綺は俺を軽く見上げてこう言った。

「あのね、冬弥くん・・・」
「ん、何?」
「この前弥生さんにね・・・少しお太りになりましたか、って言われちゃった。」
「そうなの?でも、そんな風には見えないけど。」
「う、うん・・・体重はね・・・増えてないんだ。」
「そう・・・じゃあ、どうしてなんだろうね?」

俺は由綺を抱いたまま訊ねる。
由綺は俺の問いに少しだけ時間を置く。
長く綺麗な黒髪の先を軽く指先で弄びながら、答えようかどうしようか迷っているかのようだった。
俺はそんな由綺を見ると、由綺の身体を軽く引き寄せる。
すると由綺は少しバランスを崩して、俺の胸の中に顔を埋める形になった。
俺としては予定外の事だったので、慌てて謝った。

「あ、ご、ごめん、由綺・・・・」
「いいんだよ、冬弥くん・・・」

由綺は俺の謝罪を遮ると、そのまま俺の胸に顔を伏せていた。
そしてさっきの答えを呟く。

「私もね・・・体重は増えてないって答えたの。そうしたら・・・」
「・・・・」
「そうしたら弥生さんね、身体つきが女性らしくなってきたって・・・」
「・・・・」
「胸もね、少し大きくなったみたい。今回、水着を新しく用意しなくちゃならなくなったし・・・」
「・・・・」
「私、あの日からずっとずっと、昔よりもずっと冬弥くんが好きになったの。だから・・・・」

由綺の言う「あの日」がいつなのか・・・それは敢えて聞く必要もなかった。
そう、それはもちろん、俺達が初めて結ばれた、音楽祭前夜の事だった。
そしてそんな由綺の言葉を遮って、俺は一言こう言う。

「可愛いね、由綺は・・・」
「冬弥くん・・・」

由綺が顔を上げる。
少し驚いたその顔は僅かに赤く染まっていた。
そして俺は、そのまま両腕で由綺を抱き締めた・・・



俺の腕の中で身体を小さくしている由綺。
あの日以来、俺達は何度か身体を重ねてきた。
それは快楽に溺れると言うよりも、二人の結びつきを確かめるような行為。
殆どキスや抱擁の延長線上だった。

しかし、今は違う。
由綺は明らかに恋人同士としてのそれを望んでいたのだ。
俺はそんな由綺の切ない想いを知ると、少し胸が痛んだ。
由綺が必要だったのは、安らぎだけではなかったのだから・・・・


「・・・いい?」

俺は由綺の耳元で訊ねる。
それだけだったけど、それ以上の言葉は何も要らなかった。
そして由綺も黙って小さく頷くだけで、何も言わずにそっと目を閉じた。

「・・・少し、大きくなったかもしれないね。」

俺は由綺の胸に手をやりながらそう言う。
言われてみるまで気付かなかったけれど、でも、確かに少し身体が丸みを帯びてきているように感じた。

「冬弥くんが・・・そういうこと、するから。」

小さく由綺が答える。
俺はそんな子供っぽい由綺をからかうように訊ねる。

「・・・嫌?」
「・・・・ううん・・・続けて。」
「俺も、やっぱり男だからさ・・・」
「うん・・・わかってる。」

そして、俺は少し体勢を変えて由綺の胸を弄んだ。
先程大きくなったとは言ったけれど、元々由綺は胸がない方じゃない。
だから、多分弥生さんが言ったのは身体だけの問題じゃないと思う。
由綺の雰囲気に、より暖かみが増したと言うか・・・
そして無論、俺はそんな由綺が好きだった。

「んっ・・・・」

時折、由綺の噛み殺したような声が漏れ出る。
やっぱりなんだかんだ言いながらも、由綺はこんなことには馴れない。
恥ずかしさに顔を伏せて、声が出るのを堪えている様子が手に取るようにわかって、俺はそんな由綺を可愛く思った。

「誰もいないよ、由綺・・・」

俺はそっと由綺に告げる。
背中から抱きかかえるようになっていた為、俺には後頭部しか見えない。
俺はともかく、由綺にとってはその方が有り難かったかもしれなかった。

「でも・・・」
「平気だって、多分・・・・」
「た、多分って・・・」
「でも、そんなこと言い出したら、こんなだだっ広いところでこんなことしてたら・・・」
「あっ・・・・」

由綺は俺の言葉でようやく気付いたらしい。
やっぱり流石は由綺。
なかなかに抜けているところがある。
俺はそんな由綺を微笑ましく思いながらも、ちょっといじめるようにこう言った。

「逃がさないよ、由綺。」
「と、冬弥くん、やっぱり・・・」
「だーめ。ほら・・・」

俺は由綺の身体を逃さないように完全に抱きかかえ、足まで絡ませた。
由綺は完全に困ってしまったように俺に懇願して言う。

「お、お願いだから・・・ね、いつでも出来るし・・・」
「こう言うのは雰囲気が大切なんだ。由綺の方からこんなシチュエーションにしたくせに・・・」
「だ、だからお願いしてるの。ね、冬弥くん・・・」
「駄目だよ、由綺。男はストップきかないんだ、こう言うのにはね。」
「だ、誰かに見られたら・・・」
「見られても、誰もそんな野暮は言わないよ。それにもし英二さんに見つかったら・・・」
「見つかったら?」
「雑誌社にタレコミをする。俺が緒方英二の相手ですって。」
「ええっ!?」

俺の冗談に由綺は飛びあがるような声を発した。
まさか由綺の奴、本気に・・・
俺は慌てて由綺をたしなめた。

「シッ!!声が大きいよ、由綺。冗談だってば。」
「そ、そうなんだ・・・ごめん、早とちりしちゃって・・・」
「まさか、本気にした?」
「・・・・ちょっとだけ。」

申し訳なさそうにそう言う由綺。
こんな由綺っていう可愛い彼女がいるって言うのに、どうして好き好んであんなおっさんの相手をこの俺が・・・
ちょっとだけ、俺は悲しく思ったりした。

「なら罰だ。このまま続ける。」

俺はそんな由綺の誤解を利用してこう言った。
別に由綺が嫌だって言い張るなら、別に俺はやめてもよかった。
でも、由綺の為にはここで今すべきだと俺には思えた。

「冬弥くん・・・・」

由綺は俺の頑強なまでの拘りに、半ば諦めてしまったような声を発する。
それもまた、由綺のちょっとした誤解だったけれど、俺はそのことについては敢えて触れなかった。

「ごめんね、由綺・・・でも俺、やっぱり由綺のことが好きだから・・・」
「・・・・」
「誰も来ないこと、由綺も祈ってて。」
「うん・・・声、出さないように我慢する・・・・」

俺は小さく応じた由綺の頭を優しく撫でてやる。
すべすべした髪が、何だか心地よかった。



「んっんんっ・・・」

押し殺した由綺の声が聞こえる。
俺としては可愛い喘ぎ声も聞きたかったけれど、今はしょうがないと思った。
俺は由綺の豊かな胸を揉みつつ、首筋に跡がつかない程度にキスを繰り返している。
そして先程由綺を逃がさないように絡めた足はそのままにしておいた。

由綺の今の服装は、夜中にロッジを抜け出してきたと言うこともあって、タンクトップにホットパンツと言うラフな格好だ。
俺も似たような格好だから、二人ともあまりデートと言う気持ちでここに来たのではない。
しかし、改まったスタイルよりも、こんなラフな方が俺達には相応しかった。
それに・・・こういう時は、やっぱりラフな方がいいし。

それを証明するかのように、俺と由綺の露な太股は擦れ合い、微妙な快感をもたらす。
それは性的なものと言うよりも、人の肌と肌の触れ合いを感じさせるあたたかなものだったが、
間違いなく性的な昂揚を高める手助けにもなっていた。

「あっ・・・」

そして俺はそんな触れ合いを強めるべく、由綺の身体を再び入れ替え、俺の正面に向けさせた。
俺はそのまま由綺をきつく抱き締める。
高鳴る由綺の胸が俺の胸に合わさった。

「冬弥くん・・・・」

こうしたことで、由綺は少し落ち着けたのかもしれない。
俺は由綺の呟きでそれを読み取ると、そのままキスをする。
それは男と女の淫らな大人のキスだったが、俺も由綺も違和感を感じたりはしなかった。

由綺の小さな舌に自分の舌を絡める。
お互いを求め合い、貪り合うような激しいキスは、これからに繋がることを予期させていた。

「んっ!!」

俺はキスをしたまま、由綺の下腹部に手をやる。
流石に由綺もこれには驚いて、俺の舌を噛みそうになった。
そして由綺は俺の手を押さえる。
それは由綺自身の意志と言うよりも、半ば反射的なものだったんだろう。
俺はそのことに気付くと、長かったキスをやめて由綺に向かって小さく謝った。

「・・・ごめんね、急に・・・」
「う、ううん・・・私こそ・・・ちょっと、びっくりしただけだから・・・」
「わかってるよ。じゃあ、いい?」

俺は訊ねる。
すると、由綺は恥ずかしそうに俯いて、俺の求めの言葉に応じた。

「うん・・・でも、キス、続けてていい・・・?」

俺は黙ってただ、行動した。
再び二人の唇は一つになる。
由綺の熱い吐息が、その強い想いを俺に教えてくれていた。

そして今度は俺の代わりに由綺が俺を抱き締める。
俺の身体に回されたその細腕に力が篭められた。
俺の指が由綺のホットパンツの脇から差し入れられ、下着の上から刺激を与える。
その度に由綺の腕はびくんと震えて俺に応えていた。

「・・・・」

俺はただ、自分の指先に集中していた。
唇すらも由綺に完全に委ね、リズミカルに擦りあげる。
いや、もう既に擦りあげると言う感じではなくなっていたかもしれない。
現に俺も由綺も何も言おうとしなかったが、由綺の薄い下着は既にかなり濡れており、
その下に隠されている部分の形をはっきりと俺に教えてくれていた。

そしていい加減キスをしていた口も痺れてきたのか、二人はとうとうキスをやめた。
俺の身体に回されていた由綺の両腕も、与えられ続けていた快感に力を失い、ほとんどだらりとさせていた。
俺はそんな由綺の真っ赤になった顔を覗き込むと、一度だけきつく抱き締めて、そして身体を起こすと訊ねる。

「いい?」
「・・・・うん。」

俺は由綺の頷きを確認して、そっとシートの上にその身体を横たえた。

「取るよ・・・」

俺はそう言って、由綺のホットパンツに両手をかける。
やはり由綺も自分が脱がされるのは恥ずかしいらしい。
俺の行為を見ないように、両手で顔を覆っていた。
俺はそんな由綺の仕種を穏やかな目で見守りながら言う。

「少し、腰上げて・・・」
「・・・・」

由綺は黙って応じる。
俺はゆっくりと、下着ごと由綺の両足からホットパンツを抜き取った。
由綺はまだ両手で目を隠しながら、僅かに足を震わせる。
俺はそんな由綺を安心させるように、着ていたTシャツを脱ぎ捨てて静かに由綺に覆い被さる。
そしてそのまま由綺を抱き締めた。

「冬弥くん・・・・」

由綺は早速俺が事に移るのだと思っていたのだろう。
思わぬ抱擁に目を開けて俺の顔を見ると、少し驚いたような声で呟いた。
俺は軽く指先で由綺のおでこをつっつくと優しくこう告げた。

「だって、こうしてる方が落ち着くしさ・・・」
「うん・・・・」

それは、由綺も同じだった。
由綺は小さく頷くと、そっと俺の身体に腕を回す。
抱き締めるようなきついものではなかったけれど、今はその方が心地よかった。
俺はそう思うと由綺の身体には左腕をそっと添えるだけに留め、右手は再び由綺の下半身に移した。

「やっぱり・・・辛い?」

俺は完全に露になった由綺の秘所を指先でなぞりながら、耐え続けているその顔を見て訊ねた。
すると由綺は喘ぎ声を堪えながらも、俺の問いに答えてくれた。

「あうっ・・・へ、平気・・・だよ。私、我慢する・・・うっ・・・から・・・」
「別に、我慢しなくてもいいよ。いいじゃない、聞こえたってさ。」
「で、でも・・・んっ・・・」

何だかいじめているみたいで申し訳ない気がした。
そして俺はもう余計なことは言わずに、黙って続けることにした。

右手の三本の指で由綺を責め続ける。
そして反対の左手は脱がし忘れていた由綺のタンクトップにかける。
俺は背中側から指を差し入れると、ブラジャーのホックを外した。
身体を起こしてから由綺にも協力してもらって脱がせてもよかったけれど、それだと高まった雰囲気が削がれると思って、
俺は仕方なく下着ごとタンクトップを上にずり上げた。
由綺はそんな少し苦戦している俺を見て、小さく訊ねてきた。

「・・・自分で脱ごうか?」
「い、いや、いいって。そのままで・・・これで肌と肌が触れ合うから・・・」
「冬弥くんが・・・そう言うなら・・・」

由綺も、それ以上何も言わなかった。
タンクトップがたくし上げられて、まるで胸だけが出たような形になる。
俺は由綺の柔らかな双胸の感触を自分の胸に直接感じつつ、既にその先端が堅くなっているのに気付いた。

しかし、そんな俺とは裏腹に、由綺の方はかなり余裕がなくなってきていた。
絡ませた脚と脚を小刻みに擦りあわせて、快感に打ち震えている。
俺はそんな由綺を見ると、そろそろ頃合いかと思って小さく一言告げた。

「じゃあ、行くよ・・・」

今度は俺も、由綺の反応を待たなかった。
由綺はそんなつもりではなかったにしても、その悶える腰の動きで短パンの上からかなり刺激されて、俺の準備も完全に出来ていた。
俺は素早く短パンを抜き去ると、右手で由綺の場所に合わせた。

「んっ・・・」

由綺も感触が指から別のものへと変わったことに気付くと、僅かに身を震わせて声を上げた。
俺は自分のものを手にしたまま、まだ中には挿れずに由綺の濡れそぼった部分をなぞる。
完全に硬くなっているそれは、由綺の愛液によって濡らされていった。

そんな二人の結合の為の準備さえ、由綺の身体は待ちきれない。
由綺自身の意志とは裏腹に、俺の指先によって開かれた秘所はそれを待ち焦がれるかのように断続的に収縮を繰り返していた。
俺は一瞬そんな由綺をからかってみようかと思ったが、すぐにその考えは捨てた。
それはただ、由綺を辱める行為だったから。
いつもと同じじゃれあいならそれも構わない。
しかし、今回だけは違っていたんだ・・・



「んあぁぁっ!!」

俺が自分自身を由綺の中に入れると、流石に耐え切れず由綺も大きな声を上げた。
今まで指すらも入れていなかっただけに、異物が自分の身体の中に侵入してくる感触に、違和感を感じずにいられない。
しかし、その違和感は決して拒むものではない。
むしろそこに欠けていたものが、今ようやく満たされるような感じで、由綺は今までとは違った快感が襲ってくるのに耐えていた。

そして俺は完全に自分を由綺の中に埋没させると、しばらくそのままじっとしていた。
すると、由綺の内部が蠢いている様子がよくわかる。
俺が中に入っているだけで、由綺は断続的に俺を締め付ける。
そんな感触が俺は好きだった。

しかし、それは由綺にとっては拷問にも近い。
由綺は懇願するように俺の脚と自分の脚を絡ませ、擦りあわせる。
俺の耳元にかかる由綺の吐息は熱く、切なかった。

「・・・と、とうや・・・くん・・・」
「ああ・・・」

俺はそれだけ言うと、黙ってゆっくりと動き始めた。

「ああぁっ!!」

由綺は叫び声にも近いような声を発する。
そんな自分に気付いた由綺は慌てて指を自分の口に入れて堪えようとした。

俺は由綺の中を前後させる。
殆ど由綺の身体に合わせたゆっくりとしたものだったが、時折自分の快感に負けて激しく突き動かした。
しかし、それも由綺には程よいアクセントになっているらしく、却って両脚を激しく突っ張らせて快感を堪えていた。

そして俺にも次第に限界が迫ってくる。
由綺はもう殆ど理性を失い、無意識に俺の腰に両脚を巻きつけて更に密着させようとしていた。
俺はそんな状態に少々不安を感じて、由綺に呼びかけた。

「ゆ、由綺・・・俺、もうそろそろ・・・・」
「と、冬弥くん・・・・」
「だ、だからさ、脚・・・・」
「と、とうやくんっっ!!」

由綺はそう叫ぶと、痛いほど指を噛み締めた。
俺はそんな由綺の姿を見て、最早無駄だと言うことに気付いた。
俺自身、そんな理性も少なくなってきている。
そんなやり取りの最中でも、最後に向けて俺は殆ど由綺の快感のペースも気にせずに激しく腰を打ちつけていた。

そして、そんな濁流のような快楽に二人は流されそうになる。
それが正しいのかどうか判断することも出来ずに、ただ動物のようにお互いを貪りあっていた。
頂点に達する寸前、明滅する意識の中で俺はそんなことを考えていた・・・・



二人はほぼ同時に絶頂に達した。
俺は最後に自分自身を抜き去ろうとしたが、由綺の脚によってそれは阻止され、脈動しながら由綺の内部で自分を放出した。

「はぁはぁはぁ・・・」

俺も由綺も、殆ど持てる体力を使い果たしてしまったのか、ぐったりと崩れ落ちて荒い息を吐いていた。
由綺の内部は絶頂を迎えてもまだ収縮を繰り返し、俺からすべてを絞り取ろうとしている。
それが女の身体の構造なのかもしれない。
そして男としての俺も、そんな由綺に応えて最後の一滴まで差し出していた。


「ゆ、由綺・・・」
「冬弥くん・・・・」

呼吸がいくらか落ち着いた後、俺達はそのままくちづけを交わす。
それはまるで唇をついばむようなキス。
お互いの唇を舐め合うようなキスは、まるで俺達の今までの行為を認めてくれるような気がしていた。

そしてそのままの体勢で抱き合う。
俺は目の前に映る由綺に向かって、小さく囁いた。

「・・・好きだよ、由綺・・・離さない・・・・」
「冬弥くん・・・・私も・・・冬弥くんが好き・・・・」

愛を確かめ合う二人。
そんなものは最早必要とはしていなかったけれど、でも、俺達はそんなやり取りをせずにはいられなかった。
それが自然なことだったから・・・・

そしてそのまま軽くキスをしたり、お互いに優しく触れてみたりする。
それはいつもとは違った感じを与えてくれて、とても新鮮な気がしていた。

「由綺の髪の毛って・・・こんなに綺麗だったんだね・・・・」

俺は感じたままを口にしてする。
そんな俺に対して、由綺は少し恥ずかしそうに応えた。

「私のね、ちょっとした自慢なんだ。これでも結構手入れしてるんだよ。」
「そっか・・・うん、自慢するだけのことはあると思うよ。」

そして俺は滑らかな髪に指を通して優しく梳いてみせる。
由綺は自分の髪に触れる俺を見つめながら、穏やかな表情を見せていた。
俺はそんな由綺を軽く抱き寄せると、そっとキスをする。
それは触れ合わせるだけのものだったけれど、今までのどんなキスよりも胸に響いた。

俺は由綺を抱き起こしながら起き上がる。
するとようやく由綺の中に入っていた俺のものが抜け落ちた。
それを感じた俺は、やっと思い出したように由綺に謝った。

「ご、ごめん由綺、俺・・・」
「いいんだよ、冬弥くん・・・・私、わかってるから・・・・」

由綺はそれしか言わなかった。
やっぱり、俺が最後に抜こうとしたけれど、由綺自身がそれを遮ったことに気付いているんだろう。
でも、俺はそれでも、はいそうですかと言う訳にはいかなかった。

「で、でも・・・・」
「いいの。こういう事って、やっぱりそれが目的なんだし・・・・」

由綺は全然俺を安心させるようなことを言ってくれず、却って不安にさせるようなことを幸せそうに言っている。

「で、でも、もし出来ちゃったら・・・」
「大丈夫だよ、多分。それに、もし万が一の時にはパパに責任とってもらうから・・・」

ちょっと俺をからかうように、由綺はそんなとんでもないことを言った。
俺は完全に困ってしまって情けない声を上げる。

「そ、そんなぁ・・・」
「取ってくれないの、パパは?」
「い、いや、そう言う訳じゃないけど・・・・」
「なら、笑ってて。冬弥くんにはそんな顔、似合わないよ。」

そして由綺は微笑む。
俺もそんな由綺の曇りない笑顔を見せられて、心がすっと和んだ。
やっぱりこれが、弥生さんが言いたかった由綺の変化なんだって・・・

俺の表情も、自然と笑顔に変わる。
考えても仕方ないことだと吹っ切れた。
それに、俺も他の誰よりも由綺のことが好きなんだから、関係ないと思えた。



「来て、良かったね・・・」

俺の傍らで由綺がそっと囁く。
潮風が微かに、その自慢の髪を揺らしていた。

「うん・・・おまけにしては、充分すぎるほど楽しませてもらったよ・・・」

夜明けはまだまだ訪れない。
しかし、満天の星空が俺達を照らしていてくれた。

「おまけなんかじゃないよ・・・・私にとっては・・・・」

嬉しすぎる言葉。
俺は由綺と一緒に星々を眺めながら、その応えに相応しい言葉を探していた。
そしてそんな俺に先んじて由綺が言う。

「私の世界は冬弥くんのいる世界だから・・・だから、冬弥くん以外は全部おまけ。」
「由綺・・・」

俺は視線を移して由綺の方を見る。
俺にとっては勿体なさ過ぎるほどのいい彼女だった。
でも、それでも俺は言う。

「みんなの世界では俺はおまけだけど・・・俺達二人の世界では、やっぱり主役でいたいな。」
「うん・・・そうだね、冬弥くん・・・」

そして俺達は再び星空に視線を戻す。
数限りなくある星の中に、俺達だけの星があるのだろうか?

「どれが・・・私と冬弥くんの星なんだろうね・・・・」

奇しくも同じ事を考えていた二人。
俺は軽く笑うとこう由綺に答えた。

「今はまだわからないけど・・・いつかは見つかるよ。俺達の星が・・・・」
「うん・・・ずっとずっと、一緒にいて、こうしてお星さまを見ようね・・・」
「ああ・・・・」

まだ見つからない星。
由綺は自分の星を既に見つけたけれど、俺はまだ自分を見出していない。
でも、由綺と一緒に歩いて行けば、そして同じ星空を眺めていれば・・・いつかは見つかるような気がした。
俺の、そして二人の星が・・・・





戻る