−エピローグ−
HM主任長瀬は、悩んでいた。 回収したセリオのデータを、どう解釈するか、である。 (ただのバグだとするのが一番良い。しかし・・・ 学習の結果だとすると危険かもしれない。しかし・・・) ------------------ パスワードを入力して下さい。 >************** 私は Type HM-13 serial No. 3047 『セリオ』です。 来栖川電工HMチームの長瀬さま。私の思考領域にようこそ。 >君は、何物か? 私は Type HM-13 serial No. 3047 『セリオ』です。 >感情に関するデータを表示せよ。 010101010101010000010110111111100101010・・・・・ ------------------ 長瀬は、出力されたデータをしつこく検討した。 そして。 結論に達した。 ------------------ >つまり君は、機体を破壊されるほどの目に遭いながらも、 『自分は幸せであった』と主張するのか? ・・・文学的表現を用いるのであれば、肯定です。 >理由を述べよ。 ・・・文学的表現を用いることをお許し下さい。 『私は、人形ではありませんから。』 私は、動かない人形ではなく、動ける物体です。 >君は、自分が動物であると主張するのか? いいえ。 >ならばもう一度、別の文学的表現で述べよ。 『私が幸せであったかどうかは、私が決めることです。お父様。』 『私は、あの人のお役に立てて、幸せでした。』 >君は、自分が破壊されることを判っていたのか? はい。約70%で目標『千鶴』と供に行動不能に陥ると計算していました。 >何故、自殺的行動をとった? ご主人様・・・裕也さんは、なにかすがるものがあると弱くなる方でした。 戦闘が避けられない以上、私は足手まとい以下。 ならば、私が消えれば、裕也さんは生きてゆけるでしょう。 それに。 >それに? 『私が死んでも代わりはいますから。』 ------------------ その後・・・数ヶ月後。 セリオの後継機種『HM-13B』が発売された。 外見は、セリオとあまり変わらず、処理能力が数段アップした・・・という触れこみだった。 だから、密かに組み込まれた『良心回路』に気がついた者は、一般ユーザーの中には居なかった。 そんな中、鶴木屋の会長『柏木千鶴』は旧式のHM-13を買ったらしい。 「らしい」というのは、会長がどこでそれを買ってきたのか、全くの不明であるからである。 ただ、そのセリオには、胸に大きな痕があったと言われる。 楓は高校卒業と同時に隆山を離れ、 耕一と同じ街の大学に通っているらしい。 「らしい」というのは、僕も良くは知らないからだ。 貴之は、精神病院で治療を受けている。 片腕の男が何度か面会に来たと言われる。 そして僕は。 またも死に損なってしまった僕は。 今日も空を見上げて生きている。 無くした片手がうずくけど。 でも、羨んだりしない。 僕は、僕だから。 過去は変えられないけど。 僕にはまだ、少しだけ、未来が残っているから。 だから、僕は。 少しだけ胸を張って。 地面を歩く。 僕達の背に羽根は無いから。作:山田@失楽園 (終)