「つっ・・・」
俺は、目を醒ました。
意識が戻ると同時に、全身を激痛が襲った。
「お身体に障ります。おやすみになって下さい。」
誰かが、やさしく俺の身体に触れた。
セリオだった。
「ここは?」
「大学病院です。裕也さんの怪我が酷いので、こちらに。」
「・・・」
「先生は『非常に強い生命力の持ち主だ。常人ならば輸送中に死んでる』
とおっしゃっていました。」
「・・・」
「全治3ヶ月だそうです。しかし、場合によっては、
もう少し早く退院できるかもしれないそうです。」
「・・・」
「主な怪我は・・・」
「セリオ。」
「はい。」
「俺はどれだけ寝ていた?」
「164時間32分23秒です。」
「7日近くか・・・」
「はい。」
「隆山からは、遠く離れてしまったな。」
「はい。」
「何故、お前はここにいるんだ?」
「私は、あなたの・・・メイドロボです。」
「僕達の背に羽根は無いから」
作:山田@失楽園
「貴之は・・・どうした?」
「別の病院に」
バシッ。
バランスを崩して倒れるセリオ。
手に残る痛みから、俺がセリオを引っぱたいたことに気がついた。
「申し訳ございません。裕也さんの意識が戻らない以上、
それ以上の選択肢を思いつきませんでした。
どうぞ、なんなりと、罰をお与え下さい。」
セリオは、表情を変えずに言う。
俺は・・・何と言っていいのか、判らなかった。
セリオをたたいた手が、痛かった。
「痛つっ。」
「裕也さん!」
床にへたりこんでいたセリオは、
俺が苦痛を感じると、
すぐに立ちあがって、俺の腕を見た。
「安静にして下さい。死んでもおかしくない怪我だったのですから。」
俺は、そんなセリオの横顔を見ていた。
本当に、俺のことを心配してくれているように、見える。
俺がこうなった以上、セリオに俺と貴之、二人の面倒を見るのは不可能だ。
だから・・・貴之を病院に入れたのは、間違いでは無い。
かいがいしく、俺の世話をするセリオ。
「ごめん。」
「何のことでしょうか?」
「さっき、君を叩いた。だから、ごめん。」
「私は、ロボットです。感情や『痛み』というものはありません。」
「・・・」
「でも、お心づかいには感謝いたします。
・・・私のことを、気遣って下さったのですね。
ありがとうございます。」
俺は・・・思う。
本当に彼女には、感情が無いのだろうか?
普通の人間だって・・・ここまでは言えない。
「なぁ・・セリオ。」
「何でしょうか?裕也さん。」
「お前・・・『感情が無い』って言ったな。」
「はい。私はロボットですから。」
「なら、何故そんなに優しい?」
「ご質問が理解できません。別の表現を使って頂けますか?」
「俺には、君が・・・普通の人間か、それ以上に人間らしく思える。
なのに何故、『感情が無い』と言うんだ?
俺は、君を叩いたんだぞ?なのに何故、俺にやさしくできる?
そんな・・・そんなに優しい人を、俺は知らない。」
「自分に対して危害を加える人に、こちらから危害を加えるのが『人間らしい心』なら、
私は、心などいりません。」
「・・・」
「私はメイドロボです。
叩かれても、殴られても・・・もっと酷い目にあったとしても。
ご主人様に仕えるのが、私の『産まれて来た理由』です。」
「・・・そうか・・・」
「・・・そうです。」
もしかしたら・・・いや、間違い無く・・・
俺よりも、セリオの方が、やさしい心。人間らしい心を持っている。
俺は、そう思う。
それとも、『人間らしい心』など持たない方が、人はやさしくなれるのだろうか?
と、それで俺は気付いてしまった。
(そうだったな・・・俺は、人間じゃ・・・無かったんだっけ・・・)
人間らしい心を持った機械・・・セリオ
人間らしい心を持たない人間・・・俺
人間らしい心を捨ててしまった人間・・・貴之
(一体、誰が一番、『人間』なのかなぁ・・・)
「なぁ・・・セリオ。」
「はい。何でしょうか?裕也さん。」
「少し・・・眠る。」
「かしこまりました。」
セリオは、部屋の外に出ようとしていた。
俺は。
セリオの手をつかんでいた。
「そばに・・・いてくれ。」
セリオは、ゆっくりとうなずく。
「はい。」
「ありがとうございます。裕也さん。」
「・・・」
「私は。ここにいてもいいんですね。」
「・・・」
柳川の寝顔を見ながら、セリオがそうつぶやいたことを、知る人は、居ない。
夜空に浮かぶ月だけが、
真実を知っていた。
<続く>
素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。
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