えいえんに。

寄せては返す波の音。

私は未来を、思い出す。





『どこまでも続く愛の名を』



 作:山田@失楽園







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「ごめん。琴音ちゃん、待った?」

「いえ。今、来たところですから。」

「そっか。じゃ、行こうか。」

「はい。」
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あれ?・・・・夢でした。



今、私は、浩之さんと待ち合わせしてます。

あ、浩之さんってのは私の・・・ワタシの・・・・コイビト・・・・です。

今日は、デートの日です。

浩之さんは1コ上の大学一年生。

私は高校3年生。

浩之さんが高校を卒業してしまってから、

なかなか会う機会がありません。

だから、いつもデートの日は。

いつものように早く来過ぎてしまい、

いつものように浩之さんを待ってます。

 早く来ないかな。

 早く来ないかな。

「琴音ちゃーん」

「浩之さん……」

 久しぶりの浩之さんの顔、いつもと同じ……。

「ごめん。琴音ちゃん、待った?」

「いえ。今、来たところですから。」

「そっか。じゃ、行こうか。」

「はい。」





・・・あれ?どっかで聞いたようなやりとり・・・




「どうしたの?」
浩之さんが、私を覗きこんでます。



「いえ・・・。ただ、なんとなく、どこかで聞いたようなやりとりだと思って。」


「あはは。毎回。同じこと言ってるからね。」


私は、恥ずかしくて。真っ赤になってました。
「ごめんなさい。」




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「はい。琴音ちゃん。これ。」

「?」

「お誕生日おめでとう。ちょっと早いんだけどね。」


「覚えてて下さったんですか。 
 ありがとうございます。」
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??・・・夢でした。



??浩之さんが、何か思いつめたような顔をしています。



「はい。琴音ちゃん。これ。」

「?」

「お誕生日おめでとう。ちょっと早いんだけどね。」


「覚えてて下さったんですか。 
 ありがとうございます。」




あれ?これもどこかで・・・・










「ふーん。じゃあ、何故か夢の通りになってしまうのか。」


「はい。なんだか・・・気味が悪くて・・・」


「でも、いいことばかりなんだろ?なら、深く考えなくていいんじゃない?」


「でも・・・」


「きっと今まで『不幸の予知』ばかりだったから、
 その反動で『幸運の予知』ができるようになったとかじゃないのかな?」


「うーん・・・そうかもしれません・・・」


「まあ、良いことが起こるんだからいいんじゃないの?」


















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汝、藤田浩之は、姫川琴音を妻とし、
病める時も健やかなる時も、
シが二人を分かつまで、愛することを誓いますか?


誓います。


汝、姫川琴音は、藤田浩之を夫とし、
病める時も健やかなる時も、
シが二人を分かつまで、愛することを誓いますか?


誓います。


それでは、誓いのキスを。
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・・・夢です。



でも、現実になればいいなぁ。






「どうしたの?また、例の夢?」



「えっ?ええ。」



「それで・・・これ、受け取ってもらえるかな?」



「何ですか?」




浩之さんが渡してくれた小さな箱の中には。

小さな小さな、指輪が入ってました。




「あっ。」



「まあ・・・まだ、気がはやいかもしれないけど・・・婚約指輪ってことで。」






















あの『夢』を見ると、全てがそちらの方に、良い方向に向かうみたいです。

浩之さんが言う通り、不幸の予知が幸運の予知に変わったのでしょうか?

それとも、不幸の予知が実は念動力だったように、これも私の力なのでしょうか?



「今日はどんな夢をみるのかな?良い夢だといいな。」

































--------------
僕は信じない。

僕だけは、信じない。


・・・君がどこにも居ないなんて。

















暗い部屋の中で、一人の男が膝を抱えて泣いている。


まるで、泣いてることを隠すかのように。


声もあげず。


泣いている。





彼には私が見えないらしく。

ただ、一人で泣いている。



トントントン。


ドアをノックする声が聞こえる。



「お父さん。」




小さな子供の声。





「お父さん。」




(ああ、何故だろう。)






「お父さん。」



(君が居なくなって。)


(君を失って。)


(それまで僕に、一番の幸せをもたらせてくれた存在は。)

(そのまま僕に、思い出させる存在になってしまった。)













(君を。)














トントントン。



扉を叩く音が聞こえる。







「こら。初音ちゃん、お父さんの邪魔しちゃ悪いわよ。」

 あかりさんの声が聞こえる。


「それにしても・・・どうするつもりなのかねぇ。琴音さんが死んでから、ずっとあの調子で・・・」

 浩之さんの、お母さんだ。


「・・・」


「ねえ、あかりさん。もし、嫌でなかったら、だけど・・・」





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・・・夢です。こんなのは。







夢です。





でも、どうして今まで気がつかなかったのだろう?



どうして今まで。考えもしなかったのだろう?




そっか。私、長く生きられないんだ。

















そして、多分。





浩之さんはあかりさんと再婚して・・・




私のことなんか、忘れてしまうんだ。




















「どうしたの?琴音ちゃん?」



「いえ。・・・なんでもないです。」



「なんだか・・・いつもの琴音ちゃんじゃ無いみたいだ・・・」


「・・・」


「なんだか・・・始めて会った時みたいだ・・・」


「ごめんなさいっ。」







私は、逃げ出しました。









もしも・・・このまま、私達が別れたら。
浩之さんは、あかりさんと幸せになるのでしょうか?


幸せに、なれるのでしょうか?





私は。





















「どうしたの?琴音ちゃん。急に走り出したりして。」


息を切らせて、浩之さんが、

私を捕まえてくれました。





「ねえ、浩之さん。」


「何?」


「もし・・・もしも、私が先に死んだら・・・どうします?」


「え?」


「私が長く生きられないとして・・・それでも、私を好きでいてくれますか?」


「もちろんだよ。君が死ぬまで、離さないよ。」





「『えいえん』に、」











「えっ?」












浩之さんの顔。

でも、私は、言葉を続けた。








「『えいえん』に。好きでいて・・・くれませんか・・・」












わがままなのは、わかってる。

自分のことしか考えてないのは、わかってる。

多分私が今ここで。

こんなことを言ったから。

未来の浩之さんは、悩むんだ。



「ああ。もちろん。他の奴をこんなに好きになったりしないよ。俺を信じろって。」



ごめんなさい。浩之さん。



私は、



悪い女です。










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浩之さんが泣いている。

未来の浩之さんが、泣いている。



でも、その原因を作ったのは。



今の私。







「お父さん。」






「お父さん。」






「お父さん。」
--------------




「どうしたの?なんだか最近、元気がないね。」


「・・・」


「例の『夢』?」


コク。


「悩んでもしかたないよ・・・それに、まだ予知だと決まったわけじゃないんだし・・・」









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泣いてます。



彼が泣いているのです。



私の前で。



でも・・・




彼が、私を見ることは無いのです。




えいえんに。
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「琴音ちゃん。」


「・・・」


「俺を信じろって。」


「・・・」


--------------


私は、彼のそばへ行きました。


その時、風が吹きました。


風はカーテンを揺らし、


窓からは太陽の光が射し込んできました。


そして、彼は・・・


私を見ました。




(ああ、そうか。)


私の姿は、誰にも見えません。

でも・・・

彼は、私を見ています。


(そうだったね、琴音は。未来が見えるんだったね。)



浩之さんは、立ちあがりました。




(そう。琴音は見ている。
 
 ただ、きみはそこにいて・・・僕はここにいる。
 
 たった、それだけのことだ。)



浩之さんがカーテンを開けると。

暖かな太陽の光が射し込んできました。



(そして、ここにいる僕は、君の代わりにいろんな事ができる。)



(もう、大丈夫だ。琴音。)


「僕を予知しているんだろう?僕を見ているんだろう?・・・大丈夫だよ。」


「愛してるよ・・・君を。」


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今、浩之さんと、旅行をしています。

海の見える宿に泊まっています。



私は、一人で、浜辺に出かけました。








すると、夢で見た、『初音』・・・つまり私の娘にそっくりな子が近寄ってきました。



「おねえちゃん。ひとり?」

「いいえ・・・でも、浩之さんはおやすみ中よ。」

「ふーん。」

「ねえ、お母さんが居なくて、寂しくない?」

「ううん。お母さんは、いつも私達を見てるから。そして、私達もお母さんのこと知ってるから。」

「そう。」

「『お母さん』は世界で一番綺麗なんだって。」

「そうなの。『だった』じゃないのね。」

「ふふふ。でも、放っておくと、夢見る中年になっちゃうから、時々ツッコミを入れなきゃならないの。」

「クス。あの人らしいわね。」

「あら・・・そろそろ起きる時間みたい。じゃあ、またね。」

「またね。初音ちゃん。」

「またね。お姉ちゃん。」


私は、彼女が遠くにいくまで、見守っていました。

すると、彼女は振りかえって、こう言いました。

「おねえちゃんって、お父さんが言ってた『お母さん』にちょっとだけ似てるよ。」

「でも、多分お母さんのほうが美人だけどね。」




じゃあ、また。


















「琴音ちゃーん。」


「ああ、浩之さん。」


「どうしたの?急に居なくなって。」


「良く知ってる子と話をしてたの。」


「そうなんだ。さっきの子知り合いだったのか。」


「ええ。もちろん。浩之さんも、良く知ってる子のはずよ。」


「えっ?俺は・・・うーん思い出せない・・・」


クス。


「子供が欲しいわ。」


「こ・・・琴音ちゃん。なんだよ急に。」


「子供の名前は『初音』でね。そして、ある夏の日にこの海岸に来るの。三人で。」


「いいね。そういうの。」


「それでね。その子は、お母さんに良く似た女性に会うの。」


「?・・・何を言ってるのか解らないよ。」



クス。










えいえんに。


寄せては返す、波の音。


私は未来を、思い出す。








どこまでも続く愛の名を。
えいえんと呼ぶことができるなら。


私が見ているものは、『えいえん』のひとかけらなのかもしれない。







そう、私はここにいる。
そして、あなたはそこにいる。
たった、それだけのこと。


God's in His Heaven,All's right with the world.



素晴らしい作品を下さった作者の山田@失楽園さんに感想を是非。

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