逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ…
「何故、ここにいる。」
シンジは振り返った。そして、父さん…ゲンドウと向かい合った。

見えない




Cパート
神は死んだ。僕達が殺したんだ。


「何故、ここにいる。」
父さん…。
「言いたいことがあるのなら早くしろ。でなければ帰れ!」
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…そう、逃げちゃ、ダメだ。
「父さんを…むかえに…来たんだ。」
「…」
「帰ろう、父さん、僕達の家に。」
「…」
「…」
「言いたいことはそれだけか?」
「父さん!」
「フッ、くだらん。…帰れ。」

すれちがうシンジとゲンドウ。
しかし、この時、シンジはゲンドウの後ろから声をかけた。

「逃げるの?父さん。」


「逃げるの?父さん。」
「何だと。」
「つらい現実から逃げ出して、他の女に走るのですか?父さん。」
振り向くゲンドウ。そしてそれを、みつめ返すシンジ。
「僕が現実から逃げ出して、何も感じなくなっていたように…
母さんが死んだという現実から、好きだった人を失ったという現実から、
そして、僕という現実から逃げ出したんだ!」
「フッ…子供に何がわかる。」
「わかるよ。今の父さんは、昨日までの僕と一緒じゃないか!
大切なものを失ったことを、他の何かで埋めようとしているだけだ!」
「誰もが心の空白を持っている…誰もが失われた部分を持っている…
つまり、心の闇。人はそれを恐れる。それが魂の飢餓を生み出す。」
「嘘だ!父さんは、自分でその闇を作り出しているんだ!
つらい現実を見たくないから、自分で作った闇で、現実を覆い隠しているんだ!」
「人は忘れることで生きてゆける。」
「嘘だ!忘れることなんかできないくせに!」

シンジを睨みつけるゲンドウ。
シンジは、まだ続けた。
「あなたが寂しいからといって、僕達を、あなたの暗闇に、
悪夢に引きずり込まないで下さい!」

「なら、お前はどうなのだ?」

「お前は、今まで…何をやった?お前も所詮、自分の快楽を守りたくて行動しているにすぎん。そんなお前が、どうして私を非難できるというのだ?」
「…」
「お前も、自分の都合のいい夢に、他人を…私を引き込もうとしているだけではないのか?」

「だから…父さんは、何も言わなかったの?」
「何?」
「父さんの夢の中では、家族というものは、何も言わなくても父さんを理解してくれているとでも思ったの?だから何も言わなかったの?いつも、母さんが生きてた頃は。」
「ユイは私を理解してくれていた。」
「嘘だ!!!父さんだって気付いていたはずだ!最近母さんが、ため息をつくことが多かったこと。母さんが、疲れた表情をすることが多かったことに!」
「それが、何だというのだ。」
「父さんは自分が救われることだけを求めて、誰も救わなかった、救おうともしなかった。これが、その報いなんだ!」
「何が言いたい。お前に言われる筋合いではない。」
「父さんは、結局、誰も愛さなかった…母さんさえも。」
「それは違う。私はユイを愛していた。」
「しかし、伝えなかった。伝えなかったから、伝わらなかった。」
「バカな。」
「母さんだって只の人間だったんだ。女神様でも、何でもなかったんだ。だから…母さんも、寂しかったんだ。」
「何も言わなかったのは、お前の方だろう。愛情を求めることだけに夢中で、何も知らない、知ろうともしなかったのは、お前の方だ。」
「それは父さんも同じだよ…父さん、母さんは疲れていたんだ。僕達が追い詰めたんだ。」
「何が言いたい。」
「一番悩んでいたのは、母さんだったってこと。そして、その原因は僕達だったってこと。」

「そう、母さんは死んだんだ。僕達が、殺したんだ。」

「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」

「シンジ…お前は、私の最大の失敗作だ…。」

ゲンドウは、メガネを外し、大きく息を吸った。奇麗な月が浮かんでいた。

シンジは、初めて、父親「ゲンドウ」のやさしい顔を見た。

「だからこそ…愛しているよ。」


we've lost "angels' wings"on our back.
episode 6c."Father,mother is not a Goddess"