すれちがうシンジとゲンドウ。
しかし、この時、シンジはゲンドウの後ろから声をかけた。
「逃げるの?父さん。」
シンジを睨みつけるゲンドウ。
シンジは、まだ続けた。
「あなたが寂しいからといって、僕達を、あなたの暗闇に、
悪夢に引きずり込まないで下さい!」
「なら、お前はどうなのだ?」
「お前は、今まで…何をやった?お前も所詮、自分の快楽を守りたくて行動しているにすぎん。そんなお前が、どうして私を非難できるというのだ?」
「…」
「お前も、自分の都合のいい夢に、他人を…私を引き込もうとしているだけではないのか?」
「だから…父さんは、何も言わなかったの?」
「何?」
「父さんの夢の中では、家族というものは、何も言わなくても父さんを理解してくれているとでも思ったの?だから何も言わなかったの?いつも、母さんが生きてた頃は。」
「ユイは私を理解してくれていた。」
「嘘だ!!!父さんだって気付いていたはずだ!最近母さんが、ため息をつくことが多かったこと。母さんが、疲れた表情をすることが多かったことに!」
「それが、何だというのだ。」
「父さんは自分が救われることだけを求めて、誰も救わなかった、救おうともしなかった。これが、その報いなんだ!」
「何が言いたい。お前に言われる筋合いではない。」
「父さんは、結局、誰も愛さなかった…母さんさえも。」
「それは違う。私はユイを愛していた。」
「しかし、伝えなかった。伝えなかったから、伝わらなかった。」
「バカな。」
「母さんだって只の人間だったんだ。女神様でも、何でもなかったんだ。だから…母さんも、寂しかったんだ。」
「何も言わなかったのは、お前の方だろう。愛情を求めることだけに夢中で、何も知らない、知ろうともしなかったのは、お前の方だ。」
「それは父さんも同じだよ…父さん、母さんは疲れていたんだ。僕達が追い詰めたんだ。」
「何が言いたい。」
「一番悩んでいたのは、母さんだったってこと。そして、その原因は僕達だったってこと。」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「シンジ…お前は、私の最大の失敗作だ…。」
ゲンドウは、メガネを外し、大きく息を吸った。奇麗な月が浮かんでいた。
シンジは、初めて、父親「ゲンドウ」のやさしい顔を見た。
「だからこそ…愛しているよ。」