私は目が覚めた。…どうしてこんなに大切なこと、今まで忘れていたのだろう?
私は、シンジの家のドアを引いた。
鍵がかかってない!
「いける!!」
私はシンジの家に入った。
しかし、そんな私の気合いは、一瞬で吹きとんでしまった。
中は薄暗く、ゴミがちらかっている。
おそらく、ユイさんが死んでから、すぐにおじさまは出ていったのだろう。
ずっと一人だったんだ…シンジ。
すさんでるな。
この部屋も、そして、多分、シンジも。
私に、できるだろうか?
シンジを振り向かせることが、本当にできるのだろうか。
…大丈夫。きっと大丈夫。
大切なこと、思い出したから。
素直になること。
おばさまが…ユイさんが、教えてくれたこと。
…私は…シンジが…好き。
シンジの部屋のフスマの前で、私はもう一度、気合いを入れた。
「もう、あとはないわよ。アスカ。」
シンジは、頭から布団をかぶって寝ていた。
「目を覚ましなさい!バカシンジ!」
布団を剥ぎとる私。
シンジの目は、既に開いていた。
…でも、生気の無い目。
何も写してない目。
私は、大きな声を出していた。
「いいかげんに目を覚ましなさい!!バカシンジッ!!」
シンジの表情が、少し動いた。
「ユイおばさまは、おかあさんは死んだのよ!もう、いないのっ!!…だから…だから…」
だから…何?
シンジの顔がこちらを向く。
何?…私は何を言えばいいの?
「だから…だから…だから見て、
「あんたバカ?悲しいからに、決まってるじゃない!」
なぜ?
「バカ!おばさまが死んで、悲しいのがアンタだけだと思ってたの? おばさまは…ユイおばさまは…私にとっても「おかあさん」だったのよ!」
「…おかあさん…おかあさん…私を一人にしないで。一人は嫌ッ、ひとりはイヤッッ!」
私はタタミにうつぶせになって泣き出した。私の涙がタタミを濡らす。
ポタ。
私の背中に涙が落ちた。
え…?背中…?
私が顔を上げると、瞳に涙をいっぱいためて、顔をくしゃくしゃにしたシンジがいた。
「グスッ…。ごめんよ…。母さんが死んで…悲しかったのは…アスカもだったんだ…。」
シンジはぎゅっと、私を抱きしめた。
「ごめんよ…ごめんよ…今まで、分かってあげられなくて…、アスカ。」
「シンジ…。」
私はそっと、シンジの頬をぬぐった。
「出てるよ。涙。」
シンジは、驚いたような、泣きたいような、笑ってるような、おかしな顔をした。
「あ…ホントだ…。…ハハ…グスッ、…ハハハ…
…なんだ、僕はまだ…グスッ、…泣けるんだ…グスッ…」
私は、少し微笑んでいた。
「それに…笑えるわ。」
シンジは、また、驚いたような、泣きたいような、くしゃくしゃの顔を、さらにくしゃくしゃにした。
「ああ…そうだ。…そうだったんだ…」
シンジは私をまっすぐに見つめた。
「…アスカ…。」
シンジが私を見てる。まっすぐに見てる。私の名を…呼んでいる。
「何?…シンジ。」
シンジは微笑んだ。
「ありがとう。」