私は、随分と待ってから、それでも出て来そうになかったので、一人で学校へとトボトボと歩いていった。
一人で登校するなんて、何年ぶりかしら。
シンジ…大丈夫かな?
私はそんなことを考えながら、学校へ向かった。
でも、現実は、そんな私の空想よりも、もっとひどいものだった。
シンジは来ていた。
私はつい、カッとなって怒った。
「なんでアンタが私より先に来てるわけ?!」
シンジは、ゆっくりと私の方に振り向いた。
「ああ、アスカか。」
パン!
私は考える前に、手が出ていた。
シンジが精気の失せた目で私を…見上げる。
怒ったような顔、でも、精気の無い目。嫌っ、嫌っ
ヒュッ
私はもう一度シンジをひっぱたこうとした。
でも。
グッ。
シンジに腕を握られてしまった。
シンジが私を見ている。…にらんでいる?
だれ?これ。シンジ?そう、みんながシンジと呼んでいる人。でも、これはシンジじゃ無い。私の知ってるシンジじゃない!
「嫌っ!離して!嫌い、嫌い。嫌い!大っ嫌い!」
「彼」は私の手を離した。…まだ、私を見つめている。
「アンタなんか、アンタなんか、大ッッッキライ!」
パン!
私は彼をひっぱたくと、教室から逃げ出した。
当然のことだけど、だれも追いかけてきてはくれなかった。
それから、1ヶ月が、またたく間に過ぎていった。
シンジは変わった。
無口になった。
私がたまに話しかけても、無視するようになった。
あれは中間テストの成績が返ってきた時、ミサト先生がシンジに
「よくがんばったわね。シンちゃん。ゆーあーなんばーわん。」
って、言ってた。
でも、ちっとも嬉しくなさそうだった。
「よかったわねー。シンジ。お褒めの言葉を頂いて。」
(わーばかばか、私、何言ってるのよ…でも、怒ってくれるだけでもいい。私に…私に…昔みたいに話かけて!)
でも、シンジは私がそんな事を考えているうちにさっさと行ってしまった。
無視した…無視された…
「フン、澄まし顔しちゃって。」
私はそう言って、また、逃げ出した。シンジから。
最近、シンジはもてるようになった。
女の子の間で、人気沸騰ってやつだ。
「あの無口な所がいいのよ。」
「なんだか、ミステリアスな感じよね。」
そんな事を言ってる。バッカじゃないの?
今日、窓から外を見てると、トウジがシンジを殴り飛ばしていた。
あんだけ仲のよかった三バカトリオが、こんな風になるなんて…。
私は、そんなシンジを見ていることしかできなかった。
シンジが…私の知ってるシンジが…私の知らないシンジになってゆくのを、私はただ、黙って見ているしかなかった。
シンジが歩いている。本当なら私はその隣か、前にいるハズなのに。
でも、私は彼の後にいる。彼の背中を見つめている。
見知らぬ背中を。
おばさま、天国のおばさま、どうか、私達をお救い下さい。