…シンジ…。
シンジは起きていた。多分、昨日から一睡もしてないのだろう。
ただ呆然と、壁を見つめている。
何の感情も無い、精気の感じられない目。
私は…何も声をかけることができななった。
それから、迎えの人がやってきて、私達を葬儀場へと連れて行ってくれた。葬式には、多分、ゲンドウおじさまの会社の人なのだろう、知らない人が大勢来ていた。いろんな人が、シンジに声をかけたけど、シンジは結局、一言も口を開かなかった。こんな時、シンジに何と声をかけたらいいのだろう?どう慰めてあげればいいのだろう?私は…私には…。
「アスカ」
火葬も終り、家の近くまで帰ってきて、始めてシンジが口を開いた。
「な、なに?シンジ」
突然だったため、私は心の準備ができてなかった。
「出ないんだ。涙。」
私はハッとした。
「悲しいはずなのに、出ないんだ。涙。」
悲しい声。でも、あまり感情の無い声。
私は、何と答えればよかったのだろう?
「シンジ…。」
私は、シンジの手を握った。
するとシンジは、私の方に向いて、悲しそうな顔をした。
そしてゆっくりと、首を横に振った。
私は…胸が悲しさで一杯になり、手を離してしまった。
後になって思えば、この時私は、手を離すべきではなかったのかもしれない。
でも、もう、時は元には戻らない。
私達は、それから家に辿りつくまで、一度も口を開かなかった。
私達二人は、ただ黙って、歩いていった。
こうして、シンジと私は別れた。
それから、シンジと私の関係が元に戻るまで、長い時間がかかったのだけど、
その話は、また今度。