朝が来た。
私は今日も一人で目覚めた。
嫌な一日の始まり。
今日はユイおばさまの御葬式。
ううん、弱気になっちゃ駄目。
私は大きく息を吸った。
「行くわよ、アスカ。」

見えない翼
第二話、





「おはようございます!」
幼なじみの家は、ひっそりと静まりかえっている。
「もう、出かけたのかしら。でも、鍵は開いてたし…」
私はそっと、中に入った。
「おじゃまします。」
おじゃまします、か。長い間言ったことなかったな。いつも私が来るとおばさまが「おはよう、アスカちゃん。」って、やさしい声で、迎えてくれてたっけ。でも…、もう…。
私はシンジの部屋に向かった。扉の前で、気合いを入れる。
きっとシンジは頭から布団を被って泣いてるに違いない。
私が元気づけてやらなくちゃ。
私は手をグッと握りしめる。
「おはよう、シンジ!」
なるべく明るい声を出しながら、私はシンジの部屋のフスマを開けた。

…シンジ…。

シンジは起きていた。多分、昨日から一睡もしてないのだろう。
ただ呆然と、壁を見つめている。
何の感情も無い、精気の感じられない目。
私は…何も声をかけることができななった。

それから、迎えの人がやってきて、私達を葬儀場へと連れて行ってくれた。葬式には、多分、ゲンドウおじさまの会社の人なのだろう、知らない人が大勢来ていた。いろんな人が、シンジに声をかけたけど、シンジは結局、一言も口を開かなかった。こんな時、シンジに何と声をかけたらいいのだろう?どう慰めてあげればいいのだろう?私は…私には…。

「アスカ」
火葬も終り、家の近くまで帰ってきて、始めてシンジが口を開いた。
「な、なに?シンジ」
突然だったため、私は心の準備ができてなかった。
「出ないんだ。涙。」
私はハッとした。
「悲しいはずなのに、出ないんだ。涙。」
悲しい声。でも、あまり感情の無い声。
私は、何と答えればよかったのだろう?
「シンジ…。」
私は、シンジの手を握った。
するとシンジは、私の方に向いて、悲しそうな顔をした。
そしてゆっくりと、首を横に振った。
私は…胸が悲しさで一杯になり、手を離してしまった。

後になって思えば、この時私は、手を離すべきではなかったのかもしれない。
でも、もう、時は元には戻らない。

私達は、それから家に辿りつくまで、一度も口を開かなかった。
私達二人は、ただ黙って、歩いていった。

こうして、シンジと私は別れた。
それから、シンジと私の関係が元に戻るまで、長い時間がかかったのだけど、
その話は、また今度。


There are "angels' wing" on our back.
episode 2."I want to cry."
次回予告
「ユイ」を失ったことで、壊れてゆく関係。時は戻らない。少年は、「少年」ではなくなってゆく。
次回「見知らぬ背中」