左胸 反町コ
ウ
イ
Aim
Your Heart チ
黄昏が空を染める午後、血の色の夕日が窓から差し込む。
放課後、
整然と並ぶ机、
誰もいない教室、
僕は、一人。
ずっと一人だった、今までも、今も...
彼女たちは今も彼との刻を過ごしているのだろうか、
羨ましい.....
胸が絞めつけられる、
届かない、願い。
癒されぬ渇き。
この湧き上がる思いは何なのだろうか。
赤い色がとても綺麗に、夕暮れの教室に長い影を描く。
左胸、
鈍い痛み、
流れ出る血のように、思いが身体を駆け巡る。
出会った時から運命を感じていた。
出会わない方が良かったのかもしれない。
君は僕を知っていた。
君は僕では無い僕を、知っていた。
僕は誰、彼の知っている僕は、誰?
ここにいるのは僕、ここにいる僕は誰?
既視感にも似たあやふやな記憶、
自分のものでは、ない。
「僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに、裏切ったんだ!」
悲痛な叫びが耳の奥に残る。
僕が?裏切った?君を?
父さんと同じに.....
君も、孤独な心の囚われ人なのか。
「渚さん...」
声が、僕を思いから現実へと呼び戻した。
いや、これすらも一つの幻想なのか。
彼は、夕日に輝くこの空間の戸口に一人佇み僕を見ていた。
「どうしたの、まだ帰っていなかったの?」
「やあ、シンジ君、少し考え事をしていてね、君こそどうしたんだい?」
高まる胸、驚きと喜びが心を満たす。
でも、僕はそれを表す術を知らない。
口から出る言葉はいつもの様に偽りの微笑に装飾された
現実味の無い響き。
「ちょっと教室に忘れ物しちゃって、それで取りに戻ったんだ、
全くドジだよね、僕って、アスカにも呆れられちゃった。」
それでも彼は僕に話し掛けてくれる、
その笑顔を僕に向けてくれる、
でも、何も手には入らない。
「そうなのかい、では僕は君のその忘却に対して感謝しなくてはならないな。」
「えっ.....!?」
「何故なら今、君とこうやって二人きりで逢うことが出来たからさ。」
髪をかきあげる、
夕日の赤、
高まる、左胸。
「!!.....」
息を呑む彼の気配。
「どうしたんだい?、シンジ君。」
「い、いや、あの、その、な、渚さんの髪に夕日の光が輝いて、
あ、あまりにも綺麗だったんで、その....」
ああ、僕の思いはもう誰にも止めることは出来ない。
「シンジ君、嬉しいよ、カヲル...って呼んでくれるかい。」
立ち上がり、僕は一歩一歩彼への距離を、近いものへと変えていった。
彼は魅入られたように動かない、今、僕たちは幻想の住人。
「シンジ君....」
僕の右手が彼の紅に染まった頬に触れる。
「カ、カヲル...君.....」
願わくばこのまま刻を止めて.....
「シンジ!、バ〜カシンジ、いつまでもたもたしてんのよ、
早くしなさいよマッタク!」
「碇君...早く帰りましょ。」
近付く声、流れ出す時、
ああ、またしても彼女らが僕らの間に楔を穿つ。
どうせ、この手に入らぬのなら、いっそこの手で、いっそ...
左胸が、イタイ...
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神話大全エヴァンゲリオン
記念コメント
カヲル:やぁ、シンジ君。
シンジ:渚さん・・・何だか嬉しそうだね。
カヲル:ああ、ここにこうして君と一緒にいるからね・・・・
シンジ:そ、そう・・・でも、さすがそりまちさんだよね。
カヲル:そうだね。シンジ君の言う通りだと思うよ。
シンジ:ギャグも書けるしこう言うシリアスなものも・・・高嶋さんはそう器
用なことは出来ないからね。
カヲル:・・・・そう・・・だね。
シンジ:・・・どうしたの、渚さん?いつもと様子がおかしいけど・・・・
カヲル:君と二人きりでいるなんて久しぶりだから、僕も少し舞い上がってる
のさ。
シンジ:そ、そう・・・じゃあ、僕はこれで。アスカも待ってるし・・・・
カヲル:行かないで・・・くれないかい?
シンジ:渚さん・・・・
カヲル:君が心配するようなことは何もしないから・・・・
シンジ:・・・・
カヲル:何も要らないんだ。ただ君と同じ空間にいられるだけで・・・
シンジ:・・・・わかったよ、渚さん。もう少しだけここに一緒にいよう。
カヲル:あと・・・
シンジ:なに?
カヲル:・・・君を見ていてもいいかい?僕とこうして一緒にいる時の君を・・・
シンジ:い、いいけど・・・
カヲル:ありがとう、シンジ君・・・やっぱり君はいつまでもシンジ君のまま
なんだね。あの、僕が好きだった・・・・
高嶋ですし。
そりまちさん、記念の投稿をありがとうございます。確か前回もいただきまし
て・・・お礼の言葉もございません。更に今注目株の渚さんをモチーフに描い
ていただけるとは・・・とてもうれしいです。それなのにいただいたメールは
サボるはで・・・投稿の一つでもしないと私の罪は拭い切れませんね。
とほほ・・・でも、投稿するつもりのところは腐るほどありますので、なかな
かつらいのが現状でしょう。とにかくがんばれがんばれ!!>私
いただいたものも、短いながらも渚さんの想いの複雑さを絶妙に描いていて、
読ませる短編です。もしかしたら今回の記念では一、二を争うかも・・・?
とにかく気に入りました。皆さんもこれを読んで、神話大全を読んでみましょ
う。一読の価値のある、面白い小説ですよ。
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