新婚!
主のいない葛城家で、シンジとアスカは一緒にテレビを見ていた。
番組の内容はまことに退屈なものだったが、それでも暇つぶしぐらいにはなる
らしく、二人してぼーっと画面を眺めていた。
一時間の番組がそろそろ終わりにさしかかって来てあくびの一つも出ようかと
いう頃になって、アスカが声をかけてきた。
「ねえシンジ、トランプでもしない?」
「・・・え?」
いきなり突拍子もないことを言い出す同居人の方を見たシンジは、その手にす
でにカードがおさまっているのを見て唖然とした。
思わず本音がこぼれる。
「全く、アスカは・・・いつも自分勝手なんだから」
「ん?なんか言った?」
「な、何でもないよ!」
「本当?」
「ほ、ほんと、ほんとだって!」
独り言のつもりが、しっかりアスカに聞かれてしまって必死に弁解する。
「ふーん、そう」
そう言いながらもシンジを疑いの目で見るアスカ。
「そ、そうだよ!ね、ねえ、それより早くトランプしようよ!」
シンジは話を必死で逸らそうとして、トランプのことを持ち出した。
しかし、それは裏目に出てしまった。
「それじゃあ、あんたが負けたら罰ゲームをやってもらうわよ。もちろんブラ
ックジャックでね」
シンジの顔から血の気が引いた。
ブラックジャックをアスカとやって勝った経験は、シンジにはない。
それどころか、ドローになったことすらないのだ。
ほとんど奇跡的としか言いようがないが、とにかくシンジはブラックジャック
ではアスカに勝てない。
「そ、そんな・・・」
死刑宣告とも言えるアスカの言葉に、シンジが食い下がるのは自然であろう。
しかし、アスカは天使などではなかった。
「問答無用!もしやらないって言うなら・・・分かってんでしょうね?」
アスカの拳に力がこもっていくのが見て取れる。
「うう・・・分かったよ、やるよ・・・」
「だーいじょうぶ、とって食ったりはしないから」
シンジには何の気休めにもならない言葉だった。
リビングのテーブルをカジノ仕様にして行われたブラックジャック大会は、下
馬評通りアスカの圧勝に終わった。
「さあてシンジ、罰ゲームをやってもらいましょうか?」
アスカの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
シンジは隣にいたペンペンに助けを求めるような視線を送るが、ペンペンは我
関せずといった態度でとりつく島もない。
観念してうなだれるシンジに、アスカはついに死刑宣告を下した。
「あんた、あたしの花嫁修業の手伝いをしなさい」
「・・・へ?」
予想されたどのパターンにもなかったその命令に、シンジは反応する術を知ら
なかった。
「あんたバカぁ?あたしと加持さんが結婚したときのための予行演習よ」
花嫁修業というものとはちょっと違うが、アスカがしたいのはどうやらそうい
うことらしい。
「・・・予行演習ってことは・・・」
つまり、アスカと新婚さん状態になる。
そのことに気づいたシンジの顔は茹で蛸の如く真っ赤になった。
「まああんたに加持さんの代わりができるとはとても・・・って何変なこと考
えてんのよ、この変態!」
アスカは勢いよく立ち上がると固まったまま微動だにしないシンジを勢いをつ
けて殴る。ぐうで殴られたシンジは椅子ごと後ろに倒れ、そのままノックアウ
トされた。
「バーカ!」
それだけ言うとアスカはぴしゃん、と音を立ててふすまの向こうに消えた。
なお、後に残された二人のうち、ペンペンは早々にもう一人を見限って冷蔵庫
に入ったが、シンジは酔っぱらったミサトにたたき起こされるまでその場に倒
れていた。
「ねえシンジ、今日あれをするわよ」
数日後。
久しぶりにシンクロテストがなく、二人で下校していたときのこと。
大分歩いてそろそろ家に着こうかと言うときになって、アスカが何気なく、ぼ
そっとそう言った。
「・・・え?あれって何のこと?」
「あんたバカぁ?この前の罰ゲームよ」
すっかり忘れてしまったシンジに、アスカは優しく説明してやる。
なぜか声はますます小さくなっていた。
シンジは記憶を必死でたどり・・・
「あーっ!思い出したぁ!」
「バッバカ!何いきなりおっきな声出してんのよっ!」
シンジが突然叫んだので、アスカはまわりに誰もいないにも関わらず慌ててシ
ンジの口をふさぐ。
「ふがっふがふが」
「全く、誰か聞いてたらどうすんのよ。誤解されるじゃないの」
いったい何を誤解されるのかは分からないがとりあえずシンジの口をふさぎ、
真っ赤になったアスカはまた声をひそめる。
「分かった?」
うん、とシンジは頷くと、口をふさいでいたアスカの手は離れた。
「けほけほ、でも、いったい何をするの?」
「決まってんじゃない。お料理よ。腹が減っては戦はできぬ、って昔から言う
でしょ」
それは違うよ、と心の中で突っ込んでおいて、シンジは何気ない疑問を言葉にした。
「アスカって料理できたの?」
言ってはいけない一言。
「あんた、このあたしをなめるんじゃないわよ」
がしっ。
胸ぐらを取られる。
「わ、分かったから、手を離してよ」
「何が分かったのかなぁ?」
口元はつり上がっているが、目が全然笑っていない。
「アスカって、料理がとっても上手だなーって」
シンジが恐怖に震えながらそう言うと、アスカはすっと手を離した。
「じゃ、行きましょ」
そう言うとアスカは急に穏やかな顔に戻って、シンジの手を取って歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカぁ」
妙にうきうきしながら歩いていくアスカに引きずられるようにして、シンジも
そのあとをついて行った。
仲良く手をつないで歩いていた二人が着いたところは、シンジの行きつけの大
きなスーパーだった。
「ねえシンジ、晩ごはん何を食べたい?」
ショッピングカートを押しながら歩いているシンジに、アスカが聞いてきた。
「え・・・僕は、アスカの得意なものが食べたい・・・」
第3新東京市に来てからの最初の同居人のすさまじい料理の腕を知っているシ
ンジは、どうしてももう一人の同居人の主張は信じきれず、せめて少しでも安
全な食べ物が食べたいと願うのだった。
「じゃあハンバーグね!」
アスカは喜色満面で宣言する。
どうやら最初から決めていたようだ。
よかった・・・ドイツにもある料理だ。
アスカが和食を作るなんて言ったら、どうなるか分かったものじゃないもんな。
シンジはその考えは口には出さなかった。
「じゃ、行こうか」
代わりにそう言ってさっさと行ってしまう。
「あ!シンジ、待ちなさい!」
こんな店には足を踏み入れたこともないアスカは、勝手を知っているシンジが
カートを押して店の中をすいすい行く後についていくことしかできなかった。
「ただいま!」
「はあはあ、ただいま、はあはあ・・・」
「クエッ」
若い新婚夫婦の到着を、この家で2番目の古株が出迎えた。
「はあはあ、アスカ、走ることは、はあはあ、ないだろ」
スーパーの袋を大量に持ったシンジが、犬のように舌を出しながら抗議した。
「うるさいわね。あたしは走りたかったから走りたかったのよ。それともなん
か文句あるの?」
「いえ、ないです・・・」
アスカにぎろっ、とにらまれたシンジはそれっきり沈黙した。
「さあて、それじゃあ取りかかりましょうか」
「クエッ」
ずかずかと中へ入っていく手ぶらのアスカの後ろ姿を見てシンジは思った。
・・・全く、アスカは僕をなんだと思ってるんだ?・・・僕はアスカの奴隷じ
ゃないんだぞ・・・それにしても、あれじゃ加持さんは構ってくれないよな・・・
アスカほんとにやる気あるのかな・・・
まことに正しい現状認識である。
「ねえアスカ、やっぱり手伝おうか?」
シンジが心配そうに訊ねた。
アスカが「いい!」というのでテーブルに座っておとなしく待っていたシンジ
だったが、ついに我慢しきれなくなったのだった。
「うるさいわね!あたしは一人でできるのよ!」
フライパンやら包丁やらと格闘しながら、真っ赤なエプロンをつけたアスカは
怒鳴る。
「あんたになんか手伝われなくたってできるんだから!」
言ってしまってから、アスカははっとした。
勢いとはいえ、どうしてこんなことを言ってしまったんだろう。
ただの遊びのはずなのに、どうしてこんなに真剣になって・・・
シンジ、怒るに決まってる・・・
アスカの手の動きが止まる。
しかし、シンジの言葉はそんなアスカの悲しい予測とは大きくかけ離れたもの
だった。
「それじゃ、アスカが作るのを待ってるよ。僕はよけいな口出ししないからさ」
後ろにいるシンジの表情は見えなかったが、声の調子はいつもと全然変わらな
いあのやさしい感じ。アスカはただうなずくことしか、それしかできなかった。
キッチンには心地よいにおいが充満し、アスカの努力の成果が出てきたことを
感じさせる。リビングでテレビもつけずに料理の完成を待っていたシンジとペ
ンペンは、漂ってきたにおいに安堵の色を強めた。
「おいしい料理が食べられそうだね、ペンペン」
「クエッ」
ペンペンを抱え込んで床に座っていたシンジは、その体勢のまま頭だけをキッ
チンの方へ向けた。
アスカがあわただしく動いている姿が見える。
アスカ、はりきってるな。
加持さんってすごい人なんだな。
アスカにこんなに一生懸命にさせてるんだから。
「ね、ペンペン」
「クアッ?」
シンジの考えていたことなどペンペンには分かるはずもない。
ペンペンは疑問の声を発したが、シンジはペンペンを見て微笑んだまま何も言
わない。そのまま、ペンペンの柔らかくて暖かい感触を楽しみながら、時間は
しばらく流れた。
キッチンの方でなにやらかちゃかちゃと音がする。
それは、アスカの努力がどんな形にせよ報われた、ということだった。
「シンジ、できたわよ」
キッチンの方から、特別がなるでもなくアスカが呼ぶ声が聞こえた。
「うん、わかった」
シンジはペンペンをずっと抱え込んでいた手を離すと、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・どう?これ」
アスカはテーブルに並べられた料理を指して言う。
よく形は整い、漂ってくるにおいもまさにハンバーグ、という感じで、鈴原ト
ウジならずとも喜んで食べたくなるようなものだった。
「うん、まず食べてみようよ」
二人、それと今日は特別にペンペンも椅子に座った。
「いただきます」
「クエックエッ」
シンジとペンペンは手を合わせて食前の挨拶をして、それからナイフとフォー
クを手に取った。
ハンバーグを切り取り、口に運ぶ。
そんなシンジの様子を見つめていたアスカは、もぐもぐと口を動かすシンジに
聞く。
「・・・どう?」
ごくん、とのどが鳴る。
心臓が派手に走り回る。
もし、だめって言われたら・・・
よく咀嚼されたハンバーグがシンジの喉を通過した。
「とってもおいしいよ、アスカ」
満面の微笑みをたたえて、シンジはそう言った。
「・・・ほんとに?」
「うん、本当だよ。ペンペンだってとってもおいしそうに食べてるだろ」
そう言われてペンペンを見ると、ナイフとフォークを使って器用にがつがつと
食べている。心のもやもやを吹き飛ばしてくれたシンジに、アスカはめいっぱ
いの笑みを持って答えた。
「ありがと」
とても素直に、その言葉を言えた。
「ほら、アスカも食べなよ」
「うん」
食器の重なる音のみが響く。
3人とも料理の味を噛みしめて食べていた。
かちゃり、とナイフをおく音を合図に、3人は皆一様に手を合わせた。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「クエックエッ」
食器を二人で片づけたあと、お茶を煎れているシンジにアスカは幸せそうな顔
をさせながら訊ねた。
「ねえシンジ、今日のハンバーグはあたしの作った食べ物の中で一番おいしかったの。どうしてだか分かる?」
シンジは自分が加持さんの役だった、と言うことを思い出し、ちょっと芝居が
かって答えてみた。
「うーん、分からないな。どうして?」
「それはね、今日は特別だからよ」
アスカはウインクして答える。
「特別?」
お茶をとぽとぽと注ぐ。
「そう、特別」
湯飲みをアスカに渡してから、シンジはどう特別なのか悟ってそれを言ってみた。
「あ、そうか、僕が加持さんだからだね」
とたんにアスカの顔が険しく変化し、持っていた湯飲みがどん、と音を立てて
テーブルと乱暴に接吻した。
「このバカっ!」
吐き捨てて、アスカは肩を怒らせて出ていってしまった。
「・・・・ペンペン、アスカどうしたの?」
しばし呆然としていたシンジは、隣にいたペンペンにいったい何なのか聞いて
みた。しかし、ペンペンはぷい、と向こうを向いてとことこと走り去っていっ
てしまった。ペンペンに言わせれば、その行動はシンジにおまえがいかに鈍感
か、と言うことを分からせてやるための行動だったのだが、鈍感なシンジには
行動だけではもちろん何のことだか分からないし、言葉にしてもひょっとする
と分からないだろう。
シンジは自分のどこが悪かったかを必死になって考えながら食器を洗うのだった。
アスカは電気もつけずに自分の部屋にこもっていた。
床には料理の本、真っ赤なエプロンを作ったときに余った生地などが散乱して
いた。
何よあのバカ、せっかくこのあたしがはりきってたっていうのに何考えてんの
よ・・・
今日のためにあんなに苦労して準備したのに・・・
加持さん、あたしに嘘言ったのかな・・・
シンジはやっぱりあの女のことが・・・
バカ・・・
枕がばすっ、と悲鳴をあげた。
リビングでは、テレビがむやみに元気な音を放出し続けていた。
シンジの顔は一応テレビの方を向いていたが、別に見ているというわけではなかった。
彼はずっと同じことを考えていたのだ。
どうして怒ったのかな・・・
僕が加持さんになりきれてなかったからなのかな・・・
それにしても、そんなことで怒るなんて、分からないな・・・
でもアスカだからなぁ・・・
シンジがテレビの前に座ってから時計の針が二回ほど回ったところで、アスカ
の部屋のふすまががらっ、と開いた。
弾かれたようにそちらを見る。
シンジと目を合わせないように顔を背けたアスカが出てきて、通り過ぎる。
しばらくしてじゃー、という音がして、顔を背けたままシンジの目の前を通り
過ぎていった。
アスカが再び部屋に入ってしまったあと、シンジはアスカと会うことを期待し
てここにいたのかも知れない、と思った。
また、顔をテレビの方に向けた。
また時計の針が二回回ったが、アスカは出てこなかった。
シンジはテレビとリビングのスイッチを切り、自分の部屋に入る。
ベッドにもぐり込んで目をつむったが、全く寝付けなかった。
ウォークマンを取り出し、再生させた。
聞き慣れた音楽が自分の耳に入っても、シンジは同じことを考えていた。
ずっと眠れなかったシンジは、今度は別のことを考え始めていた。
トイレ、行きたくなってきたな・・・
シンジは思考を中断させてベッドから這い出ると、真っ暗なリビングを抜けて
トイレへ向かった。
トイレの前に来たとき、ドアが開いた。
そして、そこにはアスカがいた。
シンジはまずアスカが出てきたことに驚いた。
そして、アスカの顔に泣きはらしたあとがあるのを見てさらに驚いた。
「ね、ねえ、アスカ、どうしたの?」
シンジは恐る恐る聞いてみた。
しかし、返ってきた答えは、
「うるさいわね!ほっといてよ!」
やはり、と言うべきものだった。
シンジはそれ以上声をかけることもできず、ただアスカを目で追いかけるばかり。
諦めて自分も用を済ませようとドアを開けたとき、「きゃあ!」という声とが
たん、という音がした。
「アスカ!」
焦っていたシンジはリビングの明かりのスイッチを探すのに手間どったが、何
とか明かりをつけることができた。しばらくして光に慣れたシンジが見たもの
は、ビールを持ったペンペンの上にアスカが折り重なって倒れている姿だった。
シンジとアスカはリビングの床に並んで座っていた。
ペンペンはアスカに抱かれている。
しばらくは二人とも何も話さなかった。
「ねえ・・・ハンバーグ、おいしかった?」
やがて、目を合わせないままのアスカが口を開いた。
「うん・・・おいしかった」
前を向いたままのシンジの答えは素っ気ない。
「そう・・・」
と、ここで会話は止まってしまった。
再び沈黙が流れる。
アスカの手がペンペンの毛皮の上で繰り返し動いていた。
「ねえ・・・鈴原たちって、どう思う・・・?」
今度も先に話し始めたのはアスカだった。
「トウジもケンスケも、二人ともいい友達だよ」
「じゃあヒカリは?」
「委員長はがんばってると思う」
そこで、少し間があった。
「じゃ、ファーストは・・・?」
また間。
「・・・よく分からない。綾波はお母さんって感じがする。でも、なんだか他
人って感じがしないんだ。何て言うか、昔からずっと一緒にいた家族のような・・・」
「・・・そう」
ふう、とため息の音がする。
吐いたのはアスカだった。
そして、アスカがいちばん聞きたかった質問。
「じゃ、あたしは・・・?」
前を向いたまま、そう聞く。
「アスカは・・・いつも僕をたたいたりしてて、痛いし、その・・・何て言う
か、でも、あんまりそれを嫌だと思ったことは、ない、かな」
シンジも前を向いたままだった。
「あたしね・・・この前、聞いちゃったんだ」
アスカは質問されるでもなく、話し始めた。
「この前、ミサトがさんざん酔っぱらって帰ってきたでしょ・・・あれ、加持
さんと飲んできたんだって」
シンジは口を挟まない。
「それでね、次の日、加持さんに電話したんだ・・・そしたら、加持さん、言
ってた・・・」
ペンペンがアスカの腕の中からするりと抜け出し、冷蔵庫に戻っていった。
「そのとき・・・一緒に飲んだだけじゃ・・・なかったんだって・・・」
だんだんアスカの声が涙声になってきた。
「あたし・・・バカみたいよね・・・ぐすっ、加持さん、ミサトだけ、ぐすっ、
ミサトだけだって・・そう・・・」
嗚咽が混じる。
「それで、ぐすっ、・・・あたしは、ほんとは・・・」
アスカの顔がシンジに向けられた。
「加持さん・・・シンジを・・・」
涙をぼろぼろこぼしたアスカの顔を、シンジは初めて見た。
「・・・ごめん・・・あたし・・・このままで・・・いさせて・・・」
シンジは、自分の胸を借りて泣いているアスカの髪を撫でていた。
日の光が入ってきた。
小鳥がさえずる。
シンジの目覚めは心地よいものだった。
心が軽くなったシンジは制服に着替えると、料理のためにキッチンへ向かった。
「おはよう、シンジ」
「おはよう、アスカ」
エプロン姿のシンジに、アスカは声をかけた。
そのまま、身動きせずに二人は見つめ合う。
鍋はぐつぐつと音を立てているが、そんなことはお構いなしだった。
そこへ、
「たらいまあ〜!シンちゃん、今帰ってきたわよ〜」
ぷしゅ、という玄関のドアの音と共に、酔いどれミサトの声がした。
我に返ったシンジは小走りで玄関へ駆けていく。
「もう、ミサトさん、今まで何やってたんですか?もう朝ですよ」
「まあまあシンちゃん、細かいことは気にしないの」
千鳥足でふらふらと歩いて冷蔵庫前までたどり着いたミサトは、勢いよく扉を
開けるとビールを取り出した。
「こらミサト、あんたこんな酔っぱらってるのに飲むんじゃないわよ」
ミサトの手からビールが消える。
奪ったのはアスカだった。
「ちょっとアスカ、あたしのビール返しなさい」
「酔っぱらいが偉そうなこと言うんじゃないわよ」
そこにシンジが口を挟む。
「あ、アスカありがと」
「どういたしまして」
酔っぱらいとはいえ、葛城ミサトの判断力は生きている。
シンジとアスカの関係がやけにスムーズになっていることに気がつかないはず
はなかった。
「あーらあなたたち、あたしがいない間になんかあったのお?」
とたんにシンジの顔が赤くなった。
「そ、そんなこと何もないですよいやだなあミサトさんあはは」
慌てるあまり、早口になる。
「そうよ。ほら、酔っぱらいはさっさと寝てなさい」
アスカがフォローを入れる。
「ふーん。怪しいわねえ。まあ、いいわ。邪魔者はさっさと消えることにしま
しょお。お休み〜」
ミサトは魔窟とも呼ぶべき彼女の部屋に、千鳥足で入っていった。
「ははは・・・どうする、アスカ?」
その様子を見ていたシンジが少し困った顔でアスカに話しかける。
「ま、ばれたって構わないわよ。さあ、ごはん食べて学校に行きましょ」
「そうだね。・・・あーっ!鍋が吹きこぼれてる!」
「ほんと、バカねえ」
鍋のことなどすっかり忘れていたシンジを見るアスカの目は、とてもやさしい
ものだった。
昨日の夜いったい何があったのかは、当事者二人と一人のペンギンしか知らない。
おしまい
記念コメント(アスカ、欲求不満編)
シンジ:いいね、こういうのって。アスカもそう思わない?
アスカ:そうね。いいんじゃないの?
シンジ:・・・それだけ?
アスカ:当たり前よ!!アタシが誉めるなんて十年早いわ!!
シンジ:そんな事言うなよ。ぱかぽこさんに失礼だろ。
アスカ:いいのよ。あいつは肉感のアタシになれてるんだから。
シンジ:でも、ここはかくしEVAだよ。それをもうちょっと考えてもらわな
いと・・・
アスカ:・・・・考えてもいいの?
シンジ:いいよ。当たり前じゃないか。
アスカ:じゃあ、アタシがぱかぽこの話に何が不満かわかる?
シンジ:・・・・・
アスカ:アンタにはわかんないかもね。
シンジ:・・・何なの、アスカ?
アスカ:・・・・未熟過ぎるのよ。
シンジ:何が?
アスカ:ほら、かくしEVAはキスとか何とかさあ・・・・・
シンジ:・・・・やっぱり、考えなくてもいいです。
アスカ:もう遅いわよ!!この責任は、キスの一回や二回じゃ済まないんだか
ら!!アタシはちょっと我慢のし過ぎで、欲求不満なのよ!!
シンジ:うわぁ〜勘弁勘弁!!
アスカ:待ちなさい!!今日は寝かさないわよ!!
さてさて、記念投稿第二十七弾はぱかぽこさんのSSです!!
ぱかぽこさん、投稿ありがとうございました!!ぱちぱちぱち・・・・
ぱかぽこさんには、この投稿だけでなく、最近はメールをたくさんいただきま
して、本当に感謝しております。ぱかぽこさんは肉感アスカの方にたくさん投
稿していますので、よろしければそちらも是非ご覧ください。今はやりの、流
浪の投稿にんですね。自分のページが持てますよう、頑張ってくださいね。私
も応援しております。
で、私の感想なんですが、いいですね、ほのぼので。MAKIさんの時にも言
ったんですが、私はこういうほのぼのがとっても好きなんですよ。かくしEV
Aでもこういうのを書きたいんですが、進んだ時はもう元には戻らないという
か、何と言うか・・・・とにかく、投稿の方でちょっと補完したいんですが、
「逃亡」もそうはならない体たらくで・・・・・まあ、以後注意しておきませ
う。
しかし、私が好き好きといってるわりには、コメントではとんでもなく失礼な
事を言ってますね。そんな事は全く無いので、ご勘弁下さいませ。あれは、ア
スカ様の勝手な意見ですから。私としては、シンジ君と同じく、こういうのが
好きなんですからね。
とにかく、投稿、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します
ね。では、今日のところはこの辺で。
ぱかぽこさんへのお便りはこちら:
koen@mars.dtinet.or.jp
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