リツコの楽しみ

                                                        by 神木

 「ミサト、何ビールなんか見てんの」
 「うちでは飲んじゃ駄目って、リツコに言われてるからね・・・・」
 「まだ、そんなこと気にしてたの!? 今日はパーティーじゃない! 今日ぐらいは大目に
   見てくれるわよ!」
 「そ、そうよね! よし、今日は死ぬまで飲むかー!」

一月前、ネルフ諜報部に配属され、ただいま保安局で研修中の新人は、
実に律義に赤木博士の私的な命令を守った。

 「赤木博士に連絡だ」

・・・

  「そう。分かったわ。30 分後に渡すものがあるから、
    ミサトの家の前で待機していてちょうだい」
  「え、しかし、護衛の任務は・・・」

無視無視。リツコはちゃっちゃと電話を切った。

  「シンジ君もしょうがないわねぇ。ちゃんと止めなさいよね。
    ミサトも保安部が護衛(兼 監視)についてること忘れてるし。
    長年のつきあいなのに、まだ私のことが分かってないわね。ふふふふふ・・・」

そして冷蔵庫を覗いて、

  「えーと、あれどこやったかしら・・・」

リツコの護衛についていた保安局のベテラン(55) は、
たとえ減棒になろうと、この 30 分を見なかったことにしようと心に決めたという。

  「まだ、ミサト達は帰って来てないわね」
  「はい。・・だから自分は早く任務に戻りたいんですが・・・」

リツコはびくつく彼に無理矢理小ビンを手渡し、

  「これを、彼らが使うコップの内側に塗り付けておきなさい。
    そうすれば、あなたは明日の 10 時すぎまでぐっすり寝られるわ。
    新人研修は辛いでしょ。あなたこの 2,3 日寝てないんでしょう」
  「いえ、もう 6 日寝てないんですが、・・・ はい。わかりました! 
    これを塗っておけばいいんですね!」

喜々としてマンションを駆け上がっていくのを見送りながら、リツコは明日を
思い浮かべて口もとを歪めた。

  「ごめんなさい。あの睡眠薬、皮膚からも吸収するのよねぇ。あなた確実に 10 時までは
    眠っていることになりそうね」

翌日。

  「学校には来ていない。彼、無事ちゃんと仕事したようね。
    もう 10 時だし、そろそろ動きがあるころ・・・」

プルルルルル・・・カチャ

  「いやあ、ありがとうございます。やっぱりちょっと解放感があったらしくって、
    さっきまでぐっすり寝ちゃいましたが彼らも今ようやく起き出したようです。
    自分はこれから護衛任務に戻ります」
  「そう。よかったわね」

彼女の運転能力からして、ここにたどりつくのは 20 分後。酔いざましを
用意して差し上げましょう。ふふふふふ・・・

  「しまったあ・・ 一応セーブしたつもりなのに
    遅刻なんて・・・リツコにばれたら、パーティーなんて言いわけ通るかしら・・」

ドタドタドタ・・・

  「あら、早いわね。必死になって車走らせたわね。結構結構」

リツコはおもむろにミサトの前に立ち塞がった。

  「ミサト。何どたばたやってるの? 遅いじゃない。大変なことが分かったのに」
  「あ、リツコ、・・・ 昨夜レイの歓迎パーティーで夜更ししちゃって・・・。
    大変なことって?」
  「その前に。あなた、家でお酒飲んだでしょう?」
  「え、飲んでなんかないわよ・・」
  「そう。それならいいわ。実はね、あなたの家のコップには
    アルコールと反応して毒になる薬品が塗ってあることが昨日、
    調査部からの報告で分かったの。
    でもアルコールがなければ無害だから安心していいわ」
  「!」
  「ビール好きのあなたを狙い撃ちした卑劣なやり方ね。
    はじめはなんともないけど、2 日後にはいきなり心臓麻痺おこす毒なのよね。
    まあ、飲んでないなら大丈夫よ。今日中に洗浄させるから安心していいわ。
    飲んでないんでしょ? 」
  「ごめんなさあい・・・飲みましたあ・・アスカとレイもなのぉ、助けてやってぇー」
  「飲んだのね? 私があれほど言ったのに、飲んだのね!」
  「飲んじゃいましたあ・・」
  「分かった? こういうことがあるからもう自宅で飲んじゃ駄目よ!」
  「はあい・・・」
  「なかなか正直でよろしい。じゃ、この毒消し飲みなさい。洗浄部隊用に用意した
    中和剤よ。毒を摂取した後だと 20 才以上で下痢を起こす副作用があるんだけど
    それは我慢してね。アスカとレイにも渡してくるわ」
  「あ、ありがとう」

ミサトが泣きながら感謝して、理科準備室を去った後。

  「あの毒薬どこへやったのかしら・・・おかげで睡眠薬と下剤でお茶を濁すのがせいぜい
    だったじゃないの・・・」

リツコは無念の表情を浮かべていた。

赤木リツコ様

あの毒薬を隠したのは私です。
あの薬を実際に使って頂くつもりでいたのですが、
どうにもオチをつけようがない - しゃれにならない惨状になりそう
だったので隠させていただきました。
申し訳ありません。
                                      作者より

記念コメント（マッド赤木編）

ミサト：リツコ・・・・
リツコ：なに、ミサト？
ミサト：・・・・・・
リツコ：約束を破ったあなたが悪いのよ。私はただ、そんなあなたに罰を与え
        ただけ。
ミサト：しかしやり方っちゅうもんがあるでしょう！！
リツコ：私のやり方は、妥当だったわ。
ミサト：ア、アタシを殺す気だったの！？
リツコ：・・・・そうよ。あなたのような無能な人間は、もう用なしだわ。
ミサト：・・・・リツコ・・・・アンタ、何だかレイに似てきてない？
リツコ：・・・これが本当の私。レイは私が育てたのよ。だから、レイの方が
        私に似てるの。
ミサト：・・・・・
リツコ：レイは私に似て、冷酷なものになると思ったのに、あなたのところの
        シンジ君がレイを変えてしまって・・・・
ミサト：・・・も、もしかして・・・・
リツコ：そうよ。私の作りあげたレイが壊されたのなら、それは廃棄処分よ。
        それに、私の大事な実験動物を台無しにしたシンジ君とアスカにも、
        その責任を取ってもらうの。残念な事に、薬が見当たらなかったから、
        出来なかったんだけど。
ミサト：・・・・・
リツコ：そのうち三人まとめて処分してあげるから、心配しないで。あ、もち
        ろんミサト、あなたの事も忘れてないわよ。フフフフ・・・・・
ミサト：・・・・死ね。

・・・・こうして、狂った女、赤木リツコは、同僚の葛城ミサトの手によって、
銃で眉間を撃ち抜かれて死亡した。しかし、その死を哀れむものは、誰もいな
かったという・・・・


お待たせしました。記念投稿第二十四弾は神木さんです！！
神木さんの投稿はこれで二つ目。そしてこの次も、神木さんなの。だから合わ
せて三つという事になりますね。わざわざお忙しい中、ありがとうございまし
た。新年ですし、何だかめでたいですね。ぱちぱちぱち・・・・・
さて、かくしＥＶＡ９８話から続くこのお話。私には描けない部分だっただけ
に、何だかうれしいですね。それにコメディタッチに仕上がっていて、とても
楽しませて頂きました。しかし・・・・私のコメントがきつすぎますね。私の
心と同じく、暗雲垂れ込めてます。ふう・・・・・休養が必要です。
神木さん、ありがとうございました。これからもご自分のページを頑張ってく
ださいね。では、今日のところはこれで。