記憶喪失シンちゃん

−ネルフ本部(9月14日月曜日)−
「第15次起動テストスタート」

 プラグ内にリツコの声が響く。

「電源接続完了。起動用システム作動開始」
「稼働電圧、臨界点まであと0.5・・・0.2・・・・」

 衝撃音が響く。

「・・・・突破」
「起動システム第2段階へ移行」
「パイロット接合に入ります」
「シナプス挿入、結合開始」
「パルス送信」
「全回路正常」
「初期コンタクト異常なし」

 起動テストは順調に行くと思われた。しかし・・・

「パルス逆流!」
「第3ステージに異常発生!」
「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」
「初号機からの精神干渉がはじまっています!」
「シンジ君の精神が汚染域に達しています。危険レベルです」
「パイロット反応無し、プラグ内の状況つかめません!」

 オペレーターが焦ったように叫ぶ。

「実験中止!プラグ排除、医療班待機させて、救出後ネルフ内の病院に収容します」

 ミサトの命令で次々と人間が動く。このときミサトは、はぁ・・・一尉でよかった
と心から思うらしい。

「私も、シンジ君について行くから後はよろしく」

 そういって、ミサトは第二ケイジを後にした。

−第一日目(9月15日火曜日、ネルフ内病院205号室)−
 シンジがテストで精神汚染を受けてから1日が過ぎた。
 ミサトは可能な限りシンジの側にいることにしている。だが、いつも泣いてばかり
いた。今日も、朝から1時間ほど側にいるのだが、だんだん悲しくなってきて、スン
スン泣いていた。その時、シンジが目覚める。

「あれ?僕・・ん?誰かが泣いているぞ?誰だろう?」

 横を見るシンジ、そこにはうつむいて泣いている女性の姿が目に入った。

「誰だろう?」

 その声に気付いたミサトが、ガバッと顔を上げて抱きついてくる。

「な・・・なんですか?いきなり・・・??」
「よかった・・・ほんとうに、よかった・・・」

 女の人に抱かれてちょっと嬉しそうなシンジだが、しかしその顔は見ず知らずの人
に抱きつかれたような顔をしている。

「だから、誰なんですか?あなたは?」

 ミサトは、シンジがとぼけているのかと思ったが、その顔を見たとき、少し気が付
いた。

「へ?・・・シンちゃん。あなた・・・まさか・・」
「そのシンちゃんって言うのも誰なんですか?」

 ミサトは完全に確信した。急にすくっと立ち上がって室内電話から内線でリツコに
連絡を入れる。

「あ!リツコ、ちょっと聞いてよ!シンジ君の記憶が無いのよ。そう!記憶喪失にな
っているみたいなのよ。そう、そう、調べておいてね」

 その光景を何か珍しい物でも見ているような感じでミサトを見つめている。

「綺麗な方ですけど、どちら様ですか?よろしければ、名前を教えてもらえませんか?」

 電話を切ったミサトにシンジはそんなことを言った。シンジはその女の人に興味を
持ったのだ。と言うより、一目惚れみたいなものだろう。すりこみ現象みたいなもの
かもしれない。とにかくシンジはそのいきなり抱きついてきた女性に惚れたのだった。

「えーっと・・・どうしようかしら・・・そうね、私の名前は葛城ミサトよん!」
「かつらぎみさとさん・・・ですか?」
「そうよ、それじゃ、あなたの名前は?」
「僕ですか?僕は・・・僕は・・・僕は誰でしょう?それに、ここは何処なんですか?
かつらぎみさとさん」
「ミサトでいいわよ。それに、あなたは、碇シンジっていう名前なのよ」

 キョトンとした顔で、

「僕は、いかりしんじっていう名前なんですか?うーん・・・思い出せない」

 そう言う。
 なんて落ち着いた記憶喪失患者だとミサトは思った。

「あなたは、シンジっていうから、シンちゃんなのよ」
「なるほど、そうだったんですか・・・それで、さっきシンちゃんって呼んだんです
ね!それで、謎が一つ解決しました」

 本当に落ち着いたその記憶喪失患者シンジは、ポンと手を打った。

「それで、ミサトさん。ここは何処なんですか?」
「ここは、ネルフと言って、地下にできた空洞を利用してつくられた要塞なの。ここ
はその中にある病院の205号室よ」

 辺りを見て、外でない事は分かったからこれも、納得したシンジ。

「ところでシンちゃん、あなた、自分が記憶喪失だって事分かっているんでしょ?」

 いきなり核心をつくミサト。

「え!?きおくそうしつって何ですか?」

 ずっこけそうになるミサト。それを、なんとか理性で押さえる。

「自分の記憶がほとんど無い状態を記憶喪失というのよ」
「そうなんですか、僕はきおくそうしつなんですね」

 その表情に、少し焦りが見える。ミサトはそれに素早く気が付くとシンジに、

「シンちゃん、焦ったら戻る記憶も戻らないから、ゆっくりやりましょう。それにも
しもの時はリツコが何とかしてくれるはずだから」
「リツコ?リツコって誰ですか?」
「私達の仕事仲間でね、技術開発部に所属しているの、腕は確かよ」
「じゃ、もしもの時は、その人が治してくれるんですね?」
「そうよ」
「分かりました」

 しかし、その表情は不安一杯の顔で答えるシンジ。
 結局、その日は退院して、ミサトの家に帰ったシンジ。記憶の無いシンジがご飯を
作れるはずがなく店屋物を取るミサト。シンジは自分の部屋で、なにやら本を読んで
いる。

「シンちゃん、店屋物とるけど何がいいかしら?」
「てんやもの?・・・なんですか?てんやものって?」
「え?あ、そうか・・・えーっとお腹すいたから食べ物を買うけど何がいいかしらっ
て事よ」
「え?じゃ、このカレーライスって言うのが食べてみたいです」

 そういって、料理のレシピを指さす。そこには、カレーライスが載っていた。さっ
きから読んでいたのはこの本らしい。

「じゃ、カレーライスね、私もそれにしよ!」
「はい・・・楽しみだな・・・」

 まるで、初めてカレーライスを食べるかのようにワクワクしているシンジ。
 そして、カレーライス2人前(辛口、1人前は大盛りもちろんミサトの分)はやっ
てきた。
 最初、シンジはしげしげとカレーライスを眺めた後、スプーンでルーだけをすくっ
て口に運んだ。

「辛い、これがカレーライスなんですね・・」
「シンちゃん、ルーだけじゃカレーライスとは言えないわよ、こうやって、ご飯と一
緒に食べなきゃ」

 そう言って、ご飯とルーを少し混ぜてからスプーンですくってパクッと食べるミサ
ト。それを見て、真似して食べてみるシンジ。

「ん!美味しいですよミサトさん。さっきみたいな辛さは無くなりました」
「そうでしょ?これがカレーライスよ、思い出した?」
「!!ぃぇ・・・初めて食べたんじゃないんですね・・・これは・・・」
「あなたの得意メニューじゃない!思い出さないの?私はてっきり・・・」
「え?僕は、これを作っていたんですか?ごめんなさい、分かりません。でも、気に
なったことは確かです・・・」
「それだけでも十分かしら・・・・」

 その日はそんな会話が続いていた。

−第二日目(9月16日水曜日)−
 今日は平日なので、学校に登校させることにしたミサト。

「おっはよう!碇君!」

 トウジとケンスケが迎えに来た。

「さぁ!いってらっしゃい!」
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ!クラスの名簿は覚えたんでしょ?」
「はい・・・写真も覚えました・・・」
「じゃ、大丈夫よ!」

 ポンとシンジの肩をたたくミサト。その時、電話が鳴り響く。

「それじゃ、シンちゃん、気をつけて行ってらっしゃい!」
「はい・・・」

 少し、肩を落としてドアを出るシンジ。それを見届けて、ミサトは電話の受話器を
上げた。

「はいもしもし、葛城ですが?」
『ミサト?私だけど』
「リツコ?なに?どうしたの?」
『原因が分かったわ、今から言うことをよく聞いて』
「分かったの?よかった。それで?どういう状況なの?」
『初号機からの精神干渉とマギのサポートの結果。シンジ君の記憶が初号機を通して
マギに綺麗に移動されているわ。シンジ君の方にオリジナルの記憶は残っていない状
態になっているわけよ』
「と言うことは、マギにシンちゃんの記憶が入っているわけ?」
『そうなるわ!だから、もう一回、戻すことができるわ。もちろん、初号機に乗せな
いといけないけど』
「そう、よかった。でも、言いにくいわね・・・もう一回乗せなきゃいけないのね」
『そうね・・・シンジ君にとってはこのままの方がいいのかも知れないわね・・・で
も、どんな事をしてもシンジ君には乗ってもらわないといけないわ』
「そうね・・・結局、強制なのよね・・・仕方ないか・・・乗らないと使徒にやられ
ちゃうものね・・」
『そうよ、私達に他の道はないの。セカンドチルドレンもいるけど、レイと2人じゃ
世界の平和は望めないわ』
「シンちゃんを説得しなくちゃいけないわね・・・」
『その為のシュミレーションを32,768通り考えてみたけど、あなたのサーバに
送っておくわね、参考にして頂戴。それと、サルベージは明後日だからね』
「参考にって・・・何よその多さは?」

 プツン!

「ねぇちょっと!待ちなさいよ!!こら!リツコ?」

 しかし、無情にも既に切られておりリツコからの返事はない。

「まったく・・・その3万通りも私が見るとでも言うの?」

 そう言いながら、既に端末を立ち上げてサーバにアクセスしている。とりあえず1
から100までを一通り読んで見る。

「なによこれ、細かく区切ってあるだけじゃない・・・」

 そう言って、101から200までをざっと読んでみる。

「これもだわ、あんまり変わらないわね・・・」

 ドンドン読んで行くが、これと言ってパッとする作戦は見あたらなかった。そして、
ついに最後の32,768を読んでみた。他のと違って、いきなりグッと来るものが
この作戦にはあった。ミサトは、これだ!と思った。グッと拳を握る。それは、リツ
コから電話があったちょうど4時間後の事であった。

 シンジは、自分は見知らぬ2人と一緒に話を合わせて学校に向かっていた。

「なんや?センセ、今日はどないしたんや?何か変なもんでも食うたんか?」
「そうだよ、シンジ今日はなんかおかしいよ?話しを合わせているような感じだし。
何かあったのか?」
「え?何もないよ、気のせいだと思うよ、鈴原君」
「鈴原君?ぜったい何かあったな!シンジ。俺達に隠し事はできないよ」

 ケンスケがかけている眼鏡を妖しく光らせる。

「そうやでセンセ、俺達に隠し事はできへん!それに、センセはわしのこと鈴原なん
て呼ばない!いつも、トウジって呼んどるやないか?」
「そ・・・そうなんだ・・・」
「そうなんだって、シンジ?おまえまさか?」
「まさか・・・なんだよ・・・」

 さらに、妖しく光らせてケンスケが続ける。

「記憶喪失になっているんじゃないのか?父さんから聞いたけど、初号機のパイロッ
トが記憶喪失になってたって言うから、きっと間違いないな」

 さすがに、ケンスケの情報量はあなどれない。だてに、眼鏡を妖しく光らせている
だけはある。シンジは観念した。

「ううう・・・まいったな、ミサトさんには口止めされているんだけど・・」
「わしらはセンセの親友やないけ!センセが不利になることは絶対せぇへん、約束す
る!」
「そうだよ、シンジ。俺達も色々教えてやるから安心しててよ」
「ありがとう・・・ありがとう、鈴原君、相田君」
「せやから、わしはトウジや!こっちはケンスケでええねんで」
「分かったよ、トウジ、ケンスケ、これでいい?」
「そうや、それでええ。せや、この前なぁ・・」

 そして、またバカな話しで盛り上がる。しかし、さっきよりも、シンジは話しの輪
の中に入っている。
 そんなこんなで、学校につく3人。ホームルームは無事に終わって、1時間目、2
時間目ともに無事に終わった。

「どうや?センセ、授業は?」
「面白いよ、こんなものがあったんだね。ドンドン覚えるよ」
「ええなぁ・・・こんなつまらん授業が面白いなんて・・・」
「本当に面白いんだ!知らないことばかりで、それを覚えるだけで面白いんだよ。ち
なみに、このパソコンの使い方はもう覚えたよ」

 そう言って、カチャカチャとケンスケにCALLを送る。内容は、

『ちょっと、来てくれ。byシンジ』

である。素早く、ケンスケから返事が返ってくる。

「OK!byケンスケ」

そして、ケンスケはこっちに来た。

「何か用か?シンジ?」
「ね!」

 シンジはトウジに向かって親指を立ててみせる。

「なんだよ、シンジ?」
「センセがこれが使えるっちゅうから見せてもろとったんや」

 そう言って、パソコンを指さすトウジ。

「そうだったんだ・・もう使えるようになったんだねシンジ。すごいじゃないか」
「そんな・・・ケンスケの教え方がうまいからだよ」

 朝、ケンスケが少し操作方法を教えてくれたのだ。あとは、マニュアルを読んで覚
えたことだが2時間足らずで個人にCALLを送れるようになったのは、今までさん
ざん使ってきてCALLもろくに送れないトウジよりはましになったわけだ。

「そうやって、記憶が戻るまで。ゆっくり慣れていくといいよ」

 そう言って、ケンスケは自分の席に帰った。
 その時ちょうど、始業のベルが鳴ったので、トウジも自分の席に戻った。

「さて、次は、数学だな・・・」

 ミサトはあの後、車をとばしてネルフに来ていた。

「ちょっとリツコ?あんたね!勝手に私のサーバに大量のデータを送らないでよね?
送るなら先に言いなさいよ、先に!」
「送るって言ってからじゃ、受け取ってもらえないかと思ったから、先に送っておい
たのよ。あなた、絶対拒否したでしょ?あんなデータ」
「う・・・その通りです」

 あからさまに図星ですという顔をするミサト。

「ここに来たって事は、いい作戦があったのね?」
「あったわ、32,168号、つまり、最後の作戦よ。でも、リツコ、これを見せる
ために他の作戦を作ったみたいだったけど、私の気のせいかしら?」
「ギク!そ、そんなこと無いわよ・・・」

 平静を装うリツコ。だが、どもってしまう。

「やっぱりね・・・ふぅ・・・ま、いいわ。久しぶりに全書類に目を通しきったんで
すものリツコのおかげで久しぶりに仕事をしたって気になったわ」

 皮肉たっぷりで言うミサト。

「それで?サルベージのプログラミングはうまく行っているんでしょうね?」
「えぇ、約束の日までには完成させるわ。だから、あなたは作戦どおりにシンジ君を
ネルフに連れてきて・・・」
「分かったわ・・・おっと、そろそろ家に帰り着く頃だわ。それじゃリツコ、プログ
ラムの方、よろしくね!」

 そう言って、実験室を後にするミサト。
 駐車場から、ホイルスピンをさせながらルノーが飛び出していく。

「ただいまぁ、あれ?ミサトさんネルフから帰ってないのかな?」

 家についたシンジは、とりあえず、あなたの部屋よと言われた部屋にカバンを置き、
リビングに行く。何もすることがないので、何となくキッチンへ足が向いた。そこに
は、少なくとも今まで使われていた形跡が残っている。シンジは何となくコンロの前
に立ってみる。

「誰か使っていたんだ・・・ミサトさんかな?」
「あなたが使っていたのよ!」

 びくんとなるシンジ。後ろを振り向くといつの間にか帰って来たミサトが少しドア
に寄っかかるような格好で立っていた。

「僕が・・・ですか?」

 また、コンロの方を向くとカチッと火を付けてみる。

「本当に、僕がここで料理を作っていたんですか?」

 ついでに、フライパンを出して、火にかける。油を注いで、熱してみる。

「!!何か作るの?」

 無言でフライパンを見つめているシンジ。

「それじゃ、チャーハンというのを作ってみようと思います。昨日、ノートに書いて
あるのを読んだんです」
「大丈夫?一応、材料は冷蔵庫に入っていると思うけど・・・」
「多分、作れますよ。あのノートに書いてあるとおりに作ればいいのですから、ミサ
トさん僕の部屋からノートを取ってきてもらえますか?
「分かったわ・・・」

 よーしと言った後、シンジは腕まくりをして手を洗った。冷蔵庫を開けて、材料の
確認をしてみる。

「えーっと・・・ベーコンにタマネギ・・・ってベーコンってどれだろ?タマネギ?
タマネギは・・・これかな?」

 しかし、手に取ったものはニンニクとハムだった。まだいいか・・・

「はい!シンちゃんノート・・・って、今日はニンニクとハムを入れるんだ・・・」
「え?ニンニク?ハム?これ、ベーコンとタマネギじゃないんですか?」
「違うわよ、ベーコンは・・・これ、タマネギはこれよ!」

 ミサトが冷蔵庫からベーコンとタマネギを出してくる。

「これが、ベーコンとタマネギなんですね?それじゃ、ご飯ってどれですか?」
「ご飯はこれに入っているわ、それじゃ、頑張ってね!」

 そう言ってキッチンを後にするミサト。

「さて、やってみるか・・・」

 まず、シンジはベーコンとタマネギを細かく切ることにした。

「えーっと・・・ほうちょう、ほうちょうって何だろ?ミサトさーん・・・」
「なぁに?シンちゃん?」
「ほうちょうって、どこにあるんでしょうか?」
「え?包丁?えーっと、そこの引出にあると思ったけど・・・」

 そう言って、上から2番目の引出を指さす。

「ここですね?えーっと、これですか?」

 取り出したのは、栓抜きだった。

「それは、栓抜きって言って便の蓋を開ける道具よ」

 ミサトは立ち上がって、包丁を取って見せる。

「これが、包丁よ。よく切れるから気をつけてね!」
「はい・・・あ!ミサトさんここにいてください。分からないものが、その、まだあ
るものですから・・・手伝って下さい」

 シンジから、ミサトにそんなことを言われたのは初めてなので少しむずがゆいミサ
ト。

「私が、ここに・・・?」
「そうですよ、ミサトさん。記憶が無いからミサトさんあなたが必要なんです。側に
いてサポートして下さい」
「そ・・・そうね・・・そうしましょう」

 シンジにそう言われては断れないミサト。取り敢えず、側に付いてやることにする。

「これで、このベーコンとタマネギを細かくする訳か。よし・・・」

 シンジはそう言って、包丁を少しぎこちなく持つと、ベーコンを切りはじめた。

「フライパンは、熱くしてあるから・・・ここに油を入れるのか・・・小さじ一杯程
度?えーっと小さじってなんだ?」
「小さじはこれよ」

 ミサトさんが引出から素早く持ってきてくれる。
 おかげで、僕は苦労することなくチャーハンを何とか作りきることができた。途中、
油がはねたりご飯が焦げたりしたが、まぁそれは仕方ないわよとミサトさんも言って
くれたし、問題はないと僕は思った。

「おいしいわよ、シンちゃん。前のとそんなに変わらないと思うけど・・・」
「そうですね・・・明日のご飯は、色々試してみましょう」

 ここで、ミサトは作戦にうつることにした。

「あ!!そうだ、シンちゃんあなたの記憶なんだけど、戻る方法が見つかったわ」
「え?そうなんですか?じゃ、すぐにでも戻したいです」
「本当ね・・・それじゃ、ネルフに来てもらわないといけないんだけど」
「え?・・・いいですよ・・・それで、記憶が戻るなら、ネルフに行きます」
「それじゃ、明日学校が終わったら迎えに行くからね」
「分かりました」
「それじゃ、お風呂に入って、今日はもう寝なさい。お風呂は、私が沸かしたから」
「はい・・・えーっと、お風呂はあっちでしたよね・・・」

 すくっと立ち上がって着替えを持って風呂場に行くシンジ。風呂に入ったのを確認
してからミサトはリツコに電話をする。

「あ!もしもし、リツコ?うん、私。第一作戦は成功よ」
『そう、良かったわ。こっちも約束どおりのプログラムがもうすぐ出来上がるわ』
「よかった。それだけが頼りなんですからね。約束は守ってよね」
『分かっているわ。約束は守るわよ』
「そう、あ!それじゃ、シンちゃんがお風呂から上がるわ。またね」
『ええ・・・』

 カチャっと受話器を置く。置いたところにシンジが風呂から上がってきた。

「それじゃ、ミサトさん。おやすみなさい」
「はい、おやすみ」

 ミサトは、ビールを飲みながらそう言った。
 一回ため息をついて、ミサトは一気にビールを飲み干した。

−第三日目(9月17日木曜日)−
 シンジは、校門のところでミサトが来るのを待っていた。
 道の先から青いルノーが轟音を轟かせながら走ってくる。キキキキーと少し、横に
滑りながらそのルノーは止まった。

「シンちゃんお待たせ!」

 ミサトが顔を出してシンジに言う。ミサトの顔を見ると、安心したのかシンジの顔
が明るくなる。素早く助手席に乗るとふたたびルノーは轟音を轟かせて去っていった。

 ネルフに着いたミサトとシンジは取り敢えずリツコの所に行くことにした。

「リツコォ・・プログラムできた?」
「あら、タイミングいいわね・・・いま丁度できたところよ。後は、シンジ君がエン
トリープラグに乗るだけで記憶がシンジ君に戻るようにオート設定の優れものよ」
「私と、先輩でプログラミングしたんですよ」
「あら、マヤいたのね?」
「はい、今回は手伝わせていただきました」
「バグも取り除いてあるわ。完璧にね」
「さっすがリツコ、マヤペアね!」
「そんなにすごいんですか?」
「そりゃそうよ!この二人に任せておけばシンちゃんの記憶なんて、パパーッと戻っ
ちゃうわよ!」

 少し、嬉しそうな顔になって、

「よろしくお願いします」

 と、2人に頭を下げるシンジ。

「それじゃ、シンジ君。早速だけど・・・」

 キョトンとしているシンジにリツコは記憶サルベージ専用のプラグスーツを渡した。

「これを着てちょうだい」

 ふたたびキョトンとしているシンジにリツコは半強制的に命令する。

「分かりました」
「裸にならないといけないから、あっちの更衣室を使ってね!」
「え?裸になってですか?」

 記憶が無いため、着方すら分からないかもしれないと思ったマヤは、リツコに、

「先輩、記憶が無いから変な着方するかもしれませんよ」
と言った。納得したリツコは、マヤに、
「じゃ、あなたついていって。着方を教えてちょうだい」
「え?・・・そんな・・・」

 そんなやり取りを聞き逃すはずが無いミサトが、

「私が教えるわ!保護者として!」

 きっぱり言い張った。

「そう、それじゃミサとお願いね」
「任せといて・・・それじゃ、シンちゃん行くわよ!」

 ニヤリと笑うと、シンジと一緒に更衣室にむかった。

 更衣室で、まずミサトはシンジにプラグスーツの概要を手短に説明する。

「まず、この背中のところから足を入れて靴下みたいにこう・・・履いて・・・グイ
ッと肩のところまで持ってくればつなぎになっているからそのまま手を入れて、手首
のところにあるスイッチを押せばピッタリになるようになっているから。その後、こ
れを頭にはめるのよ、こういう風に・・・」

 そう言って、インターフェイスヘッドセットを付けて見せるミサト。

「はい・・・・」
「じゃ、早速脱いで着てみて!」
「はい・・・」

 素直に上着と下着を脱いで裸になるシンジ。その表情には恥じらいのカケラも無い。

「ちょっとぐらい隠そうとかしないの?」
「??どうしてですか?」
「はぁ・・・ま、いいわ・・・」

 ため息を一つついてそう言うと、シンジにプラグスーツを渡した。

「えーっと、こっから足を入れるわけですね」
「そうよ」

 シンジは恐る恐る足を入れる。プラグスーツはもともとぶかぶかに出来ているので
すんなりシンジの足を受け入れる。

「そうそう、そうやって、肩までグイッと引っ張れば・・・」
「よっ・・・こうですね・・・」
「そうよ、それで手を入れて・・・」

 そしてついにプラグスーツを着たシンジ。手首のボタンを押すと、プシュっと言う
音とともにサイズがピッタリになる。まるで、真空パックみたいだ。
 そして次に、インターフェイスヘッドセットをシンジに渡す。シンジは、ミサトの
真似をして頭にはめる。

「これで完了ね!」
「はい」
「じゃ、リツコのところに行きましょ?」

 更衣室を後にする2人。

 一度、リツコの研究室に行ったが誰もいなかったため、ミサトとシンジは起動実験
室に向かった。

「やっぱりここにいたのね・・・」
「そうよ、いつでもはじめられるわよ」
「よし、それじゃシンちゃんテストプラグに入ってちょうだい」
「え?エントリープラグ?って・・・」
「あそこに見える筒の中に入るのよ」

 既に準備万端のテストプラグが途中まで刺さっている。シンジはその光景を見てい
たが、グッと拳を握ると決心した。

「分かりました・・・乗ります。記憶を取り戻さなきゃ・・・」

 そう言うと、ミサトと一緒にテストプラグまで行くシンジ。

「怖くなったら言いなさいね。すぐに飛んで来るから」
「ありがとうございます。ミサトさん。でも、記憶を戻さなきゃ・・・」
「そうね・・・それじゃ、頑張ってね!シンちゃん・・・」

 去りぎわにシンジのほっぺにチュウをするミサト。しかし、チュウすら知らないシ
ンジは、何もなかったかのように、プラグ内に入った。

「見てたわよミサト。だめよ、記憶がないのにあんな事しちゃ・・・」
「いいじゃない・・・この時の記憶は無くなるんでしょ?」
「無くならないわよ。この記憶が残ってしかも、前の記憶も入るから後からどんな事
言われるか分からないわよ・・・」
「え?残っちゃうの?うーん・・・どうしよう・・・」
「まったく・・・後先考えないで行動するんだから、昔から変わってないわね・・・」
「人のことは気になるのね?あなたも昔と変わっていないわ・・」

 皮肉いっぱいで言い合う二人にマヤが一言。

「はじめましょう!」

 そのキリッとした声は、実験室に響いた。マコトとシゲルもドキッとしてマヤの方
を向いた。同時に、言い合っていたリツコとミサトもマヤの方を向いた。4人に見つ
められて少し困った顔になるマヤ。

「はやくはじめましょうよ・・・先輩」

 少し、遠慮がちにそう言うと、さっとディスプレイに顔を向けた。

「ふぅ・・・そうね・・・マヤの言うとおりだわ・・・」
「ごめんなさい、マヤ。早速はじめましょ・・・」

 一回ため息をついたリツコが、

「初めてちょうだい」

 とだけ言う。

「LCL液、注入します」
「なんか・・・水が入ってきましたけど・・・大丈夫ですよね?」

 シンジが心配そうに言う。

「大丈夫よシンジ君。気にしないで、その水は特別製なのよ!その水が一杯になった
ら息が吸えるようになるから・・・安心して・・・」
「LCL注入完了、第一次接続開始」
「う・・・・気持ち悪い・・・・」

 ゴボッと空気を吐くシンジ。

「それだけはしょうがないわ、我慢してちょうだい」
「はい・・・分かりました」

 続けて起動プログラムを走らせるオペレーター。

「第二次コンタクト準備よし」
「主電源接続」
「精神接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「初号機を通してマギからシンジ君の記憶の移動を開始します」
「移動開始!」

 リツコがその命令を出す。

「ぐ・・・うわぁぁぁぁぁ・・・」

 急に苦しみ出すシンジ。

「シンジ君!どうしたの?」
「何かが・・・頭の中に・・・」
「シンジ君、それはあなたの記憶なのよ」
「そ・・・うなん・・・ですか・・・うぅっ!」

 頭を押さえてうずくまるシンジ。心配そうに見つめるミサト。

「まだ終わらないの?」
「もう少しよ・・・ここでやめたらシンジ君は廃人になってしまうわ」
「はやく・・・はやく・・・」

 まだうずくまっているシンジにミサトが声をかける。

「シンちゃん、もうすぐだから、我慢してね・・・」
「う・・・・う・・・・」

 そして、5分後サルベージは完了した。
 摘出されるエントリープラグ。LCL液が排出され、ハッチが開く。ミサトは待っ
てましたと言わんばかりにプラグ内のシンジに抱きついた。

「ちょっと、ミサトさん。恥ずかしいですよ・・・」
「シンちゃん・・・良かった・・・良かった・・・」

 泣きながらシンジに頬ずりをするミサト。

「恥ずかしいからやめてってミサトさん」
「いいの・・・今はこうさせて・・・」
「まったく・・・ミサトさんは・・・」

 すっかり元に戻ったシンジはミサトのなすがままにしている。

−第四日目(9月18日金曜日)−
「ミサトさぁーん起きて、朝御飯食べて下さいよ」
「ふぁぁーーーぁ・・・シンちゃんオハヨ・・・」

 いつものだらしないミサトさんが姿を現す・・・

「ふぅ・・・」

 シンジはため息をつきながら、そんな平和な一時を忘れないように記憶していた。

 終わり


 後書きのようなもの  最初、1週間ぐらい書くつもりだったのだけど、そこまで書くと、ものすごい長文 になりそうなのでやめました。最後の方は何か尻切れトンボですいません。  前の作品を書いてから、○○シンちゃんシリーズをどんどん思いついてしまって、 自分の小説とか、自作エバ小説とかに手が回らなくなってしまった・・・(苦笑)  そんな訳で、今後とも、OHCHAN、OHCHANをよろしく!!(笑)

記念コメント(狂乱のミサト編)

シンジ:はうう・・・死んでみたり、記憶喪失になってみたり・・・ ミサト:いいじゃない。シンちゃんは主役でいつも出れるんだから・・・・ シンジ:でも、もうちょっといい思いをしても・・・・・ ミサト:贅沢なのよ!!シンジ君は活躍してるからそういう事が言えるの。わかる!? シンジ:活躍・・・・してるかなあ? ミサト:アンタ、アタシを馬鹿にしてるの!? シンジ:ミ、ミサトさん、目が恐い・・・・ ミサト:どうせアタシはもうすぐ30よ!!それにリツコと違って悪役でも出れな いのよ!! シンジ:ミ、ミサトさん、落ち着いて・・・・ ミサト:うっさいんじゃ!!怒りのドライブに一緒に連れていってやる!! シンジ:そ、そればかりは・・・・ ミサト:ははは!!助手席なんてあると思うか!?お前は市中引き回しの刑じゃ!! (引き回しって言うのをちょっと勘違いしている) シンジ:ミ、ミサトさんが壊れた・・・・・
さて、記念投稿第十五弾はOHCHANさんの二つ目の投稿です!! 二つもいただけるなんて、まさに感涙。ううう・・・・今回は拍手なしです。 で、内容なんですが・・・・すんごい記憶喪失ですね。って、むむむ・・・何だか 私も疲れました。書けない書けない。ううう・・・・・ とにかく、長いお話、ありがとうございます。私は長いものが書けない人なので、 それだけで尊敬します。すごいすごい!!それに私と違ってちゃんと考えてるよう なまとまった文章・・・・いいなあ・・・・ふう・・・・ はう、短いですが、これでおしまいです。ごめんなさい。

OHCHANさんへのお便りはこちら: ohchan@po.synapse.or.jp
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