『厭世アスカ、パーフェクトガール』


アタシは生きる事に疲れていた。
生きるという行為、そのものに疲れていた…。

アタシには才能がある。それは間違い無い。
アタシには美しさもある。それも間違い無い。
今まで、それは誇ってきた事だった。自慢だった。
アタシの自慢……。

アタシが心を閉ざしてしまったのは何時からなのだろう。
いえ、閉ざしたのではないわ。
冷めてしまっただけ…。
全てに。
この世の事象全てに。

なにを願うの…。
なにを祈るの…。
なにがしたいの…?
アタシには、やりたい事なんて一つもない。目標なんて無い。
アタシには才能があるのだから。
いえ、違うわ。
アタシは、生きる事に絶望しているだけ。
いつからなの、これは?

……そう、最初は、ママが死んだ時…?
あの時、アタシは驚いたというよりも……残念だった…。
アタシを、アタシの将来を見ずに死んだママ。
自殺だった。
自分で命を絶ったママ。
アタシは、人が自分の意志で生を断ち切る事が出来るんだと、その時知った。
アタシは、選ばれたのに。
人類を守るエリートパイロットに。
それを見ないで死ぬなんて。
呆れるわ……ママ。


アタシが14になった頃。
使徒---アタシ達の敵が、第三新東京市に襲来しているという報が入る。
すぐに転属の命令が来て--アタシは艦隊とともに、日本へ向かった。
アタシだけのエヴァ--弐号機と共に。

そこであいつに出会った。
碇シンジ。
ファーストチルドレンに。
シンジは、二人の取り巻きだか何だか知らない男の子達と一緒にいた。
眼鏡をかけている少年には、熱と輝きがあったけれど、ぬるい瞳をしていた。
ジャージと帽子の方は、底が浅かった。
大した男じゃない……。
私は正直、そう思った。
でも、真ん中にいた少年。
碇シンジ。
あいつの瞳には、底知れない何かが在った。

そして……それがアタシとシンジとの、最初の出会いだった…。

厭世アスカ。

「で、うわさのサードチルドレンはどれ?まさか今の」
アタシは軽い調子で、ミサトに聞く。
聞くまでもない---
確信はあったのだけれど。
「違うわ。あの、真ん中の子よ。」
私は再度、シンジを一瞥する。
興味を引かれている事は、否定しないわ。
けれど、
「ふーん、冴えないわね。」
そう言ってしまう。
実際、見栄えする方でもなかった。
シンジは言われ、むっとしたようだか、アタシには関係無い。
……そう、関係無い。
アタシには、何も関係無い。

「どうだ?碇シンジ君は。」
空母左舷の通路。
潮風は気持ち良い…。
アタシにも、まだ気持ち良いという感情はある。
アタシに問い掛けてきたのは、一緒に日本へと向かう加持さん。
「つまんない子。あんなのが、選ばれたサード・チルドレンだなんて。幻滅だわ。
」
アタシは、あくまでも軽く答える。
でも、言っている事に間違いはないわ。
つまんない子---そう。
あいつは確かにアタシと同じ、チルドレンなのかもしれない。
でも、アタシとは違う。明らかに。
性別じゃないわ。
心に秘めているものよ。
---アタシは冷め切っている。
パイロットを承諾したのも、命懸けの戦闘が、アタシの心を呼び覚ます事に
つながらないかと期待しての事。
アタシは、生きている事に倦怠を感じているのだから---
「しかし、いきなり実戦で彼のシンクロ率は40を軽く超えているぞ。」
試すかのように、加持さんが言う。
シンクロ率……?
ああ、エヴァとの同調を示す数字ね…。
だから何なの、アタシには関係無いわ…。
でも、加持さんにはそう言えない。
何故か---
わかりきっているわ。
彼もまた、アタシと同じ、世の中に冷め切っているから。
気持ちを通じ合わせられる面を持っているのよ。
ひょうひょうとした態度。
大人の男。
加持さんの生きる目的は何?
そしてアタシは何故、生きているの?

その後、アタシはシンジを誘い、弐号機を見せた。
見せ付けた、といった方がいいわね。
明らかにシンジは、興味なさそうだったから。
アタシは言った。
「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。
訓練無しのあなたなんかにいきなりシンクロするのが、そのいい証拠よ。」
……言ってて虚しくなってくるわね。
アタシ自身、どうでもいい事を、こいつに話してどうするの?
いつもの演技、かぶっている仮面にもわざとらしさが見え隠れしていたわ。
「けどこの弐号機は違うわ……これこそ、実戦用に造られた、世界初の、
本物のエヴァンゲリオンなのよ。」
……だから何なの。
アタシは確かに、これに乗れる。アタシの愛機。
でも、だから何。
アタシは何が言いたいの?

そして、爆発が襲う。
敵---使徒のお出ましだった。
アタシにとっては初の実戦。
「ちゃーんす。」
と呟いたのは、決していつもの仮面だけではなかったわ。
今度の敵が、凍り付いたアタシの心を溶かしてくれないか。
この戦いが、アタシに生きる意欲を与えてはくれないか。
そう思った。
そう願った。
けれど---
ホントはアタシには判ってた。
プラグスーツに着替える際、
「きゃぁあぁぁあっ!のぞかないでよっ、エッチ!」
アタシは叫ぶ。
階段の上から、ひょっこり顔を覗かせていたシンジに言った言葉。
「何で男の子ってバカでスケベなのかしら。」
アタシは小さく呟いた。頬が赤い。
何故かしら、アタシの心は冷め切っている筈なのに。
その理由は簡単な事ね。
アタシはシンジに嫉妬していたのよ。
シンジは馬鹿でスケベ……実際はどうあれ、ね。
アタシにそんな意欲はないわ。
アタシには判っていたのよ---
アタシが、何故冷めているのかが。
人は、快楽の追求の為だけに生きている。
突き詰めれば、行動原理は全てそこに行き着く。
無論、快楽を無限解釈しなければならないけれど。
つまり---
アタシは女。
でも、女ではない。
子供を産む気はないわ。
絶対に。
母親になる気はないの。
アタシは美しい。
でも、それ自体に価値はない。
アタシは、天才。
でもそれだけ。
誰かに必要とされたくはない。
アタシが真に欲しているのは、自分で自分を誉める事。
自分で自分を誉めてあげたい。
その為に勉強し---大学にも入った。
日本語だって覚えたわ。
けど。
けれど!
アタシは、誰なの?
何を望んでいるの?
この心は、溶ける事があるの?
………いえ、きっと無いわね。
アタシの心は、凍っているのでなく、死んでいるのだから。
アタシに残されている事は、ただ一つ。
ママと同じように死ぬだけ。
加持さんも、アタシと同じ虚無を持つ以上---いずれ死ぬわね。
でも、それはそれでいい。
今はそれでいいの。
だから、アタシは呟く。
「アスカ……行くわよ。」

シンジに、逃げるなとか言った人たちがいたけど……。
逃げていたのは、きっとアタシね……。


記念コメント(アスカとシンジ編・・・ってこればっかり)

シンジ:アスカ・・・? アスカ:・・・・・ シンジ:・・・・大丈夫? アスカ:・・・・・ シンジ:ねえ、顔色悪いよ。 アスカ:高原!! シンジ:ひっ!! アスカ:高原、アンタはゲーボックのブラックリスト載りよ!! シンジ:ゲーボック!? アスカ:そうよ。アタシの支持団体ね。 シンジ:そ、そんなのあったんだ・・・・ アスカ:知らなかったの!?アンタが名誉会長よ。 シンジ:ぼ、僕が!?い、いつのまに・・・・ アスカ:ゲーボックの精鋭の手にかかれば、文書偽造なんてたやすいことよ。 シンジ:そ、そういう事じゃなくって、どうして僕が・・・? アスカ:そ、それはその・・・・・ シンジ:なんなの?歯切れ悪いなんて、アスカらしくないね。 アスカ:う、うるさいわね!!アンタがアタシのナンバーワンだからよ!! シンジ:ナンバーワン!? アスカ:ここまで言ってまだ分かんないの!? シンジ:う、うん・・・ アスカ:アンタが誰よりも一番好きってことよ!!(そう言ってシンジの顔じゅうに キスを浴びせる) シンジ:う、うわっ、アスカ・・・ アスカ:ありがたく思いなさい!!アタシがキスするのは、後にも先にも、アンタ唯 ひとりなんだから!!
というわけで、記念投稿第十三弾は高原さんの「厭世アスカ様」です!! おめでとう!!ぱちぱちぱち・・・・・ で、私の感想ですが・・・・アスカ様はあんなこと言ってますが、ご安心を。私はな かなか面白く拝見させていただきましたよ。しかし、厭世シンジ君と比べると、こっ ちはまぢで「厭世」ですね。いつ死んでもおかしくなさそうです。いやー、ブラック です。こういうのが嫌いって言う方もいるかもしれませんけど、私は平気です。らぶ らぶじゃなきゃ嫌!!って言う訳でもありませんから。でも、高原さんは結構らぶら ぶが好きそうなのに、自分では書かないのかなあ?結構期待してたりもするんですが。 で、高原さんのことなんですけど、みなさんご存知ですよね。まあ、「ドラえもん大 戦」でおなじみなんですけど、私にとっては、感想メール最大の貢献者です。今のと ころでは、高原さんのメールがダントツなのではないでしょうか?ほんと、いつもい つもありがとうございます。私もそういう事があって、毛色はかなり違うんですけど、 逃亡を投稿させていただきました。するとどんどんほかの方の投稿も増えていって、 私もうれしいです。 高原さんのことを書き出すと止まらないので、今回はこの辺で止めておきます。 高原さん、ありがとうございました!!

高原さんへのお便りはこちら: takahara@mxh.meshnet.or.jp
高原さんのページはここ: エヴァ小説ジャンキーの館
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