〈冷たい方程式、たった一つの冴えた答えはコンセプト〉


 ネルフエヴァ収納ケージ内では、弐号機のみが待機状態のまま。零号機と初
号機は使徒来襲のため、すでに出撃済み。シンクロ率の落ちたアスカのみが
もしものときに備え、弐号機内にて待機を命じられていた。戦闘状況は思わし
くない。使徒もだんだん学習しているらしく、エヴァ二体だけでは苦戦をしい
られている。そんな状況の中、アスカは忸怩たる思いで本部を通して送られて
来るモニター画面を見つめていた。
(・・・なんでシンクロ率があがらないのよ・・・、危ない、レイ! シンジ、
はやくバックアップしなきゃだめよ!)
 なおも苦戦は続いた。そして捨て身の作戦が功をそうして使徒を殲滅するこ
とに成功する。しかし、その代償は零号機の大破。エントリープラグ自体もひ
どい損傷を負った。シンジのレイを気遣う悲痛な声だけが聞こる。
(レイ! ごめん、役に立たなくって・・・。私さえ出て行ければこんなこと
にはならなかったのに。どうせエヴァとシンクロできなくて動かせないのなら、
代わりに私が盾となればよかった・・・。 母さん、本当にわたしっていらな
い人間なのかもしれない。あの時いっしょに母さんと死ねば良かった・・・)
 それは突然起こった。アスカの搭乗したエヴァ弐号機エントリープラグ内を
モニターしていた画面が、突然ブラックアウトしたのである。司令室の中は騒
然となり、原因究明が進められたが遅々として進まない。そして強制的に神経
接続が切断され、エントリープラグが排出される。しかし、LCL内にはアス
カの赤いプラグスーツがあるだけだった・・・。
                   
                *

「まずいわね・・・、アスカはエヴァに取り込まれてしまったってこと?」
「ええ、そうね。モニターがブラックアウトする直前、シンクロ率は400%を
越えていたわ。シンジ君のときと同じね」と、リツコがきわめて事務的な口調
で答える。
「でも、何でシンクロ率低下に苦しんでいたアスカが、そんなに急にエヴァと
シンクロできたの?」
「さあ、それについてはまだよくわかってないわ。ただし、はじめてシンジ君
がエヴァに乗って出撃したとき、もうだめだってときがあったわね。そのあと、
エヴァは自らを守るためかシンジ君を守るためかはわからないけど自発的に
行動を起こしたでしょ。あのときと同じなのかもしれない。シンジ君のときは
外的要因、アスカのときは自己の内的要因が原因で、という違いがあるだけ
で」
「つまり、これ以上放っておいたらアスカがだめになるということを弐号機が
察知して、自らの中に取り込んだってことかしら」
「ええ、それにアスカは幼いときに両親とあんなことがあって別れたでしょ。
エヴァがすべてなの。そのエヴァに拒絶されるってことはとてもつらいことな
のよ。」
「体内回帰願望?」
「それもあるかもしれないわね」
「・・・」
 そしてリツコはレイの容体を診るために司令室をあとにしたのである。

                *

「ミサトさん!」
 シンジがプラグスーツを着けたまま、司令室に飛び込んできた。急いできた
ためか、まだLCLが髪の毛の端からしたたり落ちている。
「ああ、シンジ君・・・」
 ミサトにはシンシにどのように言葉をかけてよいかわからなかった。シンジ
の方から先に口を開く。
「アスカが消えたって本当なんですか?」
「ええ、本当よ」ごまかしてもいずればれるのだから包み隠さず本当のことを
ミサトは告げた。しかし、やはりそれはつらいこと。
「ぼくのときみたいにサルベージできますよね?」
 シンシの声は震えている。
「わからないわ、リツコに頼るしかないの」ミサトの答える声もつらそうであ
る。
「綾波は、綾波はどうなんですか?」さらに声は小さくなっていた。
「それも今、リツコがいっているわ、じきに報告が入るでしょうけど」
 まるでそれを待っていたかのように、リツコからの報告が入ってきた。
「ミサト、それにシンジ君もいるのね。レイの容体だけど思わしくはないわ。
現場復帰は当分先になりそうよ」
 それを聞いたシンジはただ立ち尽くすばかりであった・・・。

                                *

  その後、司令室に戻ってきたリツコにミサトはかけより、問いただす。
「リツコ、レイの容体はどうなの? アスカはサルベージできる?」
「いっぺんに二つも聞かないでよ。片方だけでも頭が痛い問題なんだから」
「ごめん・・・」
「じゃあ、簡単なほうから言うわよ。レイの容体なんだけれど、相当ひどいわ。
傷の具合もなんだけれど、この頃治るはやさも遅くなってきているのに気がつ
かなかった?」
「そう言われてみればそうかも・・・」
「どうもクローン技術にまだ問題があったらしいのよ。致死遺伝子が除去しき
れていなくて、今ごろになってそれが発現してきているらしいの。それでも前
は代わりのからだがあったからよかったけれど・・・」
「そんな・・・」
 そう、そのシステムはもはや存在していない。
「で、アスカの方はこれからの調査の結果しだいってところね」
 その答えにミサトは返す言葉もなかった・・・。

                *

 その頃、シンジはレイを見舞いに病室を訪れていた。いつもそうだが、病院
というのは好きになれない。静まりかえったところなどは、死を待つためだけ
の場所というふうにしか思えないからだっだ。そうしているうちにもレイが収
容された病室の前につき、声をかけつつ足を踏みいれた。
「綾波・・・、具合はどう?」
 そう言ってはみたものの、ベットに横たわっている姿は五体満足であるとい
うことを除けばとてもいいとは言い難い。
「ええ、まだ生きているみたい」そう答えるだけでもつらそうである。
「ごめん、うまく立ち回れなくて・・・」シンジはうつむいたまま声を絞り出
す。
「そんなことない、碇君は精一杯私のことを守ってくれたわ」
 そう言われると返す言葉もなかった。むしろ守られていたのは自分のほうな
のに・・・。
 ベッドの横に立ちつくしているシンジの手をレイは取り、さらに言葉を続け
る。
「私は碇君のことを守るっていったでしょ、いつまでもそばにいたいもの」
 そう言って握る手に力を込めた。しかし、その力はとても弱く、あらためて
シンジは自分の不甲斐なさを思い知らされる。
「綾波・・・、ごめん・・・」
 シンジにはレイにかける言葉など、もうありはしなかった。

                                *

  ここは司令室。リツコとミサトが今後の処理について対策を協議していた。
「何か手はないの、リツコ?」
「あるわ、ひとつだけ」
「あるの!」
「ええ、でも・・・」
「『でも』ってどうしたのよ、いつものリツコらしくないわね。あるなら早く
教えてよ」
「・・・なら言うけど辛いわよ、ミサト」
「・・・」ミサトは口をつぐんでいる。
「レイをベースとしてアスカをサルベージするのよ」
「どういうこと? もっと詳しく説明してちょうだい」
「シンジ君のときのサルベージをおぼえているわね。アスカの場合はあの時よ
りもっとたちが悪いわ。自らが望んだぶんだけね。だからアスカをこの世界に
引き戻すためには、この世界にアンカーとなるようなものが必要となるの。つ
まりエヴァとシンクロできるものがね」
「なぜレイなの? シンクロさせるのに同性者である必要があるの? それ
よりかシンジ君のほうがアスカとは心をかよわせやすいんじゃない?」
 こんどはリツコの方が押し黙る番だった。そして少し間を置いてから、よう
やっと口を開いた。
「違うのよ、ミサト。エントリープラグ内の人間をベースにってことは、その
人間の存在自体を一度素粒子の段階まで分解させ、あらためてその上にアスカ
の情報を上書きするってことなの。だからエントリープラグ内の者はこの世か
ら存在しなくなるのよ・・・」
「そんな・・・」あまりのことに絶句するミサトだった。
「それしかないの」普段は冷静そのものといったリツコであるが、このときば
かりは努めて冷静さを装わねばならなかった。
「でも、なぜレイが」
「作戦部長としてはわかっているはずよ、ミサト。エヴァとシンクロできる者
はごく限られているし、レイはもう長くは持たない。代わりのからだはないの。
それに使徒がいつまた来るかわからないわ。現在、唯一のエヴァのパイロット
としてのシンジ君の存在は何ものにもましてかえがたいのよ。そしてこのまま
だと、本当にただひとりのパイロットになってしまうわ」
「つまり、このまま手をこまねいていて二兎を失うよりは片方に死刑宣告をし
て、まだ可能性のある一つでも助ける、というわけね」
「そうよ。それでも必ずアスカが立ち直ってくれるという保証はないのだけれ
どもね」
「つらいわね・・・」
「でも、それしか私たちに残された道はないのよ・・・」
 二人の間に沈黙が訪れる。
「シンジ君には私から言いましょうか?」リツコはミサトの心中を思いやって
声をかけた。
「いえ、いいわ。それは作戦部長である私の仕事だから・・・」
 こうしてミサトはリツコのもとを去ったのである。

                                *

 シンジはすでにミサトのマンションに戻ってきていた。
「シンジ君、話があるの、いい?」
 ミサトはついにシンジに打ち明けることにする。
「何です、ミサトさん?」
 そう気安く応じるシンジだが、ミサトのいつになく真剣な顔つきを見て、心
なしか声がうわずっていた。
 そしてミサトは、レイとアスカのことについて話し始めたのだった・・・。

                *

 数日後、シンジはレイの病室まで来ていた。シンジ自らの口からレイに告げ
に来たのである。
「綾波、いい?」 そう言いながら病室に足を踏みいれる。
「どうぞ」 そう答えるレイの顔色はすぐれない。こころなしか以前よりやつ
れたようにも見受けられる。
「どう、具合は?」
「まあまあってところかしら」
 無理に笑いを作っているのが痛々しい。
「アスカのほうはどうなの?」
 前に見舞いに来たときに、もうアスカの消えたことは話してある。
「実はそのことで今日は綾波と話にきたんだ…」
 そう言ってシンジはリツコの計画を話した。話し終えたとたん、シンジの目
からは涙が止めどもなくあふれ出す。
「やっぱりそうだったの」
「えっ?」
 レイの思いがけもない言葉にシンシは思わず聞き返した。
「なんとなくわかっていたの、作られたとはいっても自分のからだだもの」
「ごめん! 僕だってこんなことは信じたくないよ! でも、でも・・・」
「ううん、ありがとう。やっぱり碇君ってやさしいのね。他の人が嫌がること
を引き受けるなんて」
「そんなんじゃないよ! 綾波が・・・、綾波がいなくなっちゃうだなんて・・・、
そんなの・・・そんなの僕には耐えられない・・・」
「でも、碇君にはみんなを守る義務があるんでしょ。今の私ではとうてい役に
立たないし、いずれはいなくなる。アスカもいないわ。あなたしかエヴァの
パイロットはいないのよ。本当にあなたはひとりぼっちになってしまう。もう
先のみえている私には、これが一番の選択なのかもしれないわ・・・」
「そんな、自分をいらない人間なんかのように言うなよ! 綾波は、綾波はた
った一人の・・・」
 そこまで言ってシンジは声をつまらせた。
「うれしいわ、碇君。そんなふうに私のことを思ってくれたのはあなただけだ
った・・・」
 そう言ってレイは目を閉じる。
 シンジはただ肩を震わせて、泣き続けるばかりだったのである。

                *

 再びここはネルフエヴァンゲリオン弐号機収納ケージ。エントリープラグの
中にはレイが生まれたときのままの姿で収まっている。
「それではレイ、いくわよ。何か言い残すことはない?」
 リツコは努めて平静さを装いながら告げる。しかし、その手はこぎざみに震
えていた。
 そこに居合わす者はリツコを除いて全員下を向き、レイのことを正視できな
い。
「一つあります、赤木博士」
「何、レイ?」
「碇君と二人だけで話をさせてください」
「!」
 シンジは驚いた。
「いいわ。シンジ君、あちらの部屋に行ってモニター画面に向かって話しなさ
い。他の者が聞けないようにしておくから」
 そうリツコは言い、部屋のある方を指し示す。
 シンジは急いでその部屋に向かう。着いてみるともうすでにモニターにはエ
ントリープラグ内のレイが映し出されていた。
「碇君・・・」
 シンジはただ涙を流すばかりだった。さらにレイが言葉を続ける。
「お別れね。一つお願いがあるの」
「・・・」シンジにはかける言葉がない。
「強制シンクロ作動のスイッチは碇君にいれて欲しいの」
「えっ・・・」
「きいてくれる?」
「でも、どうして・・・」
「さいごまで碇君と一緒にいたいから・・・」
 レイは言葉の一つ一つをかみしめるようにして、その口から押し出した。
「わかった・・・、僕が押すよ」
「ありがとう」
 そういってレイは微笑んだ。この世との別れ、愛するものとの別れとは思え
ないほどそれは澄んだものだった。
「それじゃあ、お願いね」
 そう言ってレイは目を閉じた。

                *

 シンジは司令室に戻って来た。そしてリツコの姿を見つけると毅然として言
った。
「リツコさん、強制シンクロ作動スイッチは僕に入れさせてください!」
「そう、いいわよ」
 そうあっさりとリツコは言い、作動ボタンを指し示す。
「本当にいいの?」とは、ミサト。
「ええ、それが綾波との約束ですから」
 そしてシンジはみんなの視線を痛いほど浴びる中、そのボタンに歩み寄る。
「綾波、さようなら・・・」
 目を閉じたレイの姿を見据えたまま、シンジはボタンを押し込んだ。
 一瞬ののち、モニター画面はブラックアウトする。そのあと強制的に神経接
続が切断され、エントリー・プラグが排出された。
 そして中には、何も身にまとっていない生まれたままの姿のアスカだけが取
り残されていたのである。

                                *

 回収されたアスカは病室に収容された。そしてしばらくののち、目覚めるこ
ととなった。
 目覚めたアスカの以前とひとつ違っているところ、それは瞳の色。あの青い
瞳ではなくレイの真紅の瞳。しかし、それも時がたつにつれすみれ色に変わり、
そしてもとの青へ。まるでそれは、レイがシンジとの別れを惜しんでいるかの
ようだった。
「シンジ・・・」と、アスカは口を開いた。「今、レイが別れを告げていった
わ。でも悲しくなんかないって。だって『私は消えるのではなくてあなたとい
っしょになるのよ』って」
「気がついたかい、アスカ。そうだよ、綾波は自分の存在と引き換えにアスカ
を呼び戻したんだ」
「ええ、エヴァの中でレイとあったわ。私のからだはもう長くは持たない。な
らばあなたの情報を私のからだに上書きをすることで、双方ともこの世界に生
き続けられるようにしようって。ともに愛した人のそばにいて力となるために。
エヴァとシンクロできた私たちならそれが可能だわってね」
「そうさ。綾波は笑っていたよ。これでアスカもへんな肩ひじ張らなくてもよ
くなるから、少しはおとなしくなるかしらねって」
「ばかよ・・・。そんな自分が損する役回り引き受けちゃうなんて・・・。シ
ンジをものにするチャンスじゃない・・・。心細いからずっとそばにいてほし
いとかなんとかいっちゃってさ・・・。ほんとにさいごまで優等生なんだか
ら・・・」そんな口をききながらもアスカの目には涙が光っていた。
「でも、綾波はアスカの中に生きているんだ。それに、今まで知らなかったさ
まざまな感情や人の思いをこれでわかりあえるって喜んでもいたよ。そんな感
じはしないかい?」
「ええ、こうしてあなたのそばにいることができる。必要とされているんだっ
てことが実感できる。そういったことをわかちあえるって気持ちで胸がいっぱ
いなの。それにレイがあなたから受けた思いも私の受けたものも、いまでは共
有の思い出として誇らしく思うわ。それほどまでに思っていてくれたのかって
ね」
 シンジはちょっと悲しげな顔をしながらも笑って見せる。
「そうさ、綾波はアスカをはげましているんだ。もう一人じゃない。自分を必
要としてくれる人がいる。その人のためにこたえようってね」
 アスカもにこりとほほ笑み返す。
「そうね。せっかくレイがくれた命だもの。大事にしなくちゃ罰があたるわ」
「それでこそアスカだよ。早く元気になってトウジやケンスケ、洞木さんやミ
サトさんを安心させなきゃ」
「で、あんたはどうなの?」
「へっ? 」
「『へっ』じゃないわよ。私が戻ってきて、そのうえレイもいない。もう迷わ
ないわよね?」
「なにが?」
「この期におよんで、まだそんなことまで私に言わせる気?」
「だから何がだよ?」あくまでもぼけるシンジ。
「うんもう、鈍感!!、バカシンジ!!、サイテー!!」
電光石火のはやわざでアスカの右手が宙を舞い、そのままシーツをかぶってふ
て寝した。
・・・やっぱりアスカはアスカだな・・・
 シンジは張られた頬をさすりながらもにっこり笑った。しかし、前ほどの強
烈さはないことにも気づいてはいる。
・・・さては綾波、少しは手加減するようにとでも忠告してくれたのか
い?・・・
 そうシンジには思えたのである。


                               おわり


 これから後の話はハッピーエンド(らしきもの)にするために、無理矢理つ
け足したものです。そうじゃないとラブコメの続きが成り立たないし、あまり
にもレイがかわいそうでしたので。

                               追加章

 それからしばらくして後、ネルフ内のリツコの私室。今はミサトと二人っき
り。
「リツコ、一つ聞きたいんだけど、いい?」
「ええ、何?」書類に目を通し、コーヒーを口にしながらもリツコはミサトに
返事をする。
「レイの上にアスカを上書きしたわよね? すると、アスカの中にレイの意識
って残っているのかしら?」
「さあ、それはこれからのアスカの言動をもとに調べるしかないわね。たとえ
残っているにしても多重人格の形で心の奥底に封印された形で残っているの
か、分裂症患者のような形で顕在化しているのか興味のあるところだわ」
「そんな、まるで実験動物扱いじゃないの」
「ごめんなさい。でも、作戦部長にとっては都合のいい展開もありうるかも
よ」
「どういうこと?」
「もしかしたら、アスカの人格とレイの人格に折り合いがついて、必要なとき
にスイッチできるなんてこともね。それとも双方が融合して、第三の人格を形
成するのかもしれないけど」
「それがどうして作戦の都合上有利となるの?」
「レイは零号機、初号機ともにシンクロできたでしょ。アスカは弐号機だけだ
ったけど」
 そこまで言われてミサトも合点がいった。
「つまり、どのエヴァともシンクロ可能というわけね・・・」
「ええ、シンジ君は初号機に特化して最高の性能を引き出させることができる
けど、他の号機では無理よ。多少性能が落ちるけれど、複数の号機を動かせる
ということは十分メリットがあるわ。パイロットが二人しかいないという条件
の下ではね。ダミープラグを使うよりかはましのはずよ」
「作戦の幅がすこしは出るってことかしら?」
「メンテナンスの方でもね。少なくとも一体は十分整備しておくことができる
わ。徹夜続きがこう多くちゃ身が持たないわよ」
「そうね、感謝しているわ・・・」
 話を切り上げて、ミサトが部屋を出て行こうとしたとき、リツコが呼び止め
た。
「ちょっと、ミサト。一つまだ言ってなかったことがあるんだけれど」
「何?」
「まだ、はっきりとしたわけじゃないんだけれどね。レイを呼び戻せるんじゃ
ないかって思っているのよ」
「なんですって! それほんと?」
「ええ、レイのからだにアスカの情報を上書きすることで、アスカはサルベー
ジされて、レイは消えたわよね」
「そのとおりだわ」
「でも、もともとのアスカのからだの情報は弐号機の中に取り込まれたままの
はずよ。いわば魂のない肉体だけならサルベージ作業も楽だと思うの。その上
でレイの意識をはじめとする情報を今のアスカから分離し、書き直すことがで
きれば・・・。それにレイのもともと持っていた致死遺伝子も、アスカのがベ
ースとなればマスキングされる可能性もあるわ」
「なんか、人間業とは思えないわね・・・」
「そうでしょ。言ってる私がまだ実感がないんだから。でも、十分進んだ科学
は魔法と区別がつかなくなるって、昔の人も言っていることだし」
「無責任な話ね、ほんとに大丈夫なの?」
「ええ、多分ね。でも、これは二人がエヴァとシンクロできるからこそ可能な
のよ。誰でも可能というわけじゃないわ」
 ミサトはにやっと笑って、リツコを横目で見る。
「リツコ、それってはじめからわかっていたの? だからあんなに落ち着いて
いられたのね」
「いいえ、そんなに昔じゃないわ。レイがアスカと入れかわる前の日ぐらいよ。
でも、さすがにそのころは自信が持てなくて、心配だったんだけれどね」
「ふうーん。天才科学者赤木リツコ様とあろうお方でも、ひびることもあるの
ね」
「よしてよ、私だって人間なのよ。死刑執行のボタンなんて押したくもない
わ」
 そういって二人は顔を見合わせ笑ったのだった。
 なお、レイがサルベージされたのはまた後日、別の話である。

                          ほんとうにおしまい 


記念コメント(大人の女編)

リツコ:noikeさん・・・かしら?あなたは見る目があるわね。 ミサト:何一人でぶつぶつ言ってんのよ、リツコ? リツコ:ミサトには関係のないことよ。 ミサト:何よ、それ!?ちょっと気に触る言い方するじゃないの!? リツコ:所詮、嫌われ者の居場所はないのよね・・・・ ミサト:どういう事よ!?アタシが嫌われてるとでもいうの!? リツコ:まあ、そういう事ね。少なくとも私よりは好かれてないわ。 ミサト:ど、どういう根拠があるのよ!? リツコ:このコメント、私が登場するようにって言うnoikeさんの依頼があった そうよ。 ミサト:く・・・・アタシにだってそういうのがあるはずよ!! リツコ:無いわね。残念だけど。 ミサト:どうしてなの!?アタシだって人気あるはずなのに!? リツコ:ま、あきらめなさい。あがいたってどうにもならないわ。 ミサト:・・・・そ、そう言えばリツコ、見たわよ、あれ!! リツコ:な、なによ、見たって!? ミサト:・・・・へぼレイ。 リツコ:・・・・・・見たの? ミサト:ええ、しっかりと。リツコもああいうことしてたのね。ちょっと付き 合いを改めさせてもらわなくっちゃ・・・・ リツコ:そ、それは高嶋の妄想よ!!私はそんなんじゃ・・・・ ミサト:でも、黄金パターンらしいじゃない。 リツコ:う・・・・・ ミサト:やっぱりそうだったんだ。へえ・・・・ リツコ:ちょ、ちょっと待ちなさい、ミサト!!まだ話は終わってないわよ!! ミサト:シンちゃ〜ん、リツコってねえ・・・・・
さてさて、記念投稿第十一弾はnoikeさんのSSです!!ほんと、みなさんたく さんの投稿、ありがとうございます!!いやー、やっぱりめでたい。 でわでわ早速拍手、ぱちぱちぱち・・・・・・ というわけで、私の感想ですが・・・・消えるアスカ、自らを犠牲にするレイ。 ううむ、愛しかありませんね。アスカもレイも互いに争わず、まさに楽園です。 こういうのを読むと、ほんと、心が洗われますね。まあ、かくしEVAは妥協を 許さぬとことん追求型ですから、もう比較はしませんが。 でも、やっぱりいいなあ・・・・・ううう・・・・ noikeさんによると、この話は泥沼の三角関係を解消するためのアイデアという ことだそうです。で、設定は、リツコさんがダミープラグを壊した、その後です ね。むむう・・・こういう風に三角関係を何とかするっていうのも、結構勇気が 要るなあ・・・・まあ、短編だから出来るということで、私のところでは勘弁し てもらいましょう。 で、話は変わってnoikeさんですが、私もよく知りません。でも、こういう風に 投稿してくださるって言うことは、かくしEVAを読んでいるのでしょう。 感想のメールうんぬんはともかく、ほんと、うれしいです。ありがとうございま した。

noikeさんへのお便りはこちら: noike@fa2.so-net.or.jp
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