僕はアスカの全てを受け止める覚悟があったんだ。
アスカの過去も未来も現在も・・・共に分かち合って欲しかった。
僕はアスカが誰よりも好きだった。愛していたんだ
今までありがとう。さようなら、アスカ。

[新世紀エヴァンゲリオン−非連動小説−誤解」
・・・ちょっと遅れたかな、アスカもう来てるかな? 店を見渡してもアスカはいない。時計を見ると12:50だった。 なんだ、まだ約束の時間じゃなかったんだ。よかった。 ここは喫茶「Nexus] 明るい店内は土曜日ということもあって、家族連れやカップルが目立つ。 「え、と、ザッハートルテとオレンジペコ・・・いやキーマンにします」 「はい、ザッハートルテとキーマンですね、かしこまりました」 この組み合わせもなんか久しぶりだな。カカオベースの台とビターチョコレートだからおいしいんだよね。 アスカも結構気に入っていた様だし。 「お待たせしました」 僕の前に厚手の保温カバーのかかった陶器のポット、茶漉しがセットされたティーカップ、ブラウンシュガー ミルクポット、そして、ザッハートルテがある。 「おかわりのお湯が必要でしたら、いつでもお呼びください。では、ごゆっくりどうぞ」 うーん、いつ来ても気持ちのいい店だよな。 まあ、僕が言うのもなんだけど、アルバイトのお姉さん達の表情でわかるよ。自信と誇りを持ってるって。 紅茶の茶葉が開き切るには少し時間がかかる、僕は最初の一杯目の香りを楽しむ為に我慢した。 ゆすったら、早く開くかな?・・・いや駄目だ、微妙な香りが飛んでしまうし渋味が増える。 紅茶は一杯めが全てなんだ、ここで失敗は許されない。 耐熱ポットでグラグラ煮立たせるなんて邪道だよ、茶葉と時間を省こうなんて。 うう、ケーキも口に入れたい。いや、駄目だ・・・なんて精神に悪い時間なんだ。 そうこうしているうちに二分経過した。僕は意を決して一杯めをカップに注ぐ。 繊細な香りが鼻をくすぐる。 うーん、最高だ。 再びポットにカバーをかけて、紅茶を口に含む。 ・・・ああ、深緑の山を朝霧が立ち昇っていく、そんな光景が脳裏に浮かぶ。 すばらしい、この味わいは感動に値する。もはや芸術だ。 「碇君、久しぶりですね」 「店長、すばらしい紅茶ですね。感動しました。」 「それは良かった。判ってもらえる人がいる限り続けられそうだ」 「え?それはどういう意味です?」 「まあ、実は紅茶に関しては完全に赤字なんだ。君も知ってる通り、うちの店では1ポット1人前で 三杯が基準なんだ。それが出来る最高級の茶葉だからね。やり方を変えようと思ってたんだ」 「なるほど。でも採算を合わせればいいのでは?」 「そうなると、君の小遣いが厳しくなるよ。いいのかな?」 「う、それは困ります。・・・お気遣いありがとうございます」 「君たちのグループは味が判る人ばっかりだから、うれしいよ。ゆっくりしていって」 店長はにこにこしながら厨房の方へ戻って行った。 ・・・それにしても、アスカはまだ来ない。どうしたのかな? 僕はトルテに合わせて少し甘いめにした3杯目の紅茶を口に運びながらつぶやいた。 きっと、忙しくて出られないんだ。僕との約束を忘れる訳ないし。 それとも、僕をわざとじらして楽しんでいるのかな?まさか、十分ありえるけどアスカはそんな娘じゃない。 きっと遅刻を気にして焦っているだろう・・ 最近スケジュールが合わないのでアスカと会話らしい会話がない。アスカにも疲れが見える。 アスカはネルフの設備を借りて論文を作成しているらしく、シンクロテストやトレーニング以外でもネルフ本部に いる事がある。ミサトさんから聞いたスケジュールだと研究ブロックは今日の午後からネットワークインフラが 工事の為に使えないと聞いている。だからアスカは今日の午後から明日の午前中は休みになる。 僕は今日の午後の訓練を明日の午後にまわしてもらったので、今日一日が休みになる。 まあ、明日はずっと本部か・・・。だから、アスカと一緒にゆっくり出来るのは今日の午後だけである。 そこで僕は今朝出かける前のアスカに声をかけたのである。 「ねえ、アスカ、急で悪いけど。今日のお昼過ぎから買い物に付き合って欲しいんだけど」 「え?、いいわよ、じゃあ、13:00に[Nexus]ね」 ふう、13:40、まあ、まだ時間もあるから今日の段取りでも考えておこうか・・ 僕の手元には遊園地のチケットが2枚ある。 この頃、アスカも遊びに行ってないのできっとアスカは喜んでくれるだろう。 買い物も有るけど、微々たるものだし。両方楽しめるんだからいいよね、アスカ。 僕はアスカの喜ぶ顔を見たくて待っている
僕は遅く帰って来たアスカの顔を見るなり怒鳴ってしまった。 アスカは疲れているのか力の無い声で反論するが僕はそんなアスカの様子を知りながら止められなかった。 「ひどいよ、アスカ!!!約束破るなんて!!!」 なによ、急に。アタシの顔を見るなりなんなのよ。ちょっと疲れてんだけどなぁ。それに約束ってなによ。 「あ?何いってんの?約束なんてしてないわよ」 え?どうゆう事?アスカが僕との約束を忘れていた?嘘だろ? 「約束したじゃないか!!ほら、今朝に!!!」 うーん、そうっだったかなぁ?出掛ける前って今日のプランで頭が一杯だったしなぁ。 「あ、・・・そうだっけ?」 ・・・なんだよアスカ。本当に忘れていたんだ。そうなんだ、アスカにとって僕の約束なんてどうでもいい事だったんだ。 僕はアスカが今朝の待ち合わせの約束を忘れていた事で、アスカに裏切られたような気がして頭に血が登った。 「・・・忘れてたんだ。アスカは僕の事なんてどうでも良かったんだ」 あー?なによ、アタシだって人間なんだから、うっかり忘れる事だってあるわよ。それを責めるつもり? 「どうでもいいなんて思ってないわよ!!」 アスカが疲れているのは解る。でも僕はそんなアスカを励ます為だったんだ。 今朝急に言ったのも僕だし、ただの買い物の様な言い回しをしたのも僕だよ。 ただ少しびっくりさせたほうが互いにもっと楽しくなるじゃないか。 それは僕の自分勝手な事かもしれないけど全てはアスカの為じゃないか。 そんな僕の気持をなんだよ。忘れてただなんて。 「だって、そうじゃないか!!!約束なんかどうでもいいから忘れてたんだろ!!!」 ん、もう!!!!アタシだっていい加減怒るわよ。 『アスカも研究で疲れているんだから無理ないか』って笑って言えないの?小さいわね!!! 「忘れてた事は謝るわよ、なによ!!!男のくせに小さい事をぐたぐたと!!!」 小さい事だって?僕との約束なんてアスカにとって取るに足らない小さい事だったんだ。 なんだよずっと待ってたなんて馬鹿みたいじゃないか 「小さくなんか無いよ!!僕はずっと待っていたんだ!!!」 あーーーーーもう!!!なんでこうなるのよ!!!連絡とる事位子どもでも出来るでしょうが!!! 黙って待ってるなんてシンジらしいけど、違うでしょ!!! 「だったら何で電話しないのよ!!!、携帯電話があるでしょ!」 電話で呼び出すなんて、思いもよらなかったけど。でも気づいたとしても多分電話しないだろうな。 だって、アスカの研究を電話で邪魔するなんて僕にはとても出来ないよ。 「僕はアスカの研究の邪魔したくなかったし、遅刻を気にして焦っていると思ってたんだ」 ったく、解って無いわね。そんな基本的な事も解からないの? 「連絡入った位で研究の妨害にならないわよ!!電話で確認位出来るでしょう?」 それはそうだけど、僕は僕なりにアスカを気遣っているのに!!!なんだよ!!! 「だって、僕は電話で確認するなんてアスカを疑う様な事はしたくないよ」 なんで連絡取る事が疑う事になるわけぇ?呆れてものも言えないわ。 「僕はアスカと違って、アスカを信用してたんだ。きっと遅刻しても来てくれるって。なんだよ、アスカは僕を 信用してないんだ、あーあ、そうなんだ、もう信用できないよ」 約束を一回すっぽかした位でそうなるわけぇ?信じらんない!!! 信用出来るとか出来ないとかの問題じゃないでしょ? そんな事位でアタシへ信用が揺らぐというの?シンジはアタシの事を何だと思ってるのよ!!! 「馬鹿シンジ!」 なんで僕が馬鹿呼ばわりされるんだ?約束を破ったのはアスカじゃないか。アスカが悪いんだろ? それをなんだよ、開き直って!!! 「どうせ、僕は馬鹿ですよ、アスカみたいに完璧じゃないもん。カスのような僕となんか付き合えないよな! アスカはどうせ僕を便利な小間使いとしか思ってないんだろ?開き直って説教なんてそんなの詭弁だよ!!!」 うわぁ仕舞った少し言い過ぎたかな?でもアスカが悪いんだから仕方ないよ。 な、なんですって?なんでそんな事を言うのよ!!!シンジがカスならそのシンジを好きなアタシは何なのよ。 いじけるのは勝手だけど少しはアタシの気持に気づいていてもいいでしょ? アタシはどんなに忙しくてもシンジをそんな風に思った事なんか一度もないわよ!!! シンジがアタシのシンジへの思いをそんな風に思っていたなんて・・・・ 「最っっっっっっっっっっっっ低!!!!!」 ばしい!!、シンジの左頬に紅葉が現れる。アスカはリビングから走り去って行った。 「なんだよ、アスカが悪いんじゃないか・・・・」 シンジのそんな呟きはアスカの耳には届かなかった。 ・・・なによ!!馬鹿シンジ!!!、アタシの事、何も解ってないじゃない。 結局シンジもアタシを見てないのよ、アタシの表面だけを見てるのよ。 シンジまで・・・シンジまでアタシを必要としないのね。 ミサトはアタシをただのパイロットだと思ってるし、ファーストには碇司令がべったりついてる・・ なんだ、結局アタシってファースト以下なんだ。エヴァパイロットだから必要だったのよ。 しかも、シンジとファーストの戦技訓練終了までの間に合わせ。 そりゃあ、アタシはアメリカでトレーニング受けたけど・・・アタシのトレーニングメニューなんて殆ど無いじゃない。 アタシって何?天才だ、エリートだって乗せられて結局操られていただけの人形じゃない。 なんで、アタシばっかりこんな目に会うのよ・・・もう、いや! 嫌い!シンジもミサトもファーストも・・・大っ嫌い!! いや!!、もう、いや!!みんないや!!何もかもいや!!!!
「それで、どういう事なの?」 ミサトさんが腕を組んで僕に問いかける。さほど怒ってる様子はなさそうに思えた。 でも、ミサトさんが真剣な顔で問い詰めるのは事態の収集を最優先しているからで、決して軽く考えているのでは 無いと言う事だ。 「いや、その、夕べ僕とアスカが口論しちゃって・・・」 僕は嘘をつく必要もないし、勿論アスカの行方が気がかりである。ミサトさんもそのことは十分承知していると思う。 でも、これといった理由は夕べの僕との口論以外は何も浮かばないのは事実だ。 「それだけで、荷物を纏めて出て行ったの?アスカが?」 今までもこれくらいの口論なんかしょちゅうあったよ。なんで今回に限ってこんな事になるのか僕には解らないよ。 「それは・・・でも、そうとしか思えないんですけど」 「いい?、アスカは退院してから時間が経ったとは言え、まだ不安定なのよ?一度壊れた心は目に見えない 傷としてずっと残ってるのよ、判ってるの?アスカを守れるのはあなたしかいないのよ」 でも、そんな事言われたって僕には何でアスカが家を出たのか理解出来ないんだ。 「・・・」 「ふう、でアスカの行きそうな場所は?」 「・・・・」 「しんちゃん!!!!!」 「は、はい・・・」 「聞いてる?アスカの行きそうな場所は?」 「多分、洞木さんの所だと思います」 「ああ、あの子ね。シンちゃん、連絡とってみて。アタシはリツコと相談するわ」 「はい」 ミサトさんはリツコさんと難しい顔をして話込んでいる。僕は洞木さんの所へ電話をする。 洞木さんとアスカは親友同士で、僕の知らないアスカの女の子の一面を知っていると思う。 だから、こんな時は何かアドバイスをしてくれるかもしれない。 前に家を出た時のアスカは洞木さんの家にいたんだ、その時はずっと家でゲームをやってたらしいけど・・・ 今回もきっと洞木さんの所にいて僕が謝りに来るのを待ってるんだ。 「はい、洞木です」 「あ、あの、碇ですけど」 「い、碇くん!!どうゆうこと!!!アスカが私に『さよなら』って電話してきたのよ!!」 「え?それはいつ!!!」 「ついさっきよ、何があったの?アスカに」 「いや、その、夕べ僕とアスカが口論しちゃって・・・」 「それだけ?たったそれだけで?」 「あ、いや、その、僕にも何がなんだか・・・」 「口論ってアスカに何を言ったのよ!!!!」 「一寸した弾みだったんだけど・・・・」 僕は夕べの口論の内容を掻い摘んで話した。 「見損なったわ、碇君がそんな人だったなんて、結局アスカの事判ってなかったのよ、だから平気で アスカを傷つける事を言ったのね!!」 「ご、ごめん」 「私に謝ってもしょうがないでしょ!!、アスカを探すのよ!!!最悪な事にならないうちに!!!」 「さ、最悪って」 「自殺するかも知れないでしょ!!!碇君って馬鹿?」 「じ、自殺!!、アスカが自殺!!、そ、そんな・・、判った、すぐに行く!!!」 僕は電話を切ると玄関に向かおうとした。 「待って、しんちゃん、どこに行くの?」 「え?アスカの所だよ!!!」 「アスカはどこにいるの?」 「わ、わからないよ」 「無闇に走り回っても無駄よ」 「そ、それはそうだけど・・・アスカが危ないんだ」 「アスカを信じてる?」 「もちろん、信じてます」 「だったら、アスカは絶対に自殺しないって信じて。生きる気力を無くしても自殺はしないわ」 確かにミサトさんの言う通りだと思う、でも、今回は・・・ 「で、でも、今回は部屋を片づけて別れの電話を入れているんだ」 「自殺するつもりなら、遺書があるわ。それだけの時間はあったでしょうから」 PiPiPi、ミサトの携帯電話が鳴る。 「はい、葛城・・・アスカ!、今どこにいるの?・・ちょ、ちょっと待ちなさい!!アスカ!アスカ!!」 「アスカは何て!!!」 「あの子、ドイツに帰る気だわ、部屋の荷物を送れって。自殺の線は完全に消えたからひとまず安心ね」 「じゃあ、僕が連れ戻してきます!!!」 僕は直ぐにマンションを飛び出して空港に向かった。 「あ、シンちゃん!!・・・っとに馬鹿ねぇ・・・・」 まあ、シンちゃんが行かなきゃアスカは帰って来ないだろうからいいけど・・ ミサトがそう呟くより先にシンジはマンションを飛び出して行った。
関西人と思しきタクシー運転手が僕に話かける。 「おー、兄ちゃん、えろー急いでまんな」 「はい、僕の人生がかかっているんです」 「なんや、ごっついことゆーて、なんでやねん?」 「ちょっとした口論から彼女を傷つけてしまって、その彼女が国に帰ろうとするのを引き止めに行くんです」 「ほーそれは難儀な話やなぁ、よっしゃ!任せとき!電車より早よつけたろ」 「ありがとうございます」 「まぁ、なんやな、喧嘩できるうちが華やっちゅう訳やね。で、彼女の国ってどこや?」 「ドイツです」 「ほードイツ人の彼女かいな、ほなごっつ可愛いやろ、頑固でわがままやけど」 「え?しってるんですか?アスカのこと?」 「へえ、アスカっちゅうんか、兄ちゃんの彼女。日本人みたいな名前やね。」 「え?じゃ、じゃあ・・・」 「いやいや、統計的にゆーて見ただけや、ドイツって国がな、頑固でわがままな人が多いねん。 それにな、ゲルマン系の白人の子はごっつ奇麗な子が多いねんで」 「そ、そうなんですか」 「しかし、兄ちゃん、結構苦労してるやろ?」 「そんな事まで判るんですか?」 「まあな、おっさん長くやってりゃそのうち見えてくんで。それと、おっちゃんなあ昔ドイツに居ててんで」 「あ、そうなんですか、どうりで・・・」 「な、見えへんやろ。ゲヒルンっつーとこで働いとったけど、会社がのーなってしもてな。 それで帰ってきてからタクシーに乗ってんねん。」 「すごいですね」 「なんもすごいことあらへんで。ところで兄ちゃんの顔、ドイツにおった時にごっつ可愛い博士がおってな よう似とるわ。まあ、まさか博士の息子って事はないやろけどな」 「僕の母さんは僕が小さい時に事故で死んだんで、顔とかよく覚えてないんです」 「さよか、悪いこと聞いたな。すまへんな」 「い、いえ、気になさらないでください」 「よっしゃ、ついたで。」 「支払いはこのカードでお願いします」 「え?兄ちゃんネルフの人間かいな・・しもた、えらいことゆーてもーたな。エリート様に」 「そ、そんな、僕はそんなんじゃ無いです」 「まあ、謙遜してなはれ。・・・毎度おおきに、きーつけてな、ほなさいなら」 同じ関西でもトウジとは違うんだな。そう言えばトウジの出身は堺って言ってたな。 それにしてもよく喋る運転手だった。運転中ずっと喋りっぱなしだよ。 ははは、結局アスカはクオーターだって言いそびれちゃったけど。 なんだか励まされた気がする。 僕はタクシーを降りると国際線搭乗手続きカウンターを目指して走った。 ルフトハンザ航空73便ザルツブルグ行きの搭乗手続きは間もなく締め切らせて戴ます。・・・ フィンランド航空44便ブダベスト行きの搭乗改札は間もなく締め切らせて戴ます。・・・ ロイヤルネパール航空17便カトマンドゥ行きの搭乗手続きを開始いたします。 空港内にアナウンスが流れている。アスカはドイツに帰るんだから。ドイツの飛行機に乗るはずだ。 えっと、これだ!ルフトハンザ航空73便。これにアスカは乗ってるはずだ。 カウンターで聞いてみよう。 「え、と、あの、すみません」 「はい、なんでございましょう」 「あの、ルフトハンザ航空73便に惣流アスカ・ラングレーは乗って無いでしょうか?」 「失礼ですが、お連れさまでしょうか?」 「い、いえ、友達なんですが・・・」 「申し訳ございません。プライバシーを侵害する恐れがありますのでお答えできません」 「なぜですか!!同じ乗客ならいいんですか!!!それならチケット買えばいいんでしょ!」 「い、いえそのような事ではございません」 「いいよ、自分で探す!!チケット買うから!!支払いはこれで!!!」 「ね、ネルフ幹部職員。・・・失礼致しました。ただいま手続き致します」 「なんだよ!!!最初からそうやればいいじゃないか」 「申し訳ありませんでした」 僕は何故かアスカとの再会を邪魔された気がして一気に興奮していた。 それは、もし、ここでアスカを捕まえないと二度と逢えないような気がしていたから・・・・ 僕は一気に3階に駆け下り、ウィングシャトルに乗る。 スポットでは改札の始まったのかルフトハンザ航空73便に人が乗り込んで行く。 ・・・待っていてくれ、アスカ・・・今僕が行くから。
あー、もう、かったるいなあ、何で直接フランクフルトに行かないのよ!! アンカレッジ、アムステルダム経由でボンだもん、時間かかるわねー。 これなら後に出るザルツブルグ行きの方が早かったんじゃ? まあ、しかたないわね、急に帰るって決めたんだから。 それにボンには大学時代の友達もいるから、ついでに遊びに行っちゃおうかな? あーあ、アタシにとって日本って最悪だったな。もうここにはアタシの居場所なんてないのよ。 それにしてもシンジの奴!!、アタシを追いかけもしないで。 ・・・やっぱりシンジにとってアタシの存在って、それだけなのかな・・・ 畜生!畜生!畜生!!!覚えてなさい、馬鹿シンジ。 今度あったら殺す。このアタシを蔑ろにするとは、殺す。殺す。殺す。絶対に殺す。 ふん!!アタシが捨てられたんじゃないわ、アタシが捨てたのよ、この国ごとね。 「失礼します、朝食でございます」 フライトアテンダントが機内食を運んで来た。ファーストクラスでは流石に洒落た物が出てくる。 「あら、結構気が利いてるわね。BLTカイザーサンドじゃない」 「ありがとうございます。それではごゆっくりどうぞ」 そういえば民間機に乗るって凄く久しぶりよね。移動はネルフのヘリが多かったから。 アタシは機内食のBLTカイザーサンドをほお張りながら思った。 あ、これ、すっごくおいしいじゃない、ラッキー。 クロワッサンは店によって味が違うのよ、これは結構しっかりしてるわね。 ベーコンの火の通り具合も抜群ね、アタシはこの食感大好き。 レタスもトマトも本物を使ってるわね、見事だわ。 と、するとこのジュースも・・・やっぱり、100%生を絞っているわ。 やるわね、高級ホテル並みよ。
「はい、はい、ご尤も、はい、はい、以後気をつけます。はい、はい。直ちに。はい、失礼します」 ふう、まあったく困ったガキどもね。ああ、もう、冬月副司令にこってり絞られたじゃないの。 副司令の電話で良かったわ。これが碇司令の耳に入ってたら・・・ 「葛城三佐、チルドレン二名ロスト。監督不行き届きにつき懲戒免職とす」 なんて事になるわね。おーやだやだ、父さんの敵も殺ってないのにクビになる訳には行かないわ。 加持があんなんだから、結婚して転がり込むって言うのも何だし・・・ 大体、シンちゃんが鈍感だからこんな事になるのよ、アスカは全身でシンちゃんが好きですって言ってるのにね。 なんで、あんないい子を受け入れられないなかな?まだ子どもだから仕方ないかな? ・・・もう、アスカも人騒がせな子よね。勝手にドイツへ帰ろうとするんだし。 PiPiPi、ミサトの携帯電話が鳴る。 「はい、葛城・・・あ、リツコ。なに?・・え?どうゆうこと?なんで!!、わ、判った。何とか手配する」 何考えてるのよシンちゃん。シンちゃんまで飛んで行ってどうすんのよ。 PiPiPi、ミサトの携帯電話が鳴る。 「はい、葛城・・あ、レイ?どうしたのこれから非番でしょ?・・・あ、そうか。ごめんレイ、そのまま待機してて。 シンちゃん今いないのよ、ね。だから、今度らーめんおごるから。ね、レイ」 ふー、良かった、レイが待機してくれる、とりあえずなんとかかっこがつくわ。 でも、これで使徒が来たら世界は滅亡するわね。どう考えてもレイ一人では負担が大き過ぎるわ。 さて、リツコのFAXを見て対策ね。 アスカはフィンランド航空でアンカレッジ、アムステルダム経由でボンで降りる。 まあ、アムステルダムから列車を使う手もあるけどECで4時間半ね。じゃあ、飛行機だわ。 シンちゃんはルフトハンザ航空でザルツブルグへ直行か。ザルツブルグからフランクフルトはICで6時間か。 あのヨーロッパ統合以降、航空会社の所属と行き先の制限が撤廃されたからややこしくなったのは確かね。 まあ、ルフトハンザでザルツブルグじゃね中学二年じゃ間違えるの無理ないかもね。 でも、アスカはなぜフランクフルトへ向かわないのか、アスカの家はフランクフルトにあったはず。 そうか、フランクフルト直行便は明日の昼間かなるほど。可愛いわね、アスカは。
「さてとっ、やーーーーーーーと着いたわね。長かったけど結構サービス良かったから、これでもいいわ」 アスカはデイバッグを担ぎ空港を後にした。 鉄道で市街地へ向う事も出来たが、空港に待機しているタクシーを捕まえ、ボン市街地に向う。 市街地に近づくにつれ、見慣れた風景になっていく。 アスカはこの静かな街に何度も足を向けていたのだった。 「・・・そうね、もう2、3年ぶりになるかな?この街に来るの」 「なんや、やっぱ、観光客とちゃうかったんかいな?」 「へ?」 「お、すまんすまん、わしの日本語変け?」 「あ、い、いえ・・なまりが凄いなって・・・」 「さよか、じゃあ、あんさんは漢系日本語やね、わしのはラテン系日本語やで」 「は、はあ」 ・・・誰よ、馬鹿な事教えるのは!!! 「料金交渉はドイツ語でしとったのに、さっき日本語で呟いとったやろ、ただもんやないと思たで」 「はあ」 「髪と目の色からするとハーフっちゅう訳やね。」 「・・・まあ、そんなとこね」 ハーフじゃなくて、クオーターなんだけど、面倒だからいいわ。 ・・・変なタクシー拾ったわね。トウジよりなまりのきつい日本語で話かけないでよ!! 「そんでな、あんさん・・・・」 「あ、あの、無理に日本語でなくてもいいです。アタシはドイツ語の方がいいの」 「わかりました、お嬢さん」 「ああ、ほっとするわ」 「間もなく市街地に到着しますが、如何いたしましょうか?お嬢さん」 「そうね、確かライン川沿いのオペラハウスの近く美味しいカフェがあったわね。そこでいいわ」 「それでは、斯様に致します。お嬢さん」 ・・・はあ、変なタクシー運転手だった。もう、会うことも無いからいいか!!! アタシはカフェテラスでショコラトルテとカプチーノを飲みながら待っている。 古い街並みはあのセカンドインパクトの影響をまるで受けてない様に思えるくらいに奇麗に残っている。 傍らに停まってる電気自動車、犬と散歩を楽しんでいる婦人、サッカーボールを抱えて走っている子ども達。 ブリーフケースを下げて歩くビジネスマン、肩を抱いて歩く恋人達。 そういったものに囲まれた観光客の少ないこの旧市街はアタシのお気に入りの場所の一つでもある。 ライン川が近くに流れていて、堤防から川を眺めるのも落ち着いていいわね。 この街はベートーベンの生まれた街でもあるのよ。 まあ、クラシック音楽は余り聞かないから別に興味無いけど。 まだ、カボチャ守護神の方が聞くわ。フェイバリットはクリムゾンよね、やっぱり。 アタシがゆったりとした時間を過ごしているときに待ち人は来た。 「やあ、アスカ、こんにちわ、本当に久しぶりね。元気だった?アスカが日本に帰ったって聞いて寂しかったのよ」 「やあ、リーディア、久しぶりね、結婚したんだって?旦那様は元気なの?」 「ええ、おかげさまで『国民自動車』で頑張っているわ。今度、設計主任になったのよ」 「おめでとう、今日は日曜日で休みなんだから、旦那様も家でしょ?引越してからは行った事ないしね」 「ええ、ほら、あそこの白い『玉転がし』で待ってるわ」 アタシ達は旦那様の待っている車の方へ歩いていった。 白い車体の下半分から青いグラディーションがかかっている。 アタシはミサトと違って車に興味がないから、良く分からないけどステーションワゴンって奴ね。 でも、この車、明らかに手作りって感じがする。・・・きっと旦那様の自慢の車なんだろうな。 手入れが行き届いているし、何か暖かい感じがするのは何故だろう? 「あなたがかの有名な天才少女のアスカさんですね?始めまして、お会い出来て光栄です」 「始めまして、・・・えっと・」 「ツヴァネク、ツヴァネク・ダスティマーテです」 「始めまして、ツヴァネクさん、惣流アスカ・ラングレーです」 20代の後半と思われる旦那様は、生っ粋のドイツ人ね。 高い鼻、掘りは深いが皺の少ない目元、薄めの唇。少しブロンド気味の白い髪。 あら、背が高いわね、190cmはあるわ。 ジムで鍛えたのかな?筋肉質の体には贅肉が殆どない。でもガチガチマッチョじゃないわ。 うーん、概観は完璧に丸、しかも二重丸ね。シンジは鍛えてもこうはならないわ、残念。 「結構、男前じゃないの?」 「やーね、アスカったら。ありがとう。・・・なんか明るくなったわね。アスカ」 「そう?、変わったかな?アタシ」 「変わったわよ、以前のアスカなら男性の話なんてまずしなかったわね」 「うーん、そうかなぁ?」 「それに周りには護衛が付いていたでしょ?」 「加持さんは護衛じゃないわよ」 「そう?保護者にしては若いし、その・・何だっけ・・・国連の研究所の人だったんでしょ?」 「それはそうだけど。・・・あー、やっぱり加持さんってアタシを護衛してたのかなぁ、命令だから」 「気を悪くしたのなら謝るわ。今から思えばそうじゃ無いかってそう思うから」 「でも、そんなに変わったのかな?アタシって」 「前は、その、何かに追いつめられてて、人を寄せ付けないって感じの壁があったのよ」 「ま、まあ、ね。焦っていたかも知れないわね」 「人を寄せ付けない壁があるのに『どうだ、アタシが一番だからアタシに注目しなさい』って感じの態度だしね」 「その通りよ。よく見てたわね。アンタ」 「私は『脳天直結女』だから、そんな壁を無視したのよ」 「ひどい言い方しちゃったわね、アタシも。」 「私が考えも無しにアスカにまとわりついてたんだからね、そしたらアスカが アタシの周りをちょろちょろしないでよ!!この『脳天直結女』ってね」 「あ・・・そうだっけ?」 「最初は傷ついたのよ。でも、いつも一人で他人を寄せ付けないアスカを『電算人形』なんて言う人も居たわ」 「・・・だれよ?アタシをそんな呼び方したのは?」 「ほ、ほら、アスカ。もう昔の話でしょ?いいじゃない」 「・・・後で調べておこう・・」 「う、・・だ、だから、アスカが人前で見せた唯一の感情だったのよ。あの頃のアスカは全てに冷め切っていたね」 「そうね、早く大人になるんだって気負っていたわ、それに誰にも頼らないって決めてたしね。それに天才だった」 「じゃあ、今は?」 「気負は無くなったわ、天才でもなくなった。そして誰もアタシを必要としなくなったのよ」 「誰も必要としない・・・・ねえ・・・」 「そうよ、もう誰もアタシを求めやしないのよ。だれも・・・・」 「そうかな?一人いるわよ。何があってもアスカを必要とする人が」 「え?」アタシの脳裏に馬鹿シンジの笑顔が浮かんだ。 「ふふ、正直ねアスカは。ほら、カマかけてこれだもの」 「え?」 「恋する乙女の心が天才の殻に入った氷の心を溶かしたのね」 「な、な、なにを馬鹿なことを・・・」 「顔がまっかよ、本当に可愛くなったね。アスカ」 「それじゃ、アタシが可愛くなかったように聞こえるわね」 「そうよ、可愛らしさが全くなかったわ。冷たい目をして、全ての人を蔑んだ視線で見てて、 口を開いても『好きにすればぁ?アンタ達かってにやればいいのよ』なんてね。」 「今も変わらないか、それは」 「変わったわよ、可愛くなってる。なんか吹っ切れたような感じもするしね」 「無理して大人になろうとは思わなくなったのよ」 「どうして?」 「なんか、馬鹿みたい。大人って汚い事平気でやるし。」 「じゃあ、子どものままでいいの?」 「それもいや!、その、汚い大人にはなりたくないのよ」 「やっぱり、変わったわ、アスカ。日本に行って良かったのよ」 「最低の国だったわ。アタシにとってはね」 「そんな事ないわ、私はそう思う。・・・・ははーん、判った」 「え?なにが?」 「そうか、彼と喧嘩したんだ。それなら納得できるわね」 「な、何がよ!!!] 「友人と言っても、以前のアスカならアスカが自分の事を淡々と正直に話せる相手じゃ無いわ、私って。」 「そ、そんな事ないよ」 「アスカと私の年齢差は?だからアスカは私を姉として見てるんじゃないの?私から見ればアスカはまだ子どもよ。」 「そ、それは・・・・」 「だから、同世代に心を許せる友が出来たと言うことよ」 「た、確かにいるわよ」 「同世代の心を許せる友では正直になれるが、喧嘩しても飛び出したりはしないわね。 喧嘩して家を出るんだから、家族か恋人ね」 「なんで、家出なんて判るのよ!!」 「遠くの友人を訪ねるなんてその典型ね。家族へ後ろめたさがあるのよ。でも居所は知っておいて欲しいと思ってる」 「ぐ。」 「それに、計画的なら飛行機の中から連絡なんてしないわ。滞在予定も決まってるでしょ?」 「でも、彼氏って断定出来ないじゃない」 「甘いわよ、アスカ。私の旦那に興味を持って話題にした割には加持さんの事をさっさと流したでしょ? あんなに自慢だった人だったのにね。」 「加持さんは今別の人と付き合っているのよ。仕方ないじゃない」 「ほら、意地っ張りのアスカがそんなに簡単に諦めるの?違うわね。興味が別の人にあるからよ。だから軽く流せるのよ。」 「でも、だからって・・・」 「同世代の男の子ね。さっきの表情からするとアスカが夢中なのにアスカの気持は相手に伝わってないわ。」 「大きなお世話よ・・・」 「なに?アスカ」 「ふう、・・・その通りよ。・・・アタシの完敗ね。アンタには心理学の成績は負けてたなアタシ」 「アスカ、無理をしないで。私で良ければ相談に乗るわよ」 「ありがとう。でもいいの。もうアイツの事は忘れる事にしたから」 「嘘よ、本当は待ってるんでしょ?彼が迎えに来るのを」 「!!!」 「ここにいるより、フランクフルトの家で待ってたら?」 「でも・・・・シンジが来なかったら・・・アタシ・・・」 「彼を信じるのよ、アスカの彼を信じる心が彼を導いてくれるからね」 「わかった、じゃあ、フランクフルトに帰るわ」 「あら、食事ぐらい一緒にどう?それくらいの時間あるでしょ?」 「リーディアごめん、アタシ、決めたら直ぐに動く性質なのは知ってるでしょ?」 「判った、アスカ、今度来るときは彼と一緒ね。楽しみにするわね」 「そうね、じゃあまた、手紙書くわね」 「IC? 飛行機?どっちで帰るの?」 「そうね、ICだと2時間か、飛行機は数が少ないけど、今なら間にあうよね?」 「そう、解った。空港まで送るわ。アスカ」 「ありがとう、リーディア」 リーディアにはいい子ぶってるけど、アタシはそんなにいい子じゃないのよ。 シンジが来ると信じてる自分を見せて強がっているだけなのよ。 まだ仮面をつけたままね。強くないのよ、アタシって・・・
何て馬鹿なんだ僕は!!!!! よりによって飛行機を間違えるなんて。 しかし、アスカがこの機に乗っていないと言う事はどういう事だろうか・・・・ もしかしたら、アスカはドイツに帰るのを止めたのか・・・・でも、それは無いだろう。 自惚れかもしれないが僕はアスカの事を誰よりも解っているつもりなんだ。 僅かな期間だけど一緒に暮らしているんだ。ずっと一緒に過ごしていたんだ。 まあ、一時期アスカは入院してたけど・・・・ ・・・そう、アスカは使徒の精神攻撃を受けたのをきっかけに精神崩壊して入院していたんだ。 あの時の僕は死にたい位に落ち込んでいた。 僕はミサトさんの生き残る為に平気に人を殺せる所や綾波の生きる為に死を厭わない所が恐くて・・・・ 二人から逃げて、ただ、アスカに救いを求めていたんだ。僕を救って貰う為に・・・ アスカはそんな僕を、二人から逃げる為に見舞いに行っていた僕の事は知らないと思う。 そして、僕もアスカが立ち直ったのをきっかけでミサトさんも綾波も恐くなくなったんだ。 それは単に僕が立ち直ったアスカと一緒にいる事で救われた気持になっているだけなのか・・・ でもそれをアスカに拒絶されたら・・・飽きた玩具を壊すようにアスカを殺すかも知れない・・・ なんて卑怯なんだ、都合のいい時だけアスカを求めるなんて。 最低だ、俺って・・・・ ・・・・は!!、こうしちゃいられないんだ ミサトさんに電話してアスカのドイツでの住所を聞かなきゃ・・・ 「あ、あの・・・僕です。シンジです」 「しんちゃん?・・・アスカを見つけたの?」 「い、いえ・・・まだですけど」 「そりゃ、そうよね。飛行機が違うんだから・・・」 「や、やっぱりそうですか。・・・なんて馬鹿なんだ僕は・・・」 「はいはい、そこで悩んでも意味がないでしょ?解ってるの?」 「は!そうですね。そ、その・・・」 「解ってる。アスカの住所でしょ?」 「そ、そうです、それが聞きたかったんです」 「フランクフルトよ。でもアスカはボンに降りると思うわ。乗ってるのはフィンランド航空の44便ね」 「はい!!、ありがとうございます」 ふう、これでアスカを追う事が出来る。 情報を書き込んだメモを胸ポケットに入れて僕は呟いた。僕は少しほっとした気分で、シートを座り直し目を閉じた。 でも、眠るつもりではない、少し一人で冷静に考えよう。 僕の脳裏に色々な思いや疑問が次々と湧き起こる。 確かに口論の結果、アスカを傷つけたよ、でもあんなレベルの口論なんて日常茶飯事じゃないか。 僕の言葉の何が悪かったんだろう・・・ 僕の何処が悪かったんだろう・・・・・ 僕は何故アスカを追っているのだろう。アスカを傷つけた事をアスカに謝る為か? 僕はどんどん自分の思考の海に入って行った。 機はオーストリアの古都ザルツブルグに到着した。 僕は街に出る気分じゃなく直ぐにフランクフルトへ向う飛行機を手配した。 でも、折角来たのだから、嵩張らない程度の土産ならいいかな? ・・・何をやってるんだ僕は。初めての土地で言葉も解らないのに・・・でも・・・いや・・・やっぱり・・・ そして僕はフランクフルトへ向った。 はっ!!いつのまにか寝ていたのか?もう、フランクフルトに飛行機が降りている。 ザルツブルグでの飛行機の乗り換えもスムースに出来たから、思ったよりも早くフランクフルトに着いたな。 さあ、タクシーを拾ってアスカの家に向えばいいんだ。 さて、メモ、メモ・・・???メモが無い!!!! がーん、メモを無くすとは・・・・何てことだ・・・ 警察に行ってアスカの家の住所を調べるしかないのか・・・でも・・・こんな大きな街で・・ でも、やるしかない、傷ついたアスカを救えるのは僕しかいないんだ、・・・その傷を作ったのは僕だけど。 そうなんだ、僕がアスカを。・・・・・僕はアスカに殴られてでも許して貰わなきゃならないんだ。 許してもらえるかどかは判らない、もう二度と元気に馬鹿シンジ!!って言ってくれないかもしれない。 僕はアスカの心を判ろうとしなかったんだ。だからアスカの心の傷に塩を擦り込む様な事を言ったんだ。 僕は僕の都合だけでアスカを求めていたんだ。 僕なんか、僕なんかアスカの事・・・何も解ってないくせに・・・・ やはり警察で調べてもアスカの家は何処にあるのか解らない。 ネルフのカードは公衆電話には通用しない。慌てて出て来たので現金の持ち合わせも殆どないのだ。 そうだ、一旦航空券を買って払い戻せば現金が手に入るかな? ・・・いや駄目だ、ネルフのカードはクレジットカードじゃない。 払い戻した場合は赤伝を発行して売り上げを取り消すだけだ。現金が動く訳ではない。迂闊だった。 僕は空港警察をでて、何気なく上を見ると到着便の案内がある。 まてよ、もしかしたら・・・・アスカはまだこの街に着いていないのでは? 僕はザルツブルグ直行だったがミサトさんの話だとアスカの乗ったのはアムステルダム、ボン経由でブダベスト行き だとすると、ボンからこっちへ移動中かもしれない。 僕は走って国内線到着出口にきた。 ボン、フランクフルト間の便は1日3往復か、以外と少ないな・・・カウンター急ぐ。 えっと、東京発フィンランド航空44便はいつボンに着いたんですか? 英語に直して・・What time did FinAir's No.44 from Tokyo arrive to Bonn? でいいのかな。 僕はザルツブルグへの直行便なので比較的早かった、アスカの便はアムステルダム経由なのでその分遅い。 後はここ、フランクフルトへの乗り換えタイミングと時間の差だけだ。 もし、スムースに乗り換えが出来ていればアスカは空港にはもういない。 ボンで時間をつぶしていたなら、次の本日の最後の便に乗っているはず。 そう、僕はここでアスカに逢えなければ連れ戻す事など出来なくなるんだ。 あと、20分で全てが・・・僕の人生が決まる・・・僕はアスカと離れたくないんだ。
あー、もうすぐフランクフルトね。学校と研究所がケルンだったから、何だか懐かしいわね。 そう、ママの街なんだ。ママはこの街で生まれ育ったんだ。でもアタシの本当のママじゃない。 今のママは嫌いじゃ無いけど。違うのよ。 アタシに優しくしてくれるけど・・・なんか、よそよそしい。アタシも家族の一員なのに・・ パパは・・パパなんか嫌い!!!、ママを捨てたのよ、アタシとパパが力を合わせばママを救えたのに・・ ママ・・・どうしてアタシを置いて逝ったの? ママ・・・ママは幸せだったの?アタシには判らない。 ママ・・・どうしてアタシを見てくれなかったの? ママ・・・それはアタシじゃない、人形なの。アタシは人形じゃないの。 ママ・・・アタシ、エヴァのパイロットで活躍してるのよ、誉めてくれる?アタシを見てくれる? ママ・・・ほら、こんなに大きく、大人になったのよ ママ・・・ 壊れちゃったママをパパは見捨てたけど、壊れたアタシを救ったのはシンジ・・・ シンジは壊れてたアタシを見捨てなかった。そしてシンジはアタシを救ってくれた。 シンジはアタシの最もみっともない部分を見てもアタシを見捨てはしなかった。 でももし、連れ戻しに来てくれないなら、アタシはシンジに見捨てられた事になるんだ。 家に帰ればもうみんなに会えなくなる。 アタシはもうみんなに顔を会わせる資格をなくして仕舞うのよ。 ・・・シンジがアタシを迎えてくれれば・・・アタシを連れ戻しにきてくれれば・・・ ううん、シンジを捨てたのはアタシ、そんな都合のいい事起らないわ。 でも、お願いシンジ、アタシを、アタシを空港で捕まえてよ・・・・ あと、20分で全てが・・・アタシの人生が決まる。 素直じゃないアタシ、シンジの前じゃ素直に謝れないアタシ。 わがままなアタシ、シンジの前じゃ・・・・・わがままなアタシ。 こんなアタシでもいいの?こんなアタシを見てくれるの? アスカ、凄いやって誉めてくれる? ・・・なによ!!!こんなのアタシじゃない!!! 馬鹿シンジじゃ有るまいし、うじうじ考えても始まらないわ!!!やめやめやめ!!!!! アタシはアタシの心に素直に生きるのよ!!!シンジが何よ!!! シンジがアタシを捨てたってかまわないもん、アタシがシンジを捨てたのよ!!! 誰もアタシを見なくてもいいもん、ママが天国から見てくれてるもん。 アタシは天才なんだから何でも出来るのよ、エヴァが無くてもいいのよ!!! 誰も見てくれないならエヴァなんかいらないのよ!エヴァなんかアタシの道具の一つなの!! 痛い・・・・無理しちゃって・・・ こんな心のアタシなんか誰も見てくれないよね? こんなアタシの心なんか要らないよね? シンジが見てくれたら・・・ シンジが求めるなら・・・ もう、一人はいや ・・・恐い。恐いのよ、シンジ。・・・アタシ、恐い。
僕は憔悴しきっていた。もし、この便にアスカが乗っていなければ・・・ 僕は一生アスカに逢えないのかも知れない・・・いや、会っちゃいけないんだ 一言、たった一言、あの一言で・・・僕はアスカを失うのか? 案内板が回転し、到着アナウンスが流れてくる。 次々と到着ゲートから人が出てくる。子ども、大人、お年寄り。 再会を喜ぶ家族もいる。 プレゼントだろうか、体より大きな包みを抱えていそいそと歩く子ども。 ブリーフケースを下げたビジネスマンが他のビジネスマンと握手を交わしている。 嬉しそうに腕を組んであるくカップル。 いない、でも・・・いない・・・アスカだけがいない・・・ ゲートにはもう人の姿は見えない。 僕は呆然と誰もいない、ゲートを見つめていた。 この空港は環境問題の配慮で出発便は午後8時まで、着陸便は午後9時までになっている。 僕の時計は9時30分を指している。もう、飛行機は来ないのだ。 空港ロビーの人もまばらになり、売店も片づけ初めている。 広く明るいロビーのベンチにはもう座っている人は殆どいなかった。 奥の方にはフロアーの清掃をする道具が並べられている。 そして、手荷物受け取り室の明かりとともに目の前が真っ暗になった。 僕はがっくりとひざを突いていたが、のろのろと立ち上がろうとした。 アスカが僕を捨てた以上僕はここには居られないのだから。 足に力が入らない、立とうと思ったが、立てない。 アスカ・・・僕はアスカを失ったのか・・・・アスカ・・・ 僕はもうアスカに逢えないのか?これがアスカを傷つけた罰なのか 「シンジ?」 駄目だ、幻聴まで聞こえる。 「シンジ・・・なの?」 アスカ、僕をそこまで責めるのか・・・・ 「こっの!!!馬鹿シンジ!!!!」 ばし!!!!空港フロアーに快音が響く。 「ア、アスカ?・・・・」 「シンジ、アタシ、シンジに・・・・・・・・」 「アスカの馬鹿!!!!!!」 ばし!!!!空港フロアーに快音が響く。 「い!痛い!!な!!なにするのよ!!!この・・え?泣いてるの?」 「アスカ、帰ろう、僕たちの家に」 「シンジ?」 「みんな待ってるんだ、僕が迎えに来たんだよ、アスカ」 「い・や・よ」 「どうして?誰も怒ってなんかいないよ」 「うそ、じゃあ、なんでアタシをぶつのよ!!!」 「けじめだよ」 「けじめ?」 「そう、アスカはみんなに心配させたんだ。怒ってなんかいないけど、みんなの心を試したんだ。 僕はそれが許せないんだ。」 「・・・」 「だから、けじめをつけなきゃ駄目なんだ、悪い子は叩かれるんだ」 「ご、ごめんシンジ・・・」 「ごめん、アスカ、痛かっただろ」 アタシはシンジに叩かれた頬よりも、心の方が痛かった。 「でも、アタシ・・・帰らない」 「なんで?」 「みんなが心配してるのはエヴァパイロットのアスカでアタシじゃない!!!」 「そんな事ないよ、みんなアスカを待ってるんだ」 「うそよ!!!そんなのうそ!!」 「うそじゃない、信じてよ」 「いや!!信じない!誰も信じられないのよ!」 「アスカ!!!!」 「な、なによ!!またアタシをぶつの?」少しおびえてガードする 「悲しいね・・・」シンジの目から大粒の涙が止めど無く流れる 「・・・」 「アスカはもう僕を信じてくれないんだ」 「アスカの心の中に僕は居ないんだ」 「僕はずっとアスカだけを見ていたのに」 「僕にはアスカが必要だったんだ」 「僕はアスカにずっと心を開いていたのに」 「僕はアスカがいなくちゃ駄目だったのに」 シンジは震えながら、呟く。 「僕はアスカの全てを受け止める覚悟があったのに」 「アスカの過去も未来も現在も・・・共に分かち合って欲しかった」 「でも、アスカが心を閉じているなら・・・・迷惑だったんだね、そんな事は」 「さよなら、アスカ。必要な手続きは僕がしておく、やらせてくれ、みんなも説得するよ」 「今までありがとうアスカ。僕はアスカが誰よりも好きだった。愛してたんだ」 「ごめんね、アスカ。迷惑かけて」 「さよなら」 シンジはアタシに背中を向けてゆっくりと去って行く。振り向きもしないで・・・ アタシは足が竦んで動けない。 「う、うそよ・・・・こんなこと・・・こんなことって・・・あるわけ・・ない・・・」 「いやーーーー!!!!こんなのいやーーーー!!!」 こうして、アタシはシンジと別れて、エヴァパイロットも辞めてしまった。 アタシの弐号機はカヲルと言うナルシスホモにくれてやったわ。 その後、ネルフ本部はゼーレの陰謀で全滅。 シンジもファーストもミサトもリツコもマヤもナルシスホモも殺されてしまった。 第三新東京市はN2爆弾900個食らって跡形も無くなっていた。
は!!!!いつのまにか寝てたんだ。 うー、それにしてもシンジの奴め、よくもこのアタシを捨てたな。アタシの夢とは言え許せない。 嫌な夢よね、全く!!!!! ・・・でも、そうなんだ。アタシがこのままじゃそうなるんだ。 この夢のシンジはアタシに心を開いていてくれた。 そしてこんなアタシを愛してくれていてくれた。 そう、これは夢?アタシの希望なの? そして、こんな破局をアタシが望んでいると言うの? みんなが殺されて、アタシ一人生き残って。 誰もアタシを知らない。そんな世界をアタシは望んでいるの? ・・・痛い・・・助けてよ。シンジ・・・強がってももう、アタシにはシンジしか居ないのよ。 誰でもない、シンジ一人、シンジだけが・・・アタシをみてくれたら・・ 案内板が点滅し、ピックアップテーブルに荷物が流れてくる。 アタシはこのデイバッグ一つだから、ここで荷物を待つ必要ないけど・・・ 恐い、もし、シンジが居なければ・・・ 発作的な家出でシンジと別れなきゃならないの? もう、シンジと一緒に暮らす事はできないの? もし、第三新東京市に戻っても、シンジが受け入れてくれなければ、アタシはもう行く所がない。 今の家族・・・アタシのいない家族にアタシが割り込む事はできない。 次々と到着ゲートへ人が歩いて行く。子ども、大人、お年寄り。 少し不安そうな表情の家族もいる。 プレゼントだろうか、体より大きな包みを抱えていそいそと歩く子ども。 ブリーフケースを下げたビジネスマンが真剣な面持ちで歩いて行く。 嬉しそうに腕を組んであるくカップル。 ピックアップテーブルのコンベアーは荷物が無くなり止まっている。 案内板が消灯し。アナウンスが流れる。 そうか、あれが最終の飛行機だからもうすぐここの明かりも消えるのね。 アタシは仕方が無く、そっと、ゲートを出る。 ・・・お願いシンジ!!!アタシを見つけて!!! アタシを逃がさない様に抱きしめて!! 「アスカの馬鹿!!!!!!」 ばし!!!!空港フロアーに快音が響く。 「い!痛い!!あ・・・シンジ・・・・」 「ごめん、アスカ、痛かっただろ、でもこれがみんなの心の痛さなんだ。みんなは本当にアスカを心配してるんだ。 だからけじめをつけなきゃいけないんだ。」 ・・・夢の中のシンジと同じ事言ってる・・・ありがとう・・シンジ シンジの目から涙が溢れている。シンジも心配してくれてたんだ・・・ 「ごめんなさい・・・」 「え?泣く程痛かった?」 馬鹿・・・痛いのは頬じゃないのよ・・・ 「そして、これは僕からだ」 シンジはそう言って、右手を大きく振り翳ざした。 アタシは身を竦めて目をつぶった。でも暫く待っても痛みは来なかった。 「帰ろう、アスカ。僕達の街に」 シンジはそう言ってアタシを抱きしめる。 「シンジと一緒なら・・・・」 「ありがとう、アスカ。一緒に帰ろう」 「こんなアタシでいいの?」 「そんなアスカだから、迎えにきたんだ」 アタシの目から涙が溢れて止められない。シンジの顔が涙で見えない。 「こんなアタシでもいいの?」 「アスカがアスカだから、一緒に居たいんだ」 「シンジ・・・・・」 「もう、何も言わなくてもいいよ、アスカ」 シンジの腕に力がこもる。アタシもシンジを強く抱きしめて、目をつぶった。 「さあ、一緒に帰ろう。僕たちの家に」 終劇
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