かくしEVAルーム 第一部あらすじ

シンジの一週間 シンジの日記より


○月○日 ケンスケからの電話 (第一話)


今日突然ケンスケから電話がかかってきた。あさってから学校が再開されるって連絡してくれたんだ。ほかのみんなはどうって聞いたら、洞木さんとトウジはくるよって教えてくれた。
トウジの名前を聞いて僕は暗い気持ちになったんだけど、ケンスケはそれに気づいたみたいで、

「トウジがな、気にするなっていってたよ。」

っておしえてくれた。学校には来られるのかって聞かれたから僕は行けるけどアスカはまだ・・・て答えたらケンスケも洞木さんから聞いてたみたいだった。
そのあと綾波のことを聞かれて少し驚いちゃったんだけど、ケンスケが僕は綾波のことが好きなんだろうって言ったときにはもっと驚いた。ケンスケは何も知らないからそんな事言えるんだよ。

あさって学校が再開されるってミサトさんにいったんだけど、ミサトさん知ってたみたいで全然おどろかなかった。知ってたんならもと早く教えてくれればよかったのに。

あさってになればみんなと、僕の仲間と、会えるかと思うとなんだか浮かれちゃってなかなか眠れない。
まあだからこそこんな日記なんて書いてるんだけど。


○月◇日 まさか、まさか加持さんが死んだなんて!! (第二話)


今日はいつものようにアスカの見舞いにいってアスカの具合を見てきた。
少しずつアスカはよくなってきてると思う。ちょうど洞木さんもアスカの見舞いにやってきたのでいっしょに帰ることになった。すっかり忘れていたペンペンを引き取りに行くためでもあるけど、洞木さんが僕に話があるって言うから。
その帰り道で僕は洞木さんといろいろな話をした。学校のこと、友達のこと、避難生活のこと、そしてトウジのこと、アスカのこと。

トウジのことは僕が気にしちゃだめだって洞木さんも言ってくれた。
でも僕は僕が許せない、止められなかった、いや止められたのにしなかった僕を。
でもトウジは元気なんだってケンスケも洞木さんも言うから、もしかしたら明日学校に来たトウジに謝って許してもらえるかもしれないって思った。
虫のよい話だよね、そんなはずないのに。

アスカは洞木さんにも自発的にはしゃべらないらしかった。
洞木さんはアスカが僕のことを好きだからきっと僕とは話をするだろうと思ってたらしい。
アスカが?僕のことを?考えたこともなかった。
アスカは加持さんが好きなんだとずっと思ってた。

その加持さんのことだ。
洞木さんの家でペンペンを引き取ってからふと、そういえば加持さん最近見ないな、って思ったから何気なくミサトさんに聞いてみたんだ。そしたら、加持さんは死んだって言うんだ。
最初きっと悪い冗談なんだって思ったけどミサトさんはそんな冗談を言う人じゃないし、ミサトさんの悲しそうな顔を見て本当のことなんだってわかった。
まさか、まさか加持さんが死んだなんて・・・まだ信じられない。僕はミサトさんに何も言えなかった。何か言うべきなのに、何か言ってあげるべきなのに、何も言わなかった。

でも、だからミサトさんはしばらくふさぎ込んでいたんだ。
僕は気づかなかった。気づこうともしなかった。
ペンペンのこともすっかり忘れていた。
家族なら気づいてしかるべきなのにどちらにも気づかなかった。
僕は自分のことだけしか考えてなかったんだ。
家族失格だなこれじゃ。

僕って最低だ。

今日も眠れない。


「そっかぁ、シンちゃんそんな風に考えてたんだ」

ここは私立第三新東京中学校職員室。ある午後のひとときである。

「よう、葛城。何やってんだ?」

「加持ぃ、あんたちょときなさいよ。・・・みなさい、あんたがさっさと戻って来ないからこーして一人の少年が傷ついたのよ。あんた分かってんの」

「シンジ君の日記か。なんで葛城がもってるんだ?」

「引越しのときに忘れてったみたいなのよね。あの子達急いで出てったみたいだから」

「ふーん、まっシンジ君には謝っておけばすむことさ。俺はそれよりこの『ミサトさんはしばらくふさぎ込んでた』って方が気になるけどな」

「そっそれはシンジ君の思い過ごしよ。ア、アタシはあんたがいなくてせいせいしてたんだから」

「へーえ(ニヤニヤ)、じゃ俺は畑に水を撒きに行くから。じゃな、葛城」

「あっ加持・・・もう、ほんとにジジ臭いんだから」


○月×日


 

(空白)

 


○月●日 綾波 (第3話〜第6話)


昨日は日記が書けなかった。だって今日の朝、気づいたら廊下の上で寝てたんだもの。
原因はお酒。
これからは絶対お酒を飲んでるミサトさんには近づかない事にしよう。

昨日書けなかった分は今から書こう。
昨日のことだからちょっと記憶が混乱してるけど。
まず、そうまずトウジと会ったんだ。元気そうだった。
あってすぐトウジに謝ろうとしたんだけど何も言えなかった。
逆にトウジに元気付けられちゃった。でも本当に元気そうで何も気にしてなさそうなトウジを見て、これからも友達でいられるんだと思えてとてもうれしかった。
そのあとトウジとケンスケと三人でいっしょに登校したんだけど、考え事をしてたせいかそれとも寝不足のせいかあんまりよく覚えていない。そう言えば朝礼のときにトウジにこずかれるまでの間のことは曖昧な記憶しかないなぁ。
でもトウジに言われて前をみたら、副司令が挨拶してたから驚いてしまった。
副司令だけじゃなくてリツコさんや日向さん青葉さんに伊吹さん、そのうえミサトさんまで先生として赴任してきたんだ!!
ミサトさんは僕の担任だし、これからが思いやられるよ。

昨日は授業はなくてみんなで自己紹介をやったんだけど、早速ミサトさんにおもちゃにされてしまった。
みんながミサトさんに質問をしている間に、僕は最近の寝不足がたたってぐっすり寝入ってしまったんだ。僕が寝ている間にミサトさんがみんなに何を話したかはわからないけど、どうやら僕がミサトさんと一緒に住んでいることはみんな知ってるみたい。つまり僕のことが話題になってる間、僕はぐっすり寝こけてたわけで・・・うう、恥ずかしい。
そのうえミサトさんに「起きなさい、シンちゃん!!」って起こされてしまった。新しいクラスでひっそりとやってくつもりだったのに・・・初日からだめになった。
クラスのほとんどが僕のことを笑ってたんだ。
そう綾波以外は・・・。

僕は綾波に話し掛けることができなかった。
僕の知らない綾波に話し掛けるのが恐かったんだ。
でも、そんな僕をミサトさんは叱った。
綾波は変わってしまったけれど、いなくなったんじゃないって。戻る可能性があるんだって。
そうミサトさんに言われたとき、僕は喜びと悲しみの入り交じった不思議な感情が込み上げてきてミサトさんの胸のなかで泣いた。
そうなんだ、綾波はいなくなったんじゃない。僕はただ、綾波が変わってしまったのを認めるのが恐かったんだ。
分かったよミサトさん、もう僕は逃げない。

そのあと僕はずっとどうやって綾波に話し掛けようか考えてた。
でもどうやって話し掛ければいいか結局、授業が終わっても思い付かなかった。
思い付かなかったけど、僕は思い切って綾波に話し掛けてみたんだ。
僕が話し掛けることで少しでも早く綾波が元に戻るんじゃないかと思って。
まあ、そっけない会話しかできなかったけど。
それから僕はケンスケとトウジと一緒に帰ったんだけど、ずっと綾波のことを考えてたんだ。
そしたら別れ際、ケンスケに相談事があったら相談に乗るよって言われた。僕の泣いてるところを見て心配してくれたんだ。
友達っていいもんだね。

ケンスケとわかれたあと僕は夕食の買い出しに行ったんだけど、そこで偶然綾波と出会ったんだ。
綾波が夕食をコンビニのものですますなんて言うから、僕は半分無理矢理綾波を綾波の家まで連れていって、綾波に夕食を作ってあげたんだ。
いま思えば、どうして僕はそんな事をしたんだろう?
ミサトさんに言われた事が関係してるのかもしれないし、ただ僕の料理を綾波に食べてもらいたかっただけかも知れない。
僕にもよくわからない。
ともかく僕は綾波のために野菜中心の料理を作って、一緒に食べ最後にお茶を飲んだ。
それでも僕は綾波とあまり話せなかった。
もっと気のきいたことが話せればいいんだけど・・・。間が持たなかったから急いで帰って来ちゃった。

帰ってみると、すでにミサトさんは帰っていて、しかもすでに出来上がっていた。
いつもは何事も気にしない人なんだけど酔っ払ってるし、きっとどこに寄り道していたか聞かれると思った僕は、そうなる前にミサトさんを酔いつぶしてしまおうと思ったんだ。
でもその時の僕はすっかり忘れていた。
ミサトさんが正真正銘の”うわばみ”だと言うことを。
家の中にあるお酒と言うお酒を全部持ってきてミサトさんに飲ませたのはいいけれど、酔っ払ったミサトさんに無理矢理僕も飲まされちゃった。
そのあとのことは意識が朦朧としててはっきりと覚えていない。
確か、何か聞かれてそれに答えたような・・・そのあと何かが僕の頭にぶつかって、気づいたら今日の朝だった。
もう絶対に酔っ払ったミサトさんには近づかないぞ!!


「・・・ふーん、・・・そういうことだったのね」

「あら、葛城先生なに読んでらっしゃるんですか?」

「ちょーちね」

「あっ日記ですね?どなたのですか?」

「シンジ君のよ」

「へーえ、どれどれ・・・」

「ア、アンタ勝手に・・・」


○月●日(つづき) お弁当 (第7話〜第11話)


そして今日のことだ。

朝、目覚しの音で目覚めると、僕は冷たい板張りの床に制服の上にエプロンと言う姿で寝ていたんだ。
痛む頭を抱えながら状況を把握する。
きのうミサトさんに無理矢理飲まされてそのまま寝ちゃったんだ。
とりあえず僕は辺りに散乱した空缶や空き瓶を片づけた後、ミサトさんを起こすことにした。
ミサトさんは一応起きたけど、とてもつらそうだった。
ちょうどその時、トウジ達が僕を迎えに来てくれた。
それで僕は急いで支度をして家を出たんだけど・・・ちゃんとミサトさんを起こさなかったから、ミサトさん、どうやらそのまま寝てっちゃったみたい。
そのことについてはあとになって後悔する事になった。

学校に着いたら、僕の席の隣にはすでに綾波が座っていて、いつものように本を読んでた。
僕は席につくと綾波に話し掛けてみたんだ。
昨日僕が無理矢理押しかけちゃったから迷惑じゃなっかた?って聞いたら、迷惑じゃないって答えてくれた。
僕はその答えもそうだけど綾波が僕と会話をしてくれたのがとてもうれしかった。このまま行けば綾波が元の綾波に戻るのも、そう遠いことじゃないと思えて。
でもそうやって綾波と話していたのをケンスケ達に聞かれたみたいで、綾波のうちでなにしてたんだーって聞かれちゃった。僕はごまかしきれずに正直にいったら、変わった奴だな、って言われた。
どうして?って尋ねたら、そんなの女のすることだ、って。
ショックだった。でも確かにそうだ。
ふと周りを見るといつのまにか人が集まってきていた。こんな話を人に聞かれたと思うとすごく恥ずかしい。

僕らの話を聞いていた洞木さんに、僕が、綾波は料理をしないって教えてあげたら、「あたしが教えてあげる」って洞木さんの家でお料理講習会をみんなで開くことになった。
ことさらみんなですることにしたのは・・・、気づいてないんだろうなトウジは。

三時間めはリツコさんの理科だったんだけど、授業が終わって教室に戻ろうとしたときリツコさんに話し掛けられた。
その時間になっても、ミサトさんがまだ来てないらしかった。
僕は、朝、きちんとミサトさんを起こさなかった事を猛烈に後悔した。
僕は何とか事情を聞かれないようにと思たんだけど、結局観念して事情をリツコさんに全部話した。
リツコさんは納得してくれたけど、僕が綾波の家へ行ったことに驚いたようだった。
そんなぼくをリツコさんは強いといった。
でもそうじゃない。
僕はしなければならないと思ったからそうしているだけだ。
どうしてそう思ったかはわからない。
心からそう思っただけかもしれないし、綾波が僕をかばって死んで行ったことから目をそらすことができるからこそ、今の綾波を普通の女の子にしたいと思ってるのかもしれない。
・・・やめよう、こんな事考えるのは。綾波が元に戻るのはいいことに違いなんだから。

そのあと、洞木さんの提案でお弁当を作ることになって、みんなでスーパーに買い出しに行った。
そういえばお弁当なんて作るのひさしぶりだなぁなんて考えていたとき、僕はいいことを思い付いた。
アスカにもお弁当を作って持っていってあげようって。
だから、買い物が終わってから一度家に戻って、僕の弁当箱とアスカの真っ赤な弁当箱を取りに戻ったんだ。
僕が遅れて洞木さんの家につくと、もうすでにいい匂いがしていた。
トウジは洞木さんの隣からつまみ食いをしてたし、ケンスケはテーブルの上に並んだものを食べてた。
綾波はトウジの反対側に立って洞木さんが作のをじっと見ていて、洞木さんはトウジを叱りつつ、そんな綾波にやさしくレクチャーしてた。
僕にはそんな雰囲気がうれしかった。
この光景をちょっとながめてから、僕も自分の分に取り掛かった。
出来上がってからみんなで食べたんだけど、僕はアスカと食べようと思って食べないことにしたんだ。
みんなと別れて、僕はアスカの病室に急いだ。
アスカの病室の前で三回ノックをしたけれど、やっぱりアスカからの返事はなっかた。
結局、僕から声をかけて病室に入ることにした。
僕は中に入ったけれど、何もしなかった。ただきれいなアスカの唇をぼーっと眺めていただけだ。
そうやってぼーっとしてるうちに時間は過ぎていって、気が付くと5時だった。
僕は大事なことを思い出してアスカに話し掛けた。
二つの弁当を取り出してお弁当を作ってきたんだっていったら、

「・・・お弁当?・・・・」

って、今日初めて言葉を口にしたんだ。うれしかったからよく覚えてる。
お弁当とお箸を手渡すと、アスカは何も言わなかった。でも、ゆっくりとではあるけれど食べてくれた。
二人とも食べおわって二つの弁当箱を片づける。ふと気づくと、アスカの唇の端に、ご飯粒がついてた。
だから僕がとってあげたんだ。
僕の唇で。
そして僕はこう言ったんだ。

「僕は、アスカのそばにずっといるから」

とっさの行動、とっさの言葉。
キスまがいの行為と、告白じみた言葉。
今考えるととても恥ずかしいことをしたと思う。
でも、後悔はかんじない。かんじるのは不安。
アスカはゆるしてくれるかな。

アスカは僕のことが好きだと洞木さんは言う。
じゃあ、僕はどうなんだろう?
・・・・・わからない・・・・・・。
ずっとそういうことばかり考えてたから、リツコさんが来てミサトさんと何か話していたけど全然聞いてなかった。
いくら考えても答えは出ない。とりあえず、明日、アスカのお見舞いにいったら謝ろうと思う。
ごめんよ、アスカ。


「・・・・・不潔(バタバタバタ)」

「不潔って、アンタが勝手に読んだんでしょうに・・・、でもシンちゃんも顔の割になかなかやるのね」

「なんでマヤがピンクで私が紫なのかしら、作者の悪意を感じるわね」

「あらリツコじゃない。なんか言った?」

「なにも。それよりあんたこそ何やってんの?こんな時間まで残ってるなんて、珍しいじゃない」

「シンちゃんの愛の日記を読んでるのよん」

「あら、悪趣味ねぇ」

「あっ悪趣味って、アタシはあの子の保護者として・・・」

「もう保護者じゃないでしょ?」

「・・・そうかも知れないけど、アタシはあの子達を見守ってあげたいのよ」

「そのこととその日記をみるのと、どういう関係があるの?」

「ググ・・・」

「最初から見たいからだって言えばいいのに」

「そうね、もうあの子達の保護者じゃないんだものね・・・」


○月▽日 いいこと (第12話〜第15話)


、目覚めると、すでにリビングにはミサトさんとリツコさんの姿があった。
お早いですねって僕が言ったら、二人とも徹夜したんだって。まったく、タフな人達だ。
そしていつものようにトウジ達と一緒に登校した。
やっと訪れた平和な日々。ずっと続けばいいなあ。

お昼休みになって、僕は少し驚いた。ふと隣を見ると綾波がお弁当を作ってきてたんだ。
どんなお弁当を作ったのか興味があったから見せてって頼んだら、恥ずかしいからだめだって弁当を持って教室を出てっちゃった。
綾波が恥ずかしいなんて言うとは思わなかったからすごく驚いた。
でもすごくうれしかった。そんな普通の反応が綾波から帰ってきたから。
綾波が元に戻るのもそう遠いことではないに違いない。

学校が終わると、僕はアスカの病室へと急いだ。今日もお弁当を作っていったんだ。
僕が入っていって呼びかけると、アスカは顔をこちらに向け、かすかに答えた。
昨日まではそういうこともなかったから少しうれしかった。
しばらくアスカに日常のことを話したあと、頃合いを見てお弁当を取り出した。一生懸命作ったから食べてって言ったら、昨日とおんなじように黙ってゆっくりとではあるけれど、全部食べてくれた。
食べおわった弁当箱を片づけているとき、昨日の光景がよみがえってきたんだ。
それで、僕はアスカにごめんよって謝ったんだ。
そしたらアスカは・・・。
気づいたら、僕はアスカを抱きしめてた。
僕も、アスカも、涙を流していた。
どうしてアスカを抱きしめたのかはわからない。
ただ抱きしめてあげたかった、それだけだ。
いつのまにか、アスカは眠っていた。
僕は時間までアスカの安らかな寝顔を見守っていた。

お見舞いの帰りに、僕はスーパーによって夕食の材料を買ってきた。
今日はご馳走だ。
急いで家に帰ろうとしたら、後ろから声がかかった。
綾波だった。
綾波も夕食の買い出しだったみたい。
いくつか言葉を交わしたんだけど、僕はしゃべるの得意じゃないし綾波も寡黙だから間が持たなくなって、僕は帰ろうとしたんだ。
そうしたら綾波に「待って!」って大きな声で呼び止められた。
綾波が大声を出すなんて思いもしなかったから、少し驚いた顔で振り向くと、綾波は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして僕にこういった。

「・・・・・お礼が・・・・・したいの・・・・・・」

僕が綾波に料理を作ってあげたお礼に、今度は綾波が僕に料理をご馳走してくれたんだ。
そういえば、今日の放課後に下駄箱で綾波が僕に声をかけたのはこの事だったのかもしれない。
綾波が料理をし、料理を並べ、洗い物をし、お茶を入れる。
このまえ僕が綾波にしてあげたことを、今度は綾波が僕にしてくれたんだ。
とてもうれしかった。綾波の料理はうす味だったけどおいしかった。
綾波も同じようにうれしかったんだろう。だからこんな風に、お礼をしてくれたに違いない。
僕は綾波にお礼を言って、綾波のうちを出た。

家に帰ると、僕はミサトさんに夕食を作った。
いきなりのご馳走に驚いてたけど、アスカが僕に初めて話し掛けてくれたお祝いだっていったら、一緒に喜んでくれたんだ。
でも僕は綾波のうちですでにおよばれしてたからほとんど食べなかった。
どうしたのって聞かれたから、正直に綾波にご馳走になってきたって言ったら、ミサトさんも驚いたようだけどよかったわねっていってくれた。

アスカは僕に話し掛け、そして涙を流した。
アスカは立ち直って、もうすぐ退院できるかもしれない。
綾波はものすごい勢いで変わっている。
まだまだぎこちないところはあるけれど、話し方もやさしくなった。
人に声をかける事、人にお礼をする事、そして恥ずかしがる事、料理をする事。
綾波は少しずつ普通の女の子がする事を身につけている。
綾波が普通の女の子になる日は間違いなく来るだろう。

今日はいいことばかり書けた。
ふと窓の外を見ると、月が見える。

今日は満月だ。


○月□日 アスカ (第16話〜第20話)


友達って言うのはいいもんだ。
今日、綾波に初めて友達ができた。

今日学校に着いて、僕は綾波に昨日のお礼を言ったんだけど、それをトウジたちが聞いててトウジたちは驚いたらしいんだ。「あの女がそないなことするなんて」だって。
あまりにひどい言いようだったから、僕は思わず大きな声で二人に、「綾波だって普通の女の子じゃないか!!」ってどなっちゃった。
でも二人と同じ想いを僕も持ってたんだ。だから二人に怒鳴る資格なんてなかった。ごめんよ、二人とも。
綾波は自分はそんな風に見られてもおかしくないから気にしなくていいって僕らに言った。
それをきいてトウジたちはとても反省したらしい。ううん、綾波が普通の女の子だって分かったのかもしれない。

「わしはこれから、綾波をシンジやケンスケと同じように接する様にする事に決めた!!」

そう言って、トウジは右手を綾波の方に差し出した。ケンスケも同じように右手を差し出した。
綾波は戸惑っていたけど、僕が同じように手を差し出して、これが友情の証なんだって教えてあげた。
こうして綾波は初めて「友達」と握手をしたんだ。

そのあと、ずっと昼休みまでトウジが綾波に友達付き合いについて教えてた。
お昼休みには洞木さんも交えて5人で楽しくお弁当を食べた。
綾波は着実に普通の女の子に近づいている。

学校が終わって、僕はみんなと別れ一人アスカのお見舞いに行った。
途中、花屋さんによって一枝の桜を買った。高かったけれども、僕のはじめて直に見た桜はきれいだった。
それを持って、僕はアスカの病室に入った。
アスカは僕が持ち込んだ桜にずっと見入ってた。
僕も一緒になって見入ってたんだけど、暑くなってきたから窓を開けたんだ。
そしたら風が舞い込んできて、桜の枝から花びらを部屋一面に散らしたんだ。
きれいだった。
そのあとアスカと交わした会話を、僕は一生忘れないだろう。

アスカは僕の目の前で元気なアスカに戻ったんだ。

そして、お礼だと言って僕の頬にキスをしてくれた。

それから僕の持ってきたお弁当を食べたんだけど・・・、これまで心配してきた僕が馬鹿みたいに思えるほどアスカは元気だった。
でもわがままぶりも元に戻ったみたいで、今度は僕にお弁当を食べさせろだって。
でも、本当にアスカが元に戻ったって言う感じがしてうれしかった。
いや、前よりももっとアスカは違った感じがする。
そうアスカに言ったら、「違うってどんな風に変わったと思う、シンジ?」って聞かれたから、僕は前よりも吹っ切れた感じがするって答えたんだ。
そしたら「・・・それだけ?」って聞かれたからそれだけだって答えたら、

「アンタってばほんとに鈍感で、無神経なんだから!!」

って張り飛ばされた。あんなに強烈なのは初めてあったとき以来かもしれない。
「わかった?このビンタの意味が?」って言われたんだけど・・・、分かるわけないよね、いきなり張り飛ばされたって。僕にはアスカらしいって事くらいしか思い付かないよ。
だからわからないってアスカに答えたんだ。
そしたらアスカは「これならわかるでしょ」って僕の唇に飛びついてキスをしたんだ。
きょう二度目のキスは強烈なものだった。
僕の中でいろいろな想いが渦巻いたけれども、驚きにしびれた僕にはどう考えればいいのかわからなかった。
でも、アスカの気持ちに少しふれた気がした。

そして僕は家に帰った。
一緒に帰ると言ってきかないアスカを、明日検査をして許可が下りたら退院する、という事でやっと納得させて。
そう、明日にもアスカはうちに帰ってくるんだ。


「・・・。」

「・・・これをマヤが読まなかったのは正解だったわね。あの子なら何も言わずに破り捨てかねないわ」

「まさか」

「本当よ。まあどうでもいいけど。ところで、きょう飲みに行かない?」

「アンタから誘うなんて珍しいわね」

「どうせ暇なんでしょ?」

「ア、アタシだっていろいろと・・・」

「あら、行けないの、残念ねえ。だそうよ、加持君」

「えっ?」

「そりゃあ残念だな。じゃ、仕方ないから今日はリっちゃんと二人きりで飲もうか」

「そうしましょ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、アタシも行くってば。待てってばあ」

「ほらおいてくぞ、葛城」

「最初からそう素直に言えばいいのに」

 

 

 

 

あとにはノートだけが残されている。

風が、ノートのページをめくる。

次のページにはシンジらしい几帳面な字で、たった一行の文章が書かれていた。


○月☆日 (第21話〜第23話)


今日、家族が全員揃った。


どこからかセミの声が聞こえてくる。

涼やかな夕暮れの風が、ミサトのデスクに残されたノートをパラパラとめくっていく。

ここは私立第三新東京中学校職員室。ある午後のひとときである。

 

 

第一部あらすじ完




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