「アスカ一行日」十二月分


12月4日
今日は木曜日。っていつもならそれだけなんだけど、今日はいつもとは違う。だって今日はアタシの記念すべき15回目のバースデーで、しかもこの日記も二年目に突入するんだからっ!!
そしてそして更に・・・アタシがずっと計画を練って、早起きして特訓まで重ねた、シンジと一緒に演奏しようって言う壮大なプロジェクトまで実行に移したの。もうこれは・・・言い様のない日よね。まさしく「記念日」っていうのに相応しいもん。当然のごとくシンジのご馳走も山ほど出たしね・・・・いつもは絶対に残り物を出さないように考えて作ってるシンジだけど、今日だけはかなり大量に余らせるくらい色々たくさん作ってくれた。それもアタシが好きなものばっかりで・・・こんな毎日が続いたら、アタシはもう最高!!まあ、甘やかされ過ぎると太っちゃうかもしれないから、たまにって言う程度でいいのかもしれないけど・・・・
パーティーの方はヒカリをはじめとして、みんなを呼び集めた。アタシは普段ならミサトと一緒になってお酒をすすめまくったりするんだけど、今日は真面目に大人しくしてた。そしてシンジにも誰かに飲まされないように注意を払って・・・まあ、アタシの日って事で、アタシとシンジには割と二人っきりの時間をくれたみたいだけど・・・・。夜も遅くなって、みんなも帰った。アタシとシンジは酔いつぶれて自分の部屋に戻ったミサトを気にすることもなく、後片付けをしながら色々話をした。そしてその後は演奏会。シンジもアタシの早朝練習にはやっぱり薄々感づいてたみたいで、驚きもアタシが思ってたほどじゃなかったけど、でも、アタシの申し出には喜んで応じてくれた。二人並んで音あわせをしてから、静かな音色を奏でる。アタシはシンジの弾ける曲しか練習していないし、シンジはアタシが何を弾けるのか知らない。でも、いつのまにか二人の音色はひとつになってた。アタシとシンジ、この日記に綴った一年がまるでひとつに収束していくようで、アタシを不思議な心地よさで包んでくれた。シンジもそれには気付いてみたいで、曲が終わったあと、アタシとシンジ、いつのまにか二人で黙って見詰め合ってた。そして瞳と瞳を合わせたまま、二曲目に突入する。こうして何曲か弾いた後、アタシはみんなのいる前では受け取らなかったシンジのプレゼントを受け取った。それは今までのとは色違いの日記帳。それはほとんど去年と同じだけど・・・シンジの机の上には、それと同じ日記帳があった。アタシはすべてを理解して、そして満面の笑みを浮かべたの。もう言葉なんて、要らないのかもしれないわね。



12月7日
今日は日曜日。いい天気。どこかにお出かけしたくなっちゃうような青空が広がってた。でも、今日は家にこもりっきりだったのよね。
なんだかアタシの誕生日以後、アタシとシンジの関係がまた少し変わってきたみたいで・・・・より自然に接することが出来るようになったのよ。まあ、今までもかなり自然ではあったんだけど、もっともっとシンジに近づけたって言うか、シンジもアタシに近づいてくれたような気がするの。
そんな中、今日は午後の時間のほとんどを費やして、二人でバイオリンとチェロのレッスンをしたの。シンジの奴、結構あの時情けなく思っちゃったみたいで・・・練習して上手くなるんだって言って聞かないのよ。まあ、一緒に練習出来るんだから、アタシとしても文句はないけど、ちょっと公園の観客には申し訳なかったかな?ともかくはじめは二人で交互に弾き合いながら、問題点を指摘してたんだけど、いつの間にやら我慢出来なくなって二人でセッションしてた。まあ、アタシとシンジが弾ける曲って言えば、大した量じゃないからそんな長時間に渡ってた訳じゃないんだけど、二人とも音色を重ねた昂揚感で、弾き終わった後は真っ赤な顔をしてた。アタシはこのままシンジにベッドに押し倒されちゃうんじゃないかって一瞬思ったりもしたんだけど、考えてみればシンジがそんなこと出来るはずないもんね。現実ではただ冷たく冷えた麦茶を持って来てくれただけで・・・・アタシはちょっと期待外れに思ったんだけど、妙においしく感じた麦茶に黙っていることにした。日も暮れてきて、アタシとシンジはどちらからともなくキッチンへ向かって、夕食の支度を始めた。まあ、アタシは料理は全然駄目だから、ほとんど見てただけなんだけど、シンジの背中がアタシを見ててくれるような気がして、何だか心地よく感じた。シンジはただ黙々と料理に励んでいたんだけど、出来た料理はアタシの好物ばっかり。やっぱり黙っていても、二人の間に会話は成立してるんだって、うれしさのあまりおかわりまでしちゃった。最近食べ過ぎかな?って思ってるんだけど、しょうがないわよね。だってシンジはアタシへの愛を込めて作ってくれてるんだから・・・・

12月14日
今日は日曜日。今日もバッチリいいお天気。ほんとなら暑苦しいだけなんだけど、やっぱり空調の効いてる部屋にいると、感覚が麻痺しちゃうわね。
でも、もう最近ずっと外に出かけることがない。まあ、学校の登下校は歩いてるからぐてーっとしてるんだけど、休みの日ともなると・・・・出かけたいんだけどね。
アタシが出かけられない理由、それはアタシ達が受験生だからってこと。アタシはまあ、高校なんてどこでもいいかなーって思ってるんだけど、シンジの奴が、そろそろ受験勉強も大詰めだし、期末試験もあるってことで、やたらと気合い入れて勉強してるのよ。だからアタシもお付き合いでシンジと一緒に勉強。まあ、ほとんどサポート役に徹するつもりなんだけどね。だからシンジ秘蔵のクラシックをBGMに、二人で向かい合わせでシャーペンを握る。シンジは真剣になってる時は他のことに気が回らなくなるから、アタシは時々抜け出しては、家のお掃除をした。シンジを責める訳じゃないけど、ここんとこお掃除もおろそかになり始めてるのよね。更にはお昼の用意をしてみたり・・・流石にそこまで来ると、シンジもびっくりしてたっけ。まあ、アタシが作ったのはただのそうめんだったんだけど、一応色々薬味を作ったりして気を遣ったから・・・とにかくお昼は二人で楽しく食べられた。勉強してる時とかって、あんまりしつこくないものの方がいいだろうしね。午後はシンジがわからない問題をといてみせてあげたり・・・・結構多忙だった。夕方になると流石にシンジもまたアタシに任せる訳には行かないって思ったのか、ちゃんとしたものを作ってくれた。まあ、買い物に行かなかったから冷蔵庫の中のものだけで作ったんだけど、それでもそう感じさせないシンジって、やっぱり凄いわよね。アタシもちゃんとしなくちゃね、花嫁修業!!

12月20日
今日は土曜日。そう言えばそろそろクリスマスよね。取り敢えず期末試験も無事終了して落ち着いたことだし、流石にみんなも受験生と言えどちょっぴりクリスマス気分かな?
そしてアタシは・・・・無論こんな一大イベント、忘れる訳ないじゃない。シンジの方はまだ受験生してるけど、その代わりにアタシがクリスマスの準備をしてあげて・・・まあ、流石にアタシへのプレゼントまでは手配してあげられないけどね。
多分シンジはみんなでわいわいパーティーを開くか、それともちょっとしたご馳走を作るだけでなんにもしないかのどっちかを望んでると思うけど・・・このアタシがそうはさせないんだから。やっぱりここはミサトを追い出して・・・って多分加持さんと二人っきりのクリスマスって事になるからアタシがどうこうする必要もないとは思うけど、とにかく今年のクリスマスは、恋人同士のクリスマスのするのよ。シンジの作ったご馳走にアタシが買ってきた大きなクリスマスケーキとシャンパン。その後二人で何か弾いてみたりして・・・最後にプレゼント交換するの。まだシンジに何をあげるか考えてないけど・・・・取り敢えずこんなもんよね。うちでやらずに外に行ってもいいんだけど、あんまりお金がかかるとシンジもいい顔しないし・・・・これが一番だと思う。まあ、プレゼント交換の後、どうするかは決めてないけど・・・これはどうするか、ってことより、どうなるか、ってことよね。二人のムードも高まって・・・・アタシの記念すべき日になっちゃうかも?こういうのってやっぱりきっかけが大事だと思うし、クリスマスってそういうきっかけの生まれる数少ない機会の一つだからね。シンジはいっつも煮え切らないけど、ここはクリスマス気分ってのに期待することにして・・・サンタさん、アタシへのプレゼントはいらないから、その代わりちょっとだけ、シンジに勇気をちょうだい。シンジにクリスマスの勇気を・・・・

12月21日
今日は日曜日。昨日はシンジ、夜遅くまで勉強してたみたいで、朝になってもなかなか起きてこなかった。
反対にアタシは妙に早く目が覚めちゃって・・・・ぼけっとリビングでテレビを見てた。こうしてシンジを待ってたんだけど、なっかなか起きてこないもんだから、久し振りに襲撃することにしたの。
まあ、遅くまで頑張ってたんだから、ゆっくり寝かせてあげたいって気持ちも当然あるんだけど、シンジのご飯を恋焦がれてる少女がここにいるんだから・・・・起きてこないシンジの方が悪いのよね。アタシはそう決めつけると、起こしに行くくせに足を忍ばせてシンジの部屋へ・・・・シンジの奴、ぐっすり寝てるわね。ほんとに疲れ切ってるのか、物音一つですぐに目を覚ましちゃうようなシンジが目を覚まさない。ほんとにすやすや、って表現が当てはまるような微かな寝息を立ててた。アタシはそんなシンジを見て、何だかこの寝顔をおしまいにしちゃうのがもったいなくって、しばらくじっと眺めてた。こうしてみると、ほんとに女の子みたいにかわいい顔してるくせに・・・・中身は男なのよね。アタシは自分の息で起こしちゃわないように気を付けて顔をゆっくりと近づけると・・・・そっと唇を重ねあわせた。軽く触れ合わせるだけのキス。起こす為のキスじゃなくって、起こさないようにそっとするキス。何だかそんなキスがかわいくって、唇を離した後、少しだけシンジの顔を見つめてから、このまま寝かせてあげることにした。そしてアタシは・・・・自分とシンジの為にブランチをこしらえる。寝起きの胃にもやさしい、アタシの心のこもった手料理を・・・・

12月23日
今日は火曜日。一応天皇誕生日っていう名目で、祝日なのよね。まあ、期末テストも終わっちゃってちょっとだらっとしてるアタシには、そんなに飛び上がるほどうれしいお休みでもないんだけど・・・
ほんと、どうせなら23日じゃなくって、次の24日にしとけばいいのよ。そうすればクリスマスイブで喜ぶカップルがそれこそ万単位で存在するんだろうから・・・
で、アタシもそんな中のひとり。今日じゃなくって明日がお休みだったらっていう気持ちは強い。まあ、学校ももうすぐ冬休みで、明日も半日で終わりなんだけど、それでもやっぱり完全なるお休みとは違う。お休みだったら一日中、シンジに甘えていられるからね。シンジはいつものアタシらしくないって思ってびっくりするかもしれないけど、ほら、そこはクリスマス気分っていう言い訳が通用するじゃない。今年のお正月にシンジと二人で行った旅行では、散々べたべたと甘えちゃったから・・・それに、シンジもそんなアタシに応えてくれたのよね。終わったらまた日常に戻っちゃったけど、それでもアタシ達の中でなにかが変わったのは事実。こうして日常の中の非日常を繰り返すことによって、二人は少しずつ変わっていくの。そして・・・・今度のクリスマスも、アタシはそんな非日常の存在を望んでいる。だからこそもっと時間が、お休みが欲しかったんだけど・・・流石にシンジを脅してずる休みをさせる訳にも行かないし・・・・まあ、ただ妥協すればいいんだけどね。でも、アタシってそういうところには妥協したくないって言う気持ちがあるし・・・難しいところよね、ほんと。まあ、もう時間もないから、ただこうして考えを弄ぶことくらいしか出来ないんだけど!!

12月24日
今日は水曜日。でも、今日は曜日なんてどうでもいいわよね。だって今日はクリスマス、恋人達の祭典なんだから!!
当然のごとくアタシは意識しまくっていたんだけど、それを見せないよう心がけた。クリスマス気分一色の学校。街もクリスマス色に染められてる。こんなじりじりとした日差しなのに、なんだかあの白い雲が雪になって降ってきそうで、ちょっと不思議な気分がした。でも、アタシは目に映るもの、みな見えない振りをして・・・どうしてかって言うと、シンジの自発的意志に委ねたかったから。シンジがアタシのこと、どう思ってるのか知りたかったから・・・・
放課後、気がついたらアタシとシンジしかクラスに残っていなかった。シンジは運悪く週番で、黒板を消したり、細かい作業をしてたの。アタシは何となくそんなシンジを見つめてて・・・そして二人で並んで帰った。いつもと違って意識してるアタシ。そしてシンジも意識してる。言葉少なにいつもの通りスーパーに立ち寄って・・・シンジは何も言わずに、大きなチキンとケーキを買った。それ以外のものはよく見てなかったけど、いつも以上に買い込んでたような気がする。そしてマンションに着くと、シンジは夕食の支度。アタシは・・何となくそんなシンジを眺めてた。テーブルの上にはミサトの書き置き。「今日は二人のクリスマスにさせてあげる」って・・・恩着せがましいと思ったけど、そんなに頭にも来なかった。いつもよりちょっと豪華な食事。でも、クリスマスにしてはちょっぴり慎ましい食事。シンジらしくてアタシはいいと思った。食べるだけのクリスマスなんて、もうアタシは卒業したと思ったから。シンジも料理好きだけど、思いは同じみたい。食事が終わって小さいけどちゃんとしたケーキをふたりで切り分けて食べた。一応蝋燭消しもして・・・灯火に照らされるシンジの顔は何だかいつもと違って見えた。丸いケーキの半分くらいを二人で食べ終えて、何となくフォークを置いた。お風呂が沸いていることをアタシに告げるシンジ。でも、アタシは前から考えてた二人だけの演奏会を・・・シンジは喜んで受けてくれた。最近はシンジも頻繁に練習してるみたい。勉強してるはずのシンジの部屋からチェロの音色が聞こえて・・・きっと気分転換に弾いてたんだと思う。当然アタシも練習は欠かしてなかったから、アタシの誕生日の時よりも、ずっと上手く弾けたような気がした。でも、それだけじゃないと思う。このクリスマスがシンジとアタシをいつもより深く結び付けてくれたから・・・神様なんて信じない。でも、そんな神様の力をちょっと借りて、アタシとシンジは美しい音色に身を任せた。プレゼント交換はない。シンジもアタシも、何故かクリスマスには定番のそれを言い出さない。二人がお互いを求めてる気持ち、痛いほど伝わる。でも、ちょっとだけ勇気がなくて・・・アタシは先にお風呂に入った。そして自分の部屋に戻って、この日記をつけてる。もうすぐ12時。今日はミサトも帰ってこない。そして・・・・アタシは待ってる。神様がもう少しだけ、アタシとシンジに勇気をくれるのを。そして・・・・ほら聞いて。アタシの部屋をノックするこの音を・・・・

12月28日
今日は日曜日。アタシってばバカみたい。シンジだってまだ中学三年生なんだから、しょうがないってわかってるのにね・・・・
そもそもアタシは自分が情けないってのもあって、ここしばらく日記には手がつけられなかった。頭がほんと、ぐるぐるしちゃってたからね。
でも、悪いのはアタシだけ。シンジはほんと、やっぱりってつくほどいい男だった。アタシも期待しててもやっぱり押し倒されたりしたら、シンジのこと、どう思うかなんてわかんないし・・・・だから少しだけ安心したってのもある。それよりも自分が変に期待し過ぎてたのが自己嫌悪。アタシもシンジには釣り合わない女なのかなぁ・・・?でも、シンジはどうやらそんなことは微塵も感じてないみたい。シンジはクリスマスの夜、アタシの部屋に来てくれたけど、それはアタシと語り合う為だったの。そりゃあ今まで、シンジと一緒に過ごす時間なんて腐るほどあったかもしれない。でも、それって単に一緒にいるだけだったり、勉強してたりとかで・・・こうして語り合うことなんて滅多になかった。シンジもそれがわかってたから、そのつもりでアタシのところに来たのかもね。ともかくふたりで膝を合わせて座りながら色々話をした。ここには書ききれないほど色々喋ったけど、アタシは絶対に忘れないと思う。いつもだったらアタシの夜更かしを心配するシンジも、あの夜だけは時間を忘れてくれた。朝までこのままかと思ってたら、シンジはアタシのベッドの上から毛布を引っ張り出して・・・ふたりで一枚の毛布を肩にかけて、そして気付いたら寄り添って眠ってた。目が覚めたらもうくっつくくらいの位置にシンジの寝顔があって・・・アタシはうれしかった。でも、あの時だけは、キスをしなかった。シンジのしてくれたことを思えば、これも当然よね、やっぱり・・・・
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