「アスカ一日記」十月分



10月1日
今日は水曜日。そして新しい月の始まりね。まあ、これと言って何がある訳でもないんだけど・・・・まあ、一応区切りには違いないわね。
区切りって言えば、あと二月もすれば、この日記も書き始めてから早一年。今にして思うと、よくここまで継続できたと、アタシも感心しちゃうな。
でも、やっぱり続く原因ってのはあって、アタシの場合、誰にも話せない想いが多すぎたってのが一番に来ると思う。流石にこの日記に書いてきたようなことは、一番の親友のヒカリにだって話せっこないもんね・・・・まあ、お互い恋する乙女ってことで、わかりあえる点も多いけど、わかりあえててもやっぱり恥かしいものは恥かしい訳で・・・となると内に内にこもっちゃうのよね。アタシでさえそうなんだから、ヒカリはどうなのかな?アタシにはこの日記ってものがあるけど、ヒカリも日記を書いてるなんてことは耳にしてないし・・・どこかで想いを発散しないと、ストレスが溜まっちゃうに決ってるってのにね。同じようにファーストも以前はどろどろになってて、自爆寸前だったけど、最近は開き直ってシンジ(おまけとしてアタシも)に逢いに来てるから、目に見えるように明るく元気になってる。元々ルックスは悪くないから、頬を赤らめてるところなんかは、アタシも時々どきっとしちゃうのよね。シンジの馬鹿も戸惑ってるみたいだし・・・あいつはアタシの顔だけ見てりゃあいいのよ。ファーストの笑顔なんて、ただ物珍しいだけなんだから・・・・

10月2日
今日は木曜日。いつも通り学校に行って・・・つまり日記のネタがないのよ。今までずいぶんだらだらと書いてきたけど、改めて考えてみると、よくこれだけ書くことがあったわね。我ながら感心しちゃうわ。
まあ、書いてることと言えば、九割がたがシンジに関することなんだけど、それ以外のことも案外書いてるのよね。自分ではシンジのことだけかと思ってたのに・・・
アタシは他の連中の書く日記がどういうものなのか、全然知らないんだけど、それらと比較してアタシのはどうなのかなぁ?自分ではちょっと恥かしいくらいな内容だと思うんだけど・・・そう、まるで恋人同士の交換日記よね。シンジに語り掛けるみたいに・・・・でも、実際日記を書いている時は、アタシの隣にシンジがいてくれるような気さえするの。そういう気持ち、別に日記を書く時だけじゃなくって、普段でもシンジに見守られてるんだって言う気はしてるんだけど、絶対にシンジのいないところでは、こうして日記を書いている時がシンジを一番近くに感じる。ほら、今もアタシの顔のすぐ横にはいつもの優しいシンジの顔が・・・ってやめやめ。アタシは妄想女じゃないもん!!シンジを感じてても、それをわざわざ口に出さないのが、かわいい女っていうものよね。現実の話でも、たとえ見つめられてても、顔が真っ赤になっちゃっても、絶対にその事は言わないの。気付かない振りして、そして心だけ通わせて・・・それが暗黙の了解。アタシとシンジ、二人だけの、恋人同士の決まりごとなの・・・・

10月4日
今日は土曜日。今週は何だか眠くて眠くてしょうがなかったけど、ようやくお休みになって満足の行く睡眠がとれるわ。まあ、だからって一日中寝てられる訳でもないんだけどね。
ともかく昨日は日記を書いたらさっさとベッドに入って、すぐさま爆睡。で、平日なら起きなきゃいけない時間になっても、ずっとずっと寝てるの。そう、シンジがアタシを起こしに来てくれるまで。
お休みの日はシンジもあんまりアタシに起きろとは言わないんだけど、それでも流石にお昼近くなって来ると起こしにやって来てくれる。今日も11時をちょっと回ったら、シンジがアタシを起こしに来てくれた。アタシもその頃になると、完全に熟睡してるなんてことはなくって、9時くらいからうとうとを繰り返してるから、シンジがアタシの部屋のドアを開ける音で目が覚める。でも、シンジの楽しみを奪っちゃう訳には行かないよね。だからアタシも、ほくそえみながら寝たふり。そしてシンジは・・・鈍感だからもちろんアタシが起きてシンジを待ってることなんて気がつかない。シンジはアタシを起こしに来るって言うのに、アタシを刺激しないように恐る恐る近付いて・・・そしてやさしくアタシを揺さぶるの。もう、もっと大胆な起こし方でもいいのに・・・でもまあ、あのシンジじゃ無理よね。アタシに手を出す度胸もないんだし・・・って、度胸云々の問題じゃないかな?まだそう言うことに興味がないって言うか・・・とにかくアタシが好きなら、何だっていいんだけどね。そしてアタシはシンジに揺さぶられて、さりげなく丁度今目覚めたように演じる。まさにかわいい目覚め、シンジがおはようのキスをしてみたくなっちゃうような、そんな魅力的なアタシの素顔で・・・ふふっ、シンジもどきっと来てる。赤らめた顔も、かわいいんだからぁ・・・・

10月5日
今日は日曜日。最近ファーストがそんなに頻繁に来なくなった。まあ、来ない訳じゃなくって、一日おきとか二日おきにはちゃんと来てるんだけど・・・・
アタシが思うに、あいつなら毎日来たっておかしくないと思うのよ。大体あいつにはシンジしかいないんだし、うちに来なかったら暇してるんだろうし・・・・
でも、今日来たファーストを見てびっくり。派手じゃないけど小奇麗で可愛い服を着て・・・それだけならあの部屋を見た時に察しはついたんだけど、その手に持っていたものが・・・おっきなキャンバスを持ってたのよ。「最近絵を始めてみたの」なんてシンジに言っちゃって・・・今日来た目的も、シンジにモデルになってもらうためらしい。どういう訳か、シンジをキッチンに立たせて、料理をするシンジを横からデッサンしてる。アタシは油がはねるんじゃないかと思いつつ、ファーストの様子を眺めてたんだけど・・・何だかやけに上手いのよ、こいつ。絵が描けるなんて知らなかったけど、この手慣れた様子を見ればちょっとはかじったことがあるんだって、アタシにもわかる。画用紙に水彩絵の具で描くんなら学校の美術の時間でもやるし、アタシも納得出来るんだけど、油絵用のごっついキャンバスだからね・・・・今日はデッサンだけみたいで、絵の具とかそう言うのは持ってこなかったみたいだけど、でも、そのうちこのうちを油絵の具臭くするんだろうな。まあ、文句を言い出せばきりがないんだけど、アタシは内心不安に思ってる。色々新しいことに取り組んで、新しい自分をシンジに見せてるファーストが・・・アタシはシンジの心をつかんでる自信はあるけど、でも、でも、ファーストの動きも、ちょっと気になる・・・・

10月10日
今日は金曜日。ほんとは体育の日でお休みのはずなんだけど、どういう訳か体育祭なの。全く、祝日を潰すなんて、とんでもないわよね。
まあ、別にアタシは体育祭が嫌な訳じゃなくって、そう言うお祭りは結構好きな方なんだけど、祭りの後の振替休日はもっと好きなんだから・・・
とまあ、アタシはぷりぷりしながらも参加。今日が金曜じゃなければ振替休日もあったんだろうけど、明日が土曜だから世の中そんなに甘くないのよね。でもまあ、シンジお手製のお弁当が食べれたからそれでもいいか。お弁当って言ってもただの普通のお昼のお弁当とは違って、お重算段重ねのすんごい豪華な奴なの。ヒカリもびっくりするくらい気張って作ってきたけど、やっぱりアタシのシンジには敵わないわね。鈴原の奴は意地を張ってシンジのお弁当には手を出さないでヒカリのだけ食べてたけど、視線はしょっちゅうこっちに来て、なかなかいい気分だったわ。で、ファーストはファーストでちんまりとしたかわいいお弁当を持ってきた。生意気にもシンジの分も作ってきたみたいで、シンジのと交換してた。いつものアタシだったら怒り出すとこなんだけど、今日はお祭りだし大目に見てあげた。アタシもちゃっかり味見しちゃったしね。あいつの料理の味はこの前体験済みだけど、やっぱりなかなか侮れない。シンジって料理マニアだから、料理の上手い奴に興味を持っちゃうのよね。ヒカリとも料理についてよく話してるし・・・ヒカリは鈴原といい関係だから気にならないけど、ファーストは露骨にシンジを好きだって意思表示してるから・・・ま、シンジはアタシにぞっこんだから、そんな心配してる訳でもないけどね。

10月12日
今日は日曜日。昨日は一昨日の体育祭の疲れでぐてっとしてて、何にもせずにただだらだらとしていたけど、休みの二日目ともなるとアタシの心も昂ぶってきて、じっとしてはいられなくなる。
だから今日は久しぶりにシンジを引きずって街へお買い物。シンジは男の癖に筋肉痛がどうとかごねてたけど、アタシへの愛情があれば行けないはずないもんね。大体シンジは貧弱なのよ。もっと鍛えてアタシを守れる男にならないと・・・・
でもまあ、そんなことを思いながらも、アタシも恋する女の子だからやっぱりシンジを気遣っちゃって、ウィンドウショッピングもそこそこに、喫茶店に入って一休み。シンジはかなりほっとしてたみたいで、アタシの心遣いが報われてちょっぴりうれしかった。まあ、シンジの奴が気付いているのかどうなのか、わかんないけどね・・・・ともかく喫茶店に入ったのはいいんだけど、お昼を食べてからちょっと時間が経ってたから、アタシはパフェを食べる。シンジはクリームソーダを頼んでたけど・・・・アタシ、クリームソーダも好きなのよね。特に甘いものを食べてると、ソーダみたいな刺激物が恋しくなって・・・・だからシンジの隙を突いてストローをゲット。ソーダでアタシは喉を潤した。するとシンジにしては珍しく、お返しとばかりに生意気にもアタシのパフェを狙ってきた。アタシは当然不慣れなシンジの攻撃を完全に防ぎ、更にその虚を衝いてクリームソーダのお宝、さくらんぼまでも盗み出すことに成功。シンジはそれに気付くとアタシに対抗することの愚を悟ったのか、しょんぼりしてクリームソーダのストローを手にとって、ぐるぐるとかき混ぜ始めた。アタシはそんなシンジがちょっぴり可哀想になって、パフェの長いスプーンでほんのちょっとクリームをすくいとると、シンジの鼻先にぺたっとくっつける。驚いて顔を上げるシンジ。アタシはそっと立ち上がってシンジに顔を近づけると、自分でつけた鼻のクリームを舐めとってあげた。やった自分もやられたシンジも良くわかってなかったけど、何だかそれで全てが水に流れたような、そんな気がしたの・・・・

10月18日
今日は土曜日。カレンダーの日付がどんどん年末に近付くにしたがって、周りの空気も緊迫感を増していく。そう、アタシ達は中学三年生。受験生なのよ。
夏休み後の試験の結果はアタシもシンジも悪くなかったから、そんなピンチには感じなかったんだけど、でも、体育祭が終わってこれから何も行事がなくなると、あとは受験一色となる。アタシだけが取り残されたような気がして、ちょっぴり寂しいな・・・・
でも、ふと周りを見渡してみると、アタシ以外にも一人いた。それはファースト。こいつも勉強してるのかしてないのかわかんないような感じなのに、「優等生」の名を冠するだけ合って、成績だけはいいのよね。でも、最近の受験ムードとは無関係に、我関せずとばかりに料理の本を読んだり、何かスケッチブックに描いてたりする。まあ、そこのところも随分変わったと言わなくちゃならないんだろうけど、でも、やっぱりファーストはファーストね。アタシは何だかそれがうれしくて、シンジとは関係なく近付いてみたの。でも、アタシ単体だと目もくれないのか、一生懸命鉛筆をスケッチブックに走らせてた。アタシはちょっぴりむっと来たけど、これ幸いとばかりにファーストの描く絵を覗き込んでみて・・・・ふふっ、案の定、描いてたのはシンジ。うちで描いてるからその腕前はわかってるんだけど、それでもこうして目の当たりにすると凄いわよね。芸術なんて全くわからないようなこの娘が、こんな上手い絵を描くんだから・・・まあ、機械的なところがある娘だから、上手いことは上手いのかもしれないけど、それプラスシンジへの情感がこもってるのか、単なる模写とは違った印象をアタシに与えた。暇人のアタシと、頑張ってるファースト。何だか差をつけられちゃったみたいで、アタシは自分の席に戻った。やっぱりシンジの愛にあぐらをかいてないで、アタシも何かやらなきゃ駄目だな・・・・

10月19日
今日は日曜日。流石のシンジも早起きはしない日。だからアタシは・・・・こっそり早起き。シンジに起こされる楽しみが無くなっちゃうのは悲しいけど、それ以上に大事なこともあるもんね。
と言う訳でアタシは目覚ましを5時にセット。流石に5時起きはかなり辛かったけど、アタシは昨日荷造りしておいたバッグを持って外へ。もちろん日曜のこんな時間に、表に誰もいる訳無いわよね。
と思ったら、案外朝もやの中、人がいたの。犬を連れて散歩してる人とか、ジョギングしてる人とか・・・アタシは見知らぬ世界を垣間見たような気がして、ちょっとびっくり。それに、アタシ自身が何だか家出少女みたいで違和感感じちゃったし・・・・まあ、ともかく言ってても始まらないから、公園に向かう。そして早速ベンチに腰掛けて・・・バッグを開ける。中にはバイオリンのケースと譜面。アタシ、実はちょっぴりバイオリンをかじってたんだけど、シンジをチェロを馬鹿にしたことがあって、それより下手なアタシのバイオリン、なかなか言い出せなかったのよね。でも、シンジも最近練習してる訳じゃないから、上達もしてないだろうし、あの頃のシンジくらいなら、みっちり練習すれば追いつけるかも、と思って・・・・ファーストに対抗して絵を描いてみてもいいんだけど、あいつの絵、どう見ても玄人裸足だもんね。アタシが頑張ってもそう簡単には追いつけないだろうし、バイオリンなら、シンジと二人で合わせて演奏できるもんね。考えてみると、どうしてアタシはバイオリン、やんなかったんだろう?どう考えてもシンジと一緒に感じられるものなんだから、やっても当然なのにね・・・やっぱりアタシ、シンジのやさしさにあぐらをかいてたのね。そう決意してバイオリンの練習開始!!でも結果は・・・・まあ、初日はこんなもんよね。久々だったんだし、そのうちすぐ慣れるわよ。そしてシンジをびっくりさせてやるの。そう思うと、なんだかすっごく楽しみだな。

10月29日
今日は水曜日。毎日毎朝、バイオリンのレッスン。はじめは傍迷惑にも思えるような音しか出てなかったけど、ようやく最近は・・・音楽になってきたわね。
アタシは周りのことなど気にしないで一心不乱に特訓してたから、周りの様子なんて気にも留めなかったけど、今日一息ついて帰ろうと思ったら、数人の人がアタシに拍手してくれた。ただのへたっぴなバイオリンだって言うのに・・・
でも、アタシは全然気付かなかったけど、結構熱心に聞いてくれてたみたいで・・・アタシもちょっと話を聞いてみることにした。散歩途中のおじいさんとかだから、難しいクラシックの曲名なんて知らないみたいだけど、でも、わからない人にこうして喜んで貰えるなんて・・・なんだかちょっぴりうれしいな。アタシは単なるお義理でもないアンコールの声に、思わず調子に乗って少ない観客の為に一曲弾いてみた。練習中の時とは違って、本格的に人に聴かせるために・・・アタシの意気込みは空回りしちゃって、短い曲の中でも何ヶ所か失敗しちゃったけど、それでもアタシは何だかうれしかった。何にも無いアタシをこんなに喜んでくれるなんて・・・アタシも学校があるし、早く帰らないとシンジに見つかっちゃうからさよなら言って家路に就いたんだけど、何だかうれしくってうれしくって・・・ベッドに潜り込んで何気なくシンジが起こしに来てくれるのを待ってても胸がどきどきしちゃって・・・シンジがアタシの部屋に入ってきた時、思わずこっちから飛びついてキスしちゃった。シンジは思いっきりびっくりしてたけど、でも、怒ってはいなかった。アタシのしてること、ばれてるとは思えないけど・・・・どうなんだろ?やっぱりシンジはやさしいから、こんなころころと変わるアタシにも愛想尽かししないのかな?それとも・・・・ふふっ、早くシンジと一緒に演奏できるようになりたいなーっと!!
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